注文した「冷やし中華」がメニューに載っていた写真と違うものだった──。仕事の休憩時間にランチを食べに行った飲食店で困惑したという都内在住の男性が弁護士ドットコムニュースに情報を寄せました。
まだ暑い日が続く9月上旬に飲食店を訪れた男性。少しでも涼しさを感じられるものを食べようと、「冷やし中華」を注文しました。メニューにあった写真では、ハムやキュウリ、錦糸卵に海苔などが具だくさんな盛り付けがされており、期待して料理を待っていました。
ところが、出てきた冷やし中華を見てびっくり。ハムは炒めた甘い味付けの肉に、錦糸卵はゆで卵になってました。キュウリは軽く添えられただけで、写真にはなかったニンジンが入っており、海苔に至っては一切存在しません。麺も微妙にほぐれておらず、塊のように皿に乗っていました。なお、メニューになかったミニトマトがなぜか卵の上にありました。
あまりの違いに、男性も「これってメニューにあった冷やし中華ですか?」と店員に聞いたものの、「同じですよ」と雑な返事をされたため、諦めてそのまま食べたそうです。「味は普通に食べられましたが…『違う、そうじゃない』と言いたいです」(男性)。
なお、男性の話を聞いて興味を示した会社の同僚女性が、同店で同じ「冷やし中華」を試しに注文してみたそうですが、海苔がのっている以外は同じものが出てきたそうです。食べた感想としては「ハムが肉になっていてより豪華になっていたようにも?味は美味しかったです」。
メニュー写真と寸分たがわず同じものを提供することまで求めないにしても、具材まで異なれば文句の一つも言いたくなるかもしれません。メニュー写真と実物があまりにかけ離れていた場合、作り直しや返金を要求することは可能なのでしょうか。大和幸四郎弁護士に聞いた。
──メニュー写真と実物がかけ離れていた場合、どんな法的問題が発生し得ますか。
今回のケースでは、店と客との間で「冷やし中華」についての供給契約が成立しますので、店は客に対し「冷やし中華」を提供しなければいけません。その際、海苔の枚数が1枚少なかったなどのわずかな違いであれば、あまり問題にならないと思います。
問題は、今回のようにメニュー写真と実物がかけ離れている場合です。
この場合、店は客に対して、供給契約に基づいた「債務の本旨に従った履行」、すなわち両者間で合意した「冷やし中華」を提供したとは評価されないでしょう。
そのため、店は債務不履行責任を負うことになります(民法415条1項)。客側としては、「作り直し」や「返金要求」が可能になります。
今回のケースは、写真を見た限りではあまりにも実物と違いますので、私だったら、作り直しや返金を要求すると思います。
──男性は諦めて食べてしまったようですが、それでも作り直しや返金を要求することは可能なのでしょうか。
食べてしまった場合は、実物の提供を受け入れた、すなわち「事後の承諾」があったとして、原則として作り直しや返金などの法的請求はできません。
ただし、「債務の本旨に従った」冷やし中華が提供されなかったのは店側の落ち度であり、積極的に承諾したのではなく、しぶしぶ食べたようなケースでは、過失相殺の法理(民法418条)で一部返金を認める余地があるかもしれません。 なお、同僚女性が注文した際にも、海苔がのっている以外は同じものが出てきたということですが、もし仮に店の行為は常習的かつ悪質だとすれば、詐欺罪(刑法246条1項)が成立する可能性もゼロではないです。
猛暑の中で冷やし中華を食べるのですから、客が気持ちよく食べるためにも、店にはメニュー写真と比べても違和感ないものを提供して欲しいと思います。
【取材協力弁護士】大和 幸四郎(やまと・こうしろう)弁護士佐賀県弁護士会。2010年4月~2012年3月、佐賀県弁護士会・元消費者問題対策委員会委員長。佐賀大学客員教授。法律研究者、人権活動家。借金問題、相続・刑事・男女問題など実績多数。事務所名:武雄法律事務所事務所URL:http://www.takeohouritu.jp/