「何事にも動じない、平常心を維持できる人間になりたい」
「喜怒哀楽に振り回されない人間になりたい」
「上司、部下、取引先、苦手な人の前でも堂々としていたい」
「緊張しやすい性格を何とかしたい」
仕事でもプライベートでも、メンタル面で悩みを抱えている人は少なくない。そんな悩める人たちに向けて、陸上自衛隊の幹部(陸将、西部方面総監)としてさまざまな現場を指揮してきた小川清史氏がプライベートで密かに実践してきたメンタルトレーニング「心の道具化」を伝授する。
※本記事は、小川清史:著『どんな逆境でも、最高のパフォーマンスを発揮する 心を「道具化」する技術』より一部を抜粋編集したものです。
「自分の心」と「自分自身」はまったくの別物です。
しかし、メンタル面で悩みを抱えている人にとっては、心は「道具」ではなく「自分自身」になってしまっています。
むしろ「心」は、喜怒哀楽などを通じて「本当の自分」を意識するための「道具」であり、「自分」がそれを意識的にコントロールすることで、人生をより良く、楽しく生きることができるようになると私は考えています。
「心」が「自分」によってコントロールされるべき「道具」だと認識するだけで、心のコントロールに対する意識が高まります。
「体(肉体)」も自分を構成する大切な要素のひとつです。私たちは自分の心と体で「自分」という存在を認識し、自分以外と区別しています。
しかし、「心」と同様に「体」も「自分自身」ではありません。
体は「自分」がこの世に生きるための道具であり、「心を表現する道具」だと言えます。
日常ではあまり意識されないことですが、普段私たちの体を動かしているのは心です。
心が嬉しい時には、顔が笑顔になり、両腕を上に上げたり、ガッツポーズをしたりして、体がジェスチャーで心の喜びを表現します。逆に心が悲しい時には、目から涙が出て、顔も悲しそうな表情になります。
「心や体を道具とみなす」と聞くと、言葉の上ではどこか冷たくて怖い響きがありますが、実際のところ、自分が愛用している道具よりも、自分自身の心と体を大切にしていない人のほうが多いのではないでしょうか。
自分の愛車をろくに整備やメンテナンスもせず、エンジン全開でぶっ飛ばして乗り回す人は少ないと思います。しかし、自分の心や体に対して同じようなことをしている人は、けして少なくありません。
「心」と「体」は「自分」がこの世に存在するための「最も大切な道具」です。
自分の大切な道具と同じように(むしろそれ以上に)、大切に扱う必要があります。
車と同じで、良い性能を維持しようと思えば、適度にエンジンを動かしたり、定期的な整備やメンテナンスが必要になってきたりします。調子に乗って飛ばし過ぎれば当然壊れます。
自分の愛車であれば、「適度な運用」のイメージがわきやすく、実際にそれに取り組めるのに、いざ自分の心や体のことになると、同じ「道具」でも無茶や無理をさせがちです。体や心が悲鳴を上げているのに、アクセルを踏み続ける人がいることも珍しくありません。
一方、「道具」である以上は、使わないまま放置し過ぎてもさまざまな“不具合”が生じます。
体の場合は、肥満や病気等の知覚できる変化でその“不具合”を比較的イメージしやすいでしょう。実は心も同じです。
心をコントロールすることなく、好き勝手にわがまま放題にさせていれば、自分の思い通りにいかないとすぐに不満を感じる心にだんだんとなっていきます。
人間が年齢を重ねた時に、いわゆる「怒りっぽい頑固ジジイ」になるか「優しい穏やかなおじいさん」になるかは、そこに差があるように思えます。
ちなみに、私の父は戦前の教育を受けていたこともあり、「昭和の親父」そのもので、頑固で怒りっぽく、一度言い出したら人の言うことを聞かないといった性格でした。
若い頃の私も似たような性格だったので、当時は性格は遺伝するものだと信じていたのですが、心を「道具」として捉え始めてからは、「仮に遺伝だとしても自分の代で(努力次第で)この性格を変えられるのじゃないか」と思うようになりました。
そして、心のコントロール力を向上させようとトレーニングに励んだ結果、たとえ性格のようなものでも変化するのだということを実感しました。
つまり、常日頃の「心の使い方」次第で「自分の心」も変化していくということです。
体をもっと健康にしたい、高級品で着飾りたい、お金を増やしたい、より良い生活がしたい……等々、どうしても人間は目に見えることに関心や希望がいきがちになります。
もちろん、それ自体はけっして悪いことではありません。
しかし、希望がいき過ぎて欲望となり、欲望が増えると、意識するしないにかかわらず、「心」で感じる悩みや心配事が増えていきます。心を上手にコントロールしないまま、欲望が増え、欲望に支配されると、心がきつくなってくるのです。
みなさんも、自分で思うように心をコントロールできれば、人生が楽になるだろうなと思われることでしょう。
しかし、これまでの自分の人生を振り返ってみると、心のコントロールの難しさを実感するのではないでしょうか。
幼稚園や小学校低学年の頃は、心を悩ませるような欲望はほとんどなかったはずなのに、大人になるにつれて、自分を良く見せたいとするプライドや、世間体を慮(おもんぱか)る気持ち、金銭欲や出世欲が出てきます。
おそらく多くの人が心身の成長とともに、プラスの良い心(思いやりや優しさ、困難に立ち向かおうとする気持ち、感情を鎮める落ち着き等につながる精神要素)を作ってきた一方で、それと同じくらいかそれ以上にマイナスの心(他の人より優位に立ちたい気持ち、感情や欲望に起因する悩みや不安等につながる精神要素)も作ってきたことでしょう。
現在の「心のあり様」は、これまで「心」が受けてきた外界からの信号にどのように反応・対応してきたかの積み重ねによって決まります。
すなわち、他人に悪口を言われたことなどに対して腹を立てたり、傷ついたり、必要以上に反応・対応を積み重ねてきた結果が、今の自分の「心のあり様」を規定しているのです。
人間の心は、自分で認識できる顕在意識と、自分では認識できない潜在意識の二種類に分けられます。言うなれば「表面的な心」と「潜在的な心」です。
普段、表面的な心で意識したことが、潜在的な心に蓄積され、その蓄積された材料が今度は表面的な心に影響を与えます。
例えば、潜在的な心にマイナスの材料が多く蓄積されていくと、表面的な心もその影響を受けてマイナスの感情を起こしやすくなります。
つまり、その時々の「心のあり様」が潜在意識の中に入り込み、それが今の「自分の心」にも影響を与えているのです。
逆に言うと、心をコントロールし、常日頃から表面的な心をマイナスにしないように気を付け続けることで、潜在意識も次第に変化していきます。
元・陸上自衛隊員が現役時代に出会った「ヤバい上司」…「共通する特徴」が衝撃的だった