先日、AbemaTVで「托卵妻」が紹介された。筆者も立ち会わせていただいたその番組内では、実際に「父親が違うことを知らされた30代男性」が登場、昨年、人間ドックを受けたとき両親からは生まれない血液型だったことを初めて知った。母に電話をしたところ、母は黙り込み「実は……」と昔、不倫をしていたことを認めたのだそうだ。
父親や弟には黙っていてほしいと母に頼まれ、彼は沈黙を貫いている。しかし、父がかわいそうであること、母への複雑な気持ち、さらには母と不倫していた男性への恨みが心にあると告白した。
「托卵女子」「托卵妻」が話題になっている。自分は独身で既婚男性の子どもを妊娠しようとする「托卵女子」より、今はむしろ自身も結婚していながら不倫相手の子を妊娠し、夫には何も言わずに育てていく「托卵妻」のほうが多いかもしれない。
きちんと統計がとれる話ではないが、生まれた子の6パーセントほどが夫の子ではないとも言われている。筆者が複数の産婦人科医に聞いたところでは、「白状する人はもちろん少ないが、状況を見ていると、世間が思っているより夫以外の男性の子というケースは多い」「10人にひとりくらいはいるような気がする」という。
そもそも「托卵」とは、動物の習性のひとつで、特にカッコウなどの鳥類が他の鳥の巣に卵を産みつけてその巣の親に自分の子を孵化、育てさせることを言う。そこから言葉の拡大解釈がなされ、夫以外の男性の子を妊娠、夫にその子を育てさせることへと発展した。
托卵妻が現実として増えたのかどうかはわからない。昔から、そういうことはあったのかもしれない。ただ、既婚女性の不倫が増えたのは、ここ30年ほど不倫の取材をしていると明らかな事実だと思う。そして女性たちが自分の欲望を隠さなくなったのも事実。
一方で科学が発展したことにより、一般人でもDNA検査ができる今、「いざとなったらバレる可能性」が飛躍的に高くなってもいる。そんな危険を冒してまで、彼女たちが托卵を企むのには、いくつかの理由がある。
ひとつは「たまたま妊娠して、どちらの子かわからない」、2つめは「不倫相手を好きすぎて、なにか証がほしくなった」、そして3つめは「夫より優秀な遺伝子がほしい」。他にもあるかもしれないが、今のところはそう分析できる。
リツコさん(40歳・仮名=以下同)に初めて会ったのは半年ほど前だった。彼女から、「もうじき臨月なんですが、子どもは夫の子ではないんです」というメールをもらった。
早速会ってみると、彼女は大きなお腹を手で支えるようにしながら現れた。
「彼とつきあうようになったのは2年ほど前。ふたりとも既婚だから深い関係になるのは避けていたんですが、あるときお互いに気持ちを抑えられなくなりました」
そこから関係が始まった。彼とは職場が同じだが、シフト制の仕事のため、時間のやりくりは大変だった。リツコさんには結婚して12年になる夫との間に、当時10歳と7歳の男の子がいた。夫は子どもたちをとてもかわいがっていたし、面倒見もいい。共働きなので夫は率先して家事を引き受けてもくれていた。
「本当にいい人だし、一緒に家庭を築くのは夫がいちばん。だけど私、恋をしてしまったんです、同僚の彼に。しかもその恋心は生まれて初めてというくらい強烈でした。最初はふたりとも離婚して一緒になろうという話も出ました。でも私は家庭を捨てられない、彼にも子どもがいるし、やはり家庭は大事だと。会うたびにうれしいけどせつなくて悲しい。そんな日々でした」
だがあるとき、リツコさんは思いついたのだ。彼の子を産もう、と。妙案だと思ったと彼女は笑顔を見せた。
「ずっとつきあっていくつもりだけど、先のことなんて誰にもわからない。彼と別れる日が来るかもしれないし、彼が突然、死んでしまうかもしれない。何があっても私が彼を愛した証、そして愛された証がほしかったんです。彼の子を産めば、ずっと証が残る。そうだ、そうしようと思いました」
彼にその話をすると、最初は思ったような反応ではなかった。喜んでくれると思ったのだが、「それはダンナさんに悪い」「僕が直接育てられないのはつらい」と言うのだ。リツコさんはめげなかった。
「たまには会わせるし、夫は疑ったりしないから大丈夫と説得しました。あなたと私の子が生まれたら楽しいでしょうと何度も何度も言って。彼もだんだん“洗脳”されたのか、そうだね、できたらいいねというようになった。それで避妊を解除したんです」
夫とはほぼレス状態だったため、問題はないと彼女は彼にも伝えた。そしてあるとき、彼女は彼とのセックスの直後、「これはいける」と確信したのだという。
「科学的じゃないし証拠もないけど、女の勘ですかね。今ので妊娠する、と思ったんです。その日、夫は珍しく飲み会があって酔って帰ってきました。酔って寝ている夫を襲って、“したこと”にしたんです。
翌朝、夫に『酔ってするのはやめてよね』と冗談めかして言うと、『えー、そうだっけ。昨日はあまりにも楽しくてつい飲み過ぎたんだよね』と上機嫌。これで証拠もできたと思っていたら、やはり妊娠していました。奇跡みたいなことだと自分でも思ったんです。この子は祝福されている、と」
文字にすると彼女が「不思議な人」のようだが、そんなことはない。ごく普通の社会人であり、よき母でもある。スピリチュアル的なことには関心がないと断言してもいた。それでも、不思議なことは起こるのだ。
過去2回より、今回の妊娠中のほうがずっと楽しかったと彼女は言う。職場で彼に会うと、こっそり「体調はどう?」「大丈夫?」と聞いてくれる。妊娠を公にしたときには「本当の父親は僕だと言いたい。悔しい」とつぶやいた。リツコさんは「誰にもわからない秘密を、私たちはふたりだけで守ってるのよ」と諭した。彼はとたんにうれしそうな表情になったという。
「彼がある意味で単純だから成立したことかもしれません。それは夫も同じで、自分の子と信じて疑おうともしない」
リツコさんと会って1ヵ月もたたないうちに無事に女の子を出産したと連絡をもらった。入院中、誰も来ない時間帯に彼を呼び、子どもを抱かせたら、彼は涙を流していたそうだ。
「一緒に育てたいけど、無理なんだよねって寂しそうでした。だからこれからも会わせるし、写真も送るからとなだめました」
退院すると、夫は毎日、「女の子はかわいいなあ」とつぶやきながら世話をしている。上の男の子たちも、年の離れた妹に興味津々だった。
育休中も、リツコさんはときどき彼に娘を合わせた。やはり娘は彼に似ている。特に耳の形や目のあたりがそっくりだ。だが夫は「僕に似てるよね」と言う。彼女は夫に「うん、そっくり」と答えた。
半年後、保育園にあきができたのでリツコさんは職場復帰した。時短で働きながら、彼との関係も続いている。
「彼にも子どもがいますが、男の子なんです。娘の写真や動画を見せると、繰り返し見ていますね。ときどき会わせてもいますよ。ずっと飽きずにあやしてる」
いつかバレるときが来るとは思えないと彼女は言う。
「どういうときにバレるのかを考えると、夫が疑ってDNA検査をすると言い出すとか。まあ、夫が疑うとは思えませんが。夫と彼の血液型は同じなので、そこから知られることはありません。あとは娘が将来、親子関係を疑って検査するとか。それも家庭がうまくいっていればあり得ない。彼さえ黙っていればバレないと思うんです」
夫に悪いと思うことがないわけではないが、娘の誕生からの夫の様子を見ていると、夫もまた幸せなのではないかと思っているそうだ。
「いずれにしても私の子であることには変わりないし、娘は私たち夫婦と彼を幸せにしてくれている。このままでいい、このままが幸せと思っています」
罪悪感はほとんどなさそうだ。開き直っているわけでもない。彼女のこのおおらかさが、事態を悪化させないのではないかと思えてきた。
後編〈夫より優秀な彼の遺伝子がほしくなって決行。でもバレることはない──「托卵妻」の揺るぎない自信、なぜ?〉へ続く。
夫より優秀な彼の遺伝子がほしくなって決行。でもバレることはない──「托卵妻」の揺るぎない自信、なぜ?