今、日本に居住する外国人の数は急増している。これに伴い、外国にルーツを持つこどもたちも増加。外国人のこどもたちは、日本になじめているのだろうか?学校が夏休み期間に入る中、楽しく暮らせているのだろうか?外国人児童の支援に関わる人々に話を聞くと、待ったなしの課題が積み上がっていた。楽しいはずの夏休みが、自信を失う辛い休みにならないように、私たちにできることは。(解説委員・安藤佐和子)■「問題が出てくる前に対応を」区民の訴えで実現東京・豊島区の区役所に7月、「外国人相談窓口」が設置された。豊島区民の1割以上となる11.7%、約3万4500人の外国人が暮らす豊島区は、「日本人の我々と同じように暮らしやすい環境を作っていきたい」(高際みゆき区長)として、22の言語で週5日間、終日相談対応を行うことにした。(それまでは英語と中国語の2か国語対応)。窓口設置のきっかけとなったのは区民からの提案だった。生まれも育ちも豊島区池袋の香川陽子さんは、近年、多くの外国人たちが「情報迷子」になっている様子をまのあたりにしてきた。そこで、香川さんが提案したのは、外国人が豊島区に転入してきたらまず、日本で暮らす上で必要な「初期の日本語教育」、そしてゴミの出し方や国民健康保険制度などの「生活オリエンテーション」を受ける仕組みづくりだ。香川さんは、情報迷子となった外国人が自国のコミュニテーに閉じこもり、地域住民と接触を断絶して暮らしているケースもあるとして、“迷子”になる前に共生できる仕組みが必要だと訴えている。

人口減少に伴い働き手不足が深刻な日本では、外国人の労働力への依存度が高まり、外国人居住者が急増している。しかし、彼らが暮らしやすい環境整備は全く追いついていない。豊島区がネット上にあげている外国人向けの動画を見ると例えば、・電車やバスの利用は、現金よりスイカやパスモを使った方が安く済むこと、・自転車は駐輪場以外の場所に置くと区に持って行かれてしまい、返してもらうにはお金(罰金)がかかること、などの例が説明されている。なるほど、外国人の視点で見れば、教えてもらわなければわからないことばかりだと気づかされる。言葉の問題、習慣、文化、価値観の違い。多くの外国人が戸惑いながら過ごすことだろう。大人でさえ、苦労が想像される外国での暮らし。外国人のこどもたちへのサポートはどのようになっているのだろうか?■「ことば」は自信に影響夏休みに日本語を忘れてしまうと…学校が夏季休暇中の7月28日、茨城県ひたちなか市の施設には、インドやネパール、フィリピン、中国出身のこどもたちが集まっていた。彼らが参加していたのは、「なつやすみ べんきょうかい」。ボランティアの助けを借りながら、学校で配られたプリントの確認や夏休みの宿題に取り組んでいた。主催した「ひたちなか市国際交流協会」の仙波美哉子副会長は開催意図について、「学校の長期休み中、母国語だけの生活になってしまうと、せっかく覚えた日本語を忘れてしまう子もいるので、少しでも機会を提供するため」と話す。休み中に日本語を忘れてしまい、そのせいで勉強への意欲がそがれてしまうというケースも少なくないようだ。もっと日本語支援の機会を増やしたいものの、ボランティアのメンバーは大学生や、本業の仕事を抱える人も多く、「人は足りていない」という。またこの日、こどもたちに同行した保護者たちは、ボランティアメンバーに学校からの配布物に何が書かれているのかなどを確認していた。母親たちからは「夏休みの宿題が何かわからずこどもに言えなかったが、どういう宿題があるのか今日わかりほっとした。これで、こどもにちゃんと宿題をやらせて学校に行かせることができる」と安堵の声が聞かれた。「外国の方々は翻訳アプリを上手に活用していますが、それでもプリントの量がとても多いので、全部カメラで撮影して、アプリに読み込ませて、とするのも大変」(仙波さん)。また読んだとしても、大量の情報の中から何が大事で、何をしなくてはいけないのか、判別するのは大変だという。仙波さんは、“外国人労働者は以前と違い、家族帯同で来日する人も増えているが、家族の日本語学習は自助努力に任せる形になってしまっている”と指摘し、帯同家族への日本語支援拡充の必要性を訴える。■ことばの能力は、こどもたちの自信に影響する一方、この協会で同様に外国人支援に取り組む中島理佳子さんは次のように懸念を示す。「ことばの問題で、こどもたちの居場所が少なくなっている。こどもたちの自信がつく”場”が少ない。自信をつけてあげる取り組みがあったらいいと思う」。親の仕事の都合で日本に住むことになったこどもたち。「国に帰れば友だちもいて楽しく遊べるのに、ことばもわからない日本で元気なく過ごしている子がいるのも事実。日本のことを、安心して楽しく過ごせる良い場所なんだなって思ってもらえたら、いきいき活躍してくれると思う」(中島さん)。■自治体、教育現場の外国児童対応はまちまち自治体や学校は外国人の児童にどのように対応しているのだろうか?外国人児童数の多さで都内2位に位置する江東区(2022年調査)。教育委員会教育支援課に聞いたところ、「夏休みだからといって特別な取り組みはない」という回答だった。外国人に限らず教育相談窓口で毎日対応しているという。しかし、対応は日本語のみだ。外国人児童に対する教育支援については、入学時に学校から申請があれば、その児童の母語を話せる講師を派遣しているというが、最初のオリエンテーションのみとなる。今後の支援拡大については「日本全体で外国から来るお子さんも増えているので、いろいろな学校から情報収集中」としている。では、学校自体の取り組みはどうなっているのだろうか?■「ねばならない」はちょっと違う児童の6割が外国にルーツを持つこどもたちだという新宿区立大久保小学校。田中悦子副校長に話を聞いた。夏休み期間についてはやはり「家にいると母国語だけになってしまうお子さんもいる」と懸念し、「学童などに行き、日本語に触れて生活するように声をかけている」という。大久保小学校にはインド、カナダ、韓国、タイ、ネパール、バングラデシュ、フィリピン、ベトナムの8か国の外国人児童が通っているため、夏休みの過ごし方のおたよりも日本語を含めて9か国語分用意して配布。こどもたちの学校生活がスムーズに進むように、外国籍の保護者たちには「日本語のわかる友だちや親戚を紹介してくださいね」と呼びかけている。学校での面談の際に同席してもらい、通訳を頼んでいる。授業ついて言えば、国語だけは、外国人児童対象の「日本語国際学級」があり、レベルに応じて少人数のクラスで授業を行っている。しかし、国語以外は他の日本人と一緒の通常のクラスで受けているため、「困って過ごしているこどももいると思うので、そういうところのサポートが必要」(田中副校長)。夏休みの宿題は、児童一人ひとりのレベルに合わせて個別に出す配慮をしているという。外国人児童対応について、今後取り組みを始める学校などへのメッセージは何かとたずねると田中副校長は「『ねばならない』はちょっと違うかな」と話した。「例えば遠足でも、日本では『お弁当は手作りじゃなきゃいけない』と思いがちだけれど、コンビニ弁当でもいいし、どこの国の料理でもいいよね、と」。「誰かが何かできなかったり、違うものを持ってきたりしても、『ダメだよ』『ずるいよ』ではなく、『それでいいんじゃない?』とこどもたちも受け入れるようになっているのが良いと思います」と話す。まさにこどもたちが、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)を血肉化している様子が伝わってきた。■外国ルーツのこどもたちへの支援は見つかりにくい「夏休みの宿題に困っている外国人のこどもたち。両親が日本語が得意でない場合、こどもたちはどこで助けを得るのか?」。そんな疑問を解消しようと、インターネットで英語やひらがなで検索を試みたものの、ほとんど見つけることはできなかったのがこの記事のきっかけだ。夏休みの勉強支援一つとっても、外国にルーツを持つ人たちが情報収集しやすい環境になっているとは言えないと、今回感じた。こどもも含めて、日本での生活がなるべくストレスの少ない、楽しく充実したものとなるよう、整備すべきことは山積みだ。学校や自治体、NPOなどの取り組みは広がりつつあるが、まずは先行して展開されている好事例を広く活用できるよう、国や都道府県にはリーダーシップをとってほしい。そして、私たち一人ひとりも、ともに日本に暮らす外国人の人たちが情報迷子とならないよう関心を持つことが大切だ。
今、日本に居住する外国人の数は急増している。これに伴い、外国にルーツを持つこどもたちも増加。外国人のこどもたちは、日本になじめているのだろうか?学校が夏休み期間に入る中、楽しく暮らせているのだろうか?外国人児童の支援に関わる人々に話を聞くと、待ったなしの課題が積み上がっていた。楽しいはずの夏休みが、自信を失う辛い休みにならないように、私たちにできることは。(解説委員・安藤佐和子)
東京・豊島区の区役所に7月、「外国人相談窓口」が設置された。豊島区民の1割以上となる11.7%、約3万4500人の外国人が暮らす豊島区は、「日本人の我々と同じように暮らしやすい環境を作っていきたい」(高際みゆき区長)として、22の言語で週5日間、終日相談対応を行うことにした。(それまでは英語と中国語の2か国語対応)。窓口設置のきっかけとなったのは区民からの提案だった。生まれも育ちも豊島区池袋の香川陽子さんは、近年、多くの外国人たちが「情報迷子」になっている様子をまのあたりにしてきた。そこで、香川さんが提案したのは、外国人が豊島区に転入してきたらまず、日本で暮らす上で必要な「初期の日本語教育」、そしてゴミの出し方や国民健康保険制度などの「生活オリエンテーション」を受ける仕組みづくりだ。香川さんは、情報迷子となった外国人が自国のコミュニテーに閉じこもり、地域住民と接触を断絶して暮らしているケースもあるとして、“迷子”になる前に共生できる仕組みが必要だと訴えている。
人口減少に伴い働き手不足が深刻な日本では、外国人の労働力への依存度が高まり、外国人居住者が急増している。しかし、彼らが暮らしやすい環境整備は全く追いついていない。
豊島区がネット上にあげている外国人向けの動画を見ると例えば、・電車やバスの利用は、現金よりスイカやパスモを使った方が安く済むこと、・自転車は駐輪場以外の場所に置くと区に持って行かれてしまい、返してもらうにはお金(罰金)がかかること、などの例が説明されている。なるほど、外国人の視点で見れば、教えてもらわなければわからないことばかりだと気づかされる。言葉の問題、習慣、文化、価値観の違い。多くの外国人が戸惑いながら過ごすことだろう。大人でさえ、苦労が想像される外国での暮らし。外国人のこどもたちへのサポートはどのようになっているのだろうか?
学校が夏季休暇中の7月28日、茨城県ひたちなか市の施設には、インドやネパール、フィリピン、中国出身のこどもたちが集まっていた。彼らが参加していたのは、「なつやすみ べんきょうかい」。
ボランティアの助けを借りながら、学校で配られたプリントの確認や夏休みの宿題に取り組んでいた。
主催した「ひたちなか市国際交流協会」の仙波美哉子副会長は開催意図について、「学校の長期休み中、母国語だけの生活になってしまうと、せっかく覚えた日本語を忘れてしまう子もいるので、少しでも機会を提供するため」と話す。休み中に日本語を忘れてしまい、そのせいで勉強への意欲がそがれてしまうというケースも少なくないようだ。もっと日本語支援の機会を増やしたいものの、ボランティアのメンバーは大学生や、本業の仕事を抱える人も多く、「人は足りていない」という。
またこの日、こどもたちに同行した保護者たちは、ボランティアメンバーに学校からの配布物に何が書かれているのかなどを確認していた。母親たちからは「夏休みの宿題が何かわからずこどもに言えなかったが、どういう宿題があるのか今日わかりほっとした。これで、こどもにちゃんと宿題をやらせて学校に行かせることができる」と安堵の声が聞かれた。
「外国の方々は翻訳アプリを上手に活用していますが、それでもプリントの量がとても多いので、全部カメラで撮影して、アプリに読み込ませて、とするのも大変」(仙波さん)。
また読んだとしても、大量の情報の中から何が大事で、何をしなくてはいけないのか、判別するのは大変だという。
仙波さんは、“外国人労働者は以前と違い、家族帯同で来日する人も増えているが、家族の日本語学習は自助努力に任せる形になってしまっている”と指摘し、帯同家族への日本語支援拡充の必要性を訴える。
一方、この協会で同様に外国人支援に取り組む中島理佳子さんは次のように懸念を示す。
「ことばの問題で、こどもたちの居場所が少なくなっている。こどもたちの自信がつく”場”が少ない。自信をつけてあげる取り組みがあったらいいと思う」。
親の仕事の都合で日本に住むことになったこどもたち。「国に帰れば友だちもいて楽しく遊べるのに、ことばもわからない日本で元気なく過ごしている子がいるのも事実。日本のことを、安心して楽しく過ごせる良い場所なんだなって思ってもらえたら、いきいき活躍してくれると思う」(中島さん)。
自治体や学校は外国人の児童にどのように対応しているのだろうか?外国人児童数の多さで都内2位に位置する江東区(2022年調査)。教育委員会教育支援課に聞いたところ、「夏休みだからといって特別な取り組みはない」という回答だった。外国人に限らず教育相談窓口で毎日対応しているという。しかし、対応は日本語のみだ。外国人児童に対する教育支援については、入学時に学校から申請があれば、その児童の母語を話せる講師を派遣しているというが、最初のオリエンテーションのみとなる。今後の支援拡大については「日本全体で外国から来るお子さんも増えているので、いろいろな学校から情報収集中」としている。
では、学校自体の取り組みはどうなっているのだろうか?
児童の6割が外国にルーツを持つこどもたちだという新宿区立大久保小学校。田中悦子副校長に話を聞いた。夏休み期間についてはやはり「家にいると母国語だけになってしまうお子さんもいる」と懸念し、「学童などに行き、日本語に触れて生活するように声をかけている」という。大久保小学校にはインド、カナダ、韓国、タイ、ネパール、バングラデシュ、フィリピン、ベトナムの8か国の外国人児童が通っているため、夏休みの過ごし方のおたよりも日本語を含めて9か国語分用意して配布。こどもたちの学校生活がスムーズに進むように、外国籍の保護者たちには「日本語のわかる友だちや親戚を紹介してくださいね」と呼びかけている。学校での面談の際に同席してもらい、通訳を頼んでいる。
授業ついて言えば、国語だけは、外国人児童対象の「日本語国際学級」があり、レベルに応じて少人数のクラスで授業を行っている。しかし、国語以外は他の日本人と一緒の通常のクラスで受けているため、「困って過ごしているこどももいると思うので、そういうところのサポートが必要」(田中副校長)。
夏休みの宿題は、児童一人ひとりのレベルに合わせて個別に出す配慮をしているという。外国人児童対応について、今後取り組みを始める学校などへのメッセージは何かとたずねると田中副校長は「『ねばならない』はちょっと違うかな」と話した。「例えば遠足でも、日本では『お弁当は手作りじゃなきゃいけない』と思いがちだけれど、コンビニ弁当でもいいし、どこの国の料理でもいいよね、と」。「誰かが何かできなかったり、違うものを持ってきたりしても、『ダメだよ』『ずるいよ』ではなく、『それでいいんじゃない?』とこどもたちも受け入れるようになっているのが良いと思います」と話す。
まさにこどもたちが、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)を血肉化している様子が伝わってきた。
「夏休みの宿題に困っている外国人のこどもたち。両親が日本語が得意でない場合、こどもたちはどこで助けを得るのか?」。そんな疑問を解消しようと、インターネットで英語やひらがなで検索を試みたものの、ほとんど見つけることはできなかったのがこの記事のきっかけだ。
夏休みの勉強支援一つとっても、外国にルーツを持つ人たちが情報収集しやすい環境になっているとは言えないと、今回感じた。こどもも含めて、日本での生活がなるべくストレスの少ない、楽しく充実したものとなるよう、整備すべきことは山積みだ。
学校や自治体、NPOなどの取り組みは広がりつつあるが、まずは先行して展開されている好事例を広く活用できるよう、国や都道府県にはリーダーシップをとってほしい。