故人のご遺体を火葬し、その人生を締めくくる場所「火葬場」。今でこそクリーンな運営をしている場所が多いが、かつては火葬場で陰惨な事件が起きていたこともある。
【衝撃画像】「遺体から脳を盗み、高額で売りさばいていた」群馬の火葬場で起きた“日本を揺るがす大事件”を画像で見る
1933年に起きた「桐生火葬場事件」もそのひとつだ。群馬県桐生市で火葬場職員が、火葬場に運ばれてきた遺体から脳漿(脳のまわりを満たしている液)を盗み、高額で売りさばいていたとして、当時、日本中で話題になった。
なぜこんな事件が起きてしまったのか。犯人はどのような経緯で犯行に及んだのか。ここでは、元火葬場職員・下駄華緒氏が、火葬場で起きた事件を徹底調査してまとめた書籍『火葬場事件簿 一級火葬技士が語る忘れ去られた黒歴史』(竹書房)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
写真はイメージ GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート
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数々の衝撃的な事件を扱う本書だが、その発端となった事件がある。それが群馬県桐生市の火葬場で起きた桐生火葬場事件だ。
前著『火葬場奇談1万人の遺体を見送った男が語る焼き場の裏側』でも触れているが、ここでは改めて詳細に事件の経過を追っていこうと思う。
昭和8年(1933)4月14日に事件は発覚した。これはとある新聞記事に書かれていた内容である。
暖かい春の陽気が心地よい昼下がりだった。渡良瀬川(わたらせがわ)の河川敷近くの雑木林で、近所の子どもたちが遊んでいた。すぐ裏には、トタン製の塀でぐるりと囲われた、桐生市の火葬場がある。
軍隊ごっこをして遊んでいた子どもたち。うちひとりの男の子が斥候(せっこう)役になって走りだした。彼は坂を駆け上がり、そのままトタン塀の角を曲がって見えなくなる。
ほかの子どもたちは斥候役の子が帰ってくるのを待っていた。しかし、なかなか戻ってこない。
「みんなで見に行こう」
リーダー格の少年がそう言って、彼らも塀を曲がっていく。
すると、火葬場の西側にある臨時のごみ捨て場に、斥候役の少年がしゃがんでいるのが見えた。彼は我慢できずに“大きいほう”をしていたのだ。
しばらく待っていたが、やがて気張り終わったのか、ようやく立ち上がる。そして自分から出たモノのうえに土をかけようと、靴でごみ捨て場のなかをかき回した。
すると、かき回した拍子に土の塊がごみ捨て場のくぼみに落ちる――その瞬間、異様なにおいが彼らを襲った。
魚の内臓が腐りきったものをさらにひどくしたような、耐え難い悪臭……。突然あたりに漂ってきたにおいに仲間同士顔を見合わせていたそのとき、いつの間にか野犬がそばに寄ってきた。
そして悪臭のもとである窪みに鼻先を突っこんだと思うと、そのまま何かを咥えて引きずりだした。
細長い棒のようなもの。全体的に青白いが、ところどころ青黒い部分があったりする。これはなんだろう……と目を凝らしてよく見てみると、細長いモノの先端に5本の指がついている。なんとそれは人間の腕だったのだ。
そこで子どもは初めて、これが人間の遺体だということに気がつき、大慌てで大人に知らせにいった。

通報を受けた警察らが調べると、ごみ捨て場にあった遺体はふたりぶん。身長5尺3寸(約160センチ)ほどの40歳くらいの男性と、それよりも少し小さいくらいの40歳くらいの女性であることがわかった。犬が引きずりだした腕は、女性のほうの腕だった。
どちらの遺体も衣服はなく全裸。下半身は焼かれたのか生焼けの状態であり、上半身の胴体部分には黄色い斑点があった。
ごみ捨て場の状況を詳しく検分していくと、どうやらごみ捨て場で何かの事件が起きたわけではなく、ほかの場所から運んできてここに遺棄されたこともわかった。
「半年くらい前にこの火葬場でおもに働いていたのは誰かね」
生焼けの状態や腐乱の進行具合から死後半年ほど経っていると推定した警察は、当時の職員が怪しいとにらみ、現在の職員に尋ねた。すると、
「M井です。あの飲んだくれで有名なM井勘次郎です」
そう職員が答えた。このM井という人物は近所では素行が悪くて有名で、市民から「乱暴勘」「飲んだくれの勘」などと影口を叩かれるほどに嫌われている男だった。
あのM井が殺人を働いたのか。だがそれもふだんの素行から考えれば納得がいく話である。警察はM井の家へ押しかけてすぐさま署に連行した。

当初は「俺は何も知りませんよ」などと関与を否定しながら黙秘していたM井だったが、取り調べに根負けしたのか、翌日には自分の犯行を自供した。
M井はいったん火葬に伏した遺体を半焼けのうちに火葬炉から引きだしてここに死体を遺棄したという。ごみ捨て場から見つかったふたりの遺体は、その所業の成れの果てだったのである。
その目的について、M井は相変わらず黙秘していたが、遺体の金歯や指輪など貴金属類を盗むことが目的だったと見られている。
火葬中に引きだして用済みになったらポイとはひどい話だが、ここまでならただの一事件で片づけられていただろう。
しかしこのM井は、火葬場で17年間も働いてきたベテラン職員だった。つまり彼はそのあいだもずっと犯行を続けてきていたのだ。その数は想像すらできなかった。
〈「雑木林から200体以上の死体が見つかった」火葬場職員が遺体から脳を取り出し、高額で転売…群馬で“日本を揺るがす大事件”が起きてしまったワケ〉へ続く
(下駄 華緒/Webオリジナル(外部転載))