宅配ピザの「Mサイズ」はたいてい8等分。これには私たちが「しやすい」と感じる仕掛けが詰まっています。
日常におけるさまざまな「しにくい」を「しやすい」に変えるのに必要なのは、上手に「分ける技術」。コクヨのワークライフコンサルタント・下地寛也さんの著書で、ありそうでなかった「しにくい」の解決を探った『「しやすい」の作りかた』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。
宅配ピザの「Mサイズ」はたいてい8等分である。これには様々な「しやすい」が詰まっている。もしも、ピザが8等分でなかったら、どんな問題が起こるだろう?
まず、「切りやすい」を考えてみる。
円形のピザを半分にカットしていけば、1/2→1/4→1/8となる。8等分は切りやすい。これなら不慣れなアルバイトでもミスなくできるだろう。
これがもし10等分だとどうか。円形のピザをまず半分にしたあと、半円を5等分しなければならない。おそらく2:3の比率でカットし、そのあと2/5のものをさらに半分に、3/5のものを3等分に切る必要がある。これはなかなか難しい。
ちなみに「Lサイズ」のピザは12等分の場合が多い。これもまず半分、1/4とカットして、最後に1/4ピースを3等分するわけだ。1/4ピースまでくると、もちろん半分に切って1/8にするよりは難しいが、3等分にするのもそれほど難しくないだろう。つまり、「誰でも切りやすい」ことは、分ける上で重要な要素と思われる。
次に「食べやすい」はどうか。
食べるときには、手で持ち、口に運ぶ。手におさまりやすく、かつ口に入れやすい大きさというものがあるはずだ。あまり細すぎると持ったときにヘタッとなって具材が落ちてしまう。逆に、大きすぎると持ちにくく、口に入れにくい。だから10等分でも、6等分でもなく、8等分がちょうどよく、食べやすいだろう。
最近のピザはハーフ&ハーフや4つの味を楽しめるものもあるので、そういう面でも8等分という切り方は都合が良い。ひと切れが細すぎると、のっていない具があるピースができてしまいそうだ。
家族やパーティーでの分けやすさもちょうどいい。2~4人くらいで分けやすい。3人のときはキレイに割り切れないが、Mサイズなら2枚くらい頼むと思うのでひとり5ピース前後でいろんな味を楽しめる。
では食べる量を「調整しやすい」という視点を考えてみよう。
これは、ひと切れが小さいほうが摂取するカロリー量を調整しやすい。8等分だとすると、ひと切れのカロリーは、種類によって違うがおよそ150~200キロカロリー。
一般的に、外食に行くと500キロカロリーならヘルシーメニュー、1000キロカロリーならボリュームメニューというイメージだろう。
ピザで考えると、2切れなら300~400キロカロリー、3切れなら450~600キロカロリー、4切れなら600~800キロカロリーとなる。子供なら2切れ、成人女性なら3~4切れ、成人男性なら4~5切れ食べるとちょうどいいといったところか。
もし、ピザが6等分だとすると、ひと切れのカロリーが200~270キロカロリーとなる。2切れなら400~540キロカロリー、3切れなら600~810キロカロリー、4切れなら800~1080キロカロリーとなる。8等分のほうが自分のおなかと相談して量を調整しやすい。
では、最後に見た目が「美しい」という視点ではどうだろう。
6等分だとカットした先が8等分より鋭角的ではなくなる。角は鋭角のほうが美しく、美味しそうに見える。ケーキにしても、イチゴにしても、尖った先を食べる瞬間が好きだという人は多そうだ。
一般的なMサイズのピザが8等分である理由は、このような複数の理由(切りやすい、食べやすい、分けやすい、食べる量を調整しやすい、美しい)のバランスで決まっている。結果、売り手にも買い手にも8等分が「わかりやすい」と感じるわけだ。
「わかりやすい」と感じるものは心地が良い。自分が買う側、使う側だと、「さすがこの分け方は絶妙だな」とうれしくなる。しかしながら作り手の立場になると「わかりやすい」分け方を探すのは難しく感じるものだ。いろいろな分け方があり、何を優先すればいいのかわからなくなるからだ。
たいてい、不自然さや不便さを感じるときには、「わかりやすい」分け方になっておらず、何らかの問題があるはずだ。すべての分け方は複数の視点の上に成り立っているバランスの問題だ。「わかりやすい」という感覚をつかむことがまずは重要になってくる。
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