徳島と高知の県立美術館で所蔵されている絵画の中に「贋作」(模倣された偽物)の疑いがある作品が相次いで見つかり、大きな騒動となっている。はたして贋作は法的にどのような問題があるのだろうか。
徳島県立近代美術館は7月12日、フランスの画家、ジャン・メッツァンジェの「自転車乗り」として所蔵してきた作品について、真贋に疑義が生じたとして、7月27日から開催の展示会での展示を取りやめると発表した。
美術館によると、この作品は、1999年に6720万円で購入したもの。今年6月、ドイツのヴォルフファング・ベルトラッキ氏の贋作である疑いがあると、県外の美術関係者から情報が寄せられたという。ベルトラッキ氏は世界的に有名な贋作師とされる。
美術館は現在、作品の納入先や作品総目録の編集先に問い合わせており、さらに絵の具の成分の分析など「科学的な調査」の手配をすすめている。弁護士ドットコムニュースの取材に対して、その結果が出るまで2~3カ月かかる見通しだとしている。
高知県立美術館も7月12日、ドイツの画家、ハインリヒ・カンペンドンクの「少女と白鳥」について真贋に疑義が生じたと明らかにした。ベルトラッキ氏の贋作である疑いがあり、今年6月、徳島県立近代美術館から連絡があったことで発覚した。
美術館によると、こちらも調査を進めており、秋ごろに結果が出る予定だ。仮に「贋作」だとしても、ヨーロッパなどで贋作を集めた展覧会が開かれていることから、そのような展覧会に出品することも「やぶさかではない」としている。
高知県立美術館によると、ベルトラッキ氏は1951年生まれで、これまで数百点の絵画を贋作してきた。既存の有名な作品の模写ではなく、その画家のスタイルを真似て「オリジナル」の絵画を描くことを常としているという。
2010年、贋作が発覚して逮捕されて、懲役6年の有罪判決で収監されたが、減刑されて2015年に釈放されている。なお、NHKなどによると、ベルトラッキ氏は取材に応じて、問題になっている作品について「自分が描いた」などと認めたという。
こうした「贋作」は法的にどのような問題があるのだろうか。室谷光一郎弁護士に聞いた。
――いわゆる「贋作」を作成することはどのような罪に問われますか?
国内法でいえば、権利や義務や事実の証明にあたる文書・図面の類あれば、その作成は私文書偽造罪(刑法159条)や、公文書偽造罪(刑法155条)にあたる可能性があります。
偽造の印であれば、その作成は私印偽造罪(刑法167条)、公印偽造罪(刑法165条)、御璽偽造罪(刑法164条)にあたりうるでしょう。
また、著作権の保護期間中であれば、著作権法違反(21条)にあたる可能性があります。さらに商標法違反(78条)や不正競争防止法違反(2条)として、刑事罰に問われることもあります。
――もし贋作を販売したらどのような罪に問われるでしょうか?
贋作であると知っていたにもかかわらず、本物だと他人を欺いて販売することで、利得を得ようとした場合には、詐欺罪(刑法246条)にあたる可能性があります。
【取材協力弁護士】室谷 光一郎(むろたに・こういちろう)弁護士1975年大阪府高石市生まれ。1999年一橋大学社会学部卒業、2001年一橋大学大学院社会学研究科終了。テレビ・出版関係の会社勤務を経て、2008年司法試験合格、2009年弁護士登録(大阪弁護士会)。事務所名:室谷総合法律事務所事務所URL:http://murotani-law.jp/