昨年7月に札幌・ススキノで起きた「首切り殺人事件」で実行犯の田村瑠奈被告(30)や夫の修被告(60)と共に逮捕され、死体遺棄・損壊の幇助罪に問われている浩子被告(61)の第2回公判。検察側の証拠調べが終わると、修被告が弁護側証人として法廷に立った。(前後編の後編)
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修被告は逮捕前の写真よりかなり痩せており、頭頂部にかけて髪が禿げていた。服装は緑色の長袖のポロシャツに黒のズボン。裁判長の人定質問にはっきりとした声で受け答えた。
弁護人はまず遺族への思いについて聞くと、修被告は少し溜めてからこう答えた。
「言葉ではとても言い尽くせないが、取り返しのつかない申し訳ない思いでいっぱいです」
瑠奈被告が殺害すると予見していたかという問いには、
「ありません。思ってない」
頭部が自宅にあることを知った後も、どうしてこういう事態になったのか瑠奈被告に尋ねることはなかったと話した。
夫婦仲について問われると、
「私は浩子のことをとても信頼し、尊敬している。おこがましいかもしれませんが、浩子も信頼していると思ってくれている。夫婦仲は良好だと思います」
この時、浩子被告は顔を真っ赤にして唇を噛み締めながら聞いていた。
遺体の頭部が自宅にあることを知りながら通報しなかった理由についてはこう答えた。
「現場まで自家用車で行っていますし、すぐにでも娘は逮捕されると思っていた。私の手で突き出してしまえば、娘を裏切る、突き放すことになる。娘が抱えていた重荷を考えると、裏切る行為になると思ってできなかった」
――怖くて通報できなかったのか?
「怖いというか、今思うと、警察に突き出していたら今でも娘の状態は悪いのに今よりもっと壊れてしまうと。娘を追い詰めたくなかった。娘がどうにかなるのが怖かった。それが恐ろしくて通報できなかった。それに、浩子との会話の中で『私服警察に尾行されていたり、ゴミ捨て場から袋を持っていっているようだ』と直後に聞いていた。逮捕はあるという認識だった」
瑠奈被告がなぜ被害者を殺害したのか、遺体を切断したと思うかと問われると、「わからない」と繰り返した。
「尋ねてないのでなぜかわからない。本人から『こういう理由でやった、やるのはどうか』と尋ねられたら答えていたかも。何も言わないことに対してこちらから答えることがもとより頭になかった」
――奴隷のように扱われていたか?
「心がこれ以上壊れないようにしたくて、どのように接するのがいいか考えて行動していた。無理強いされたり、暴力で支配されていたわけではない」
――瑠奈が小学校の時から事件まで家族以外に暴力をふるったことは?
「ないです」
――犬や猫を殺したことは?
「ありません。動物に関しての対応、よく言えば虫も殺さないような子でした。ハエや虫が入ってきたら潰すんじゃなくて、外に逃がしてほしいという子。逃がしてほしいというやり取りは逮捕直前まで変わらずだった」
そして、瑠奈被告が抱えていたとされる「ゾンビ妄想」の話題に入っていった。
――瑠奈はシンシア、ルルーという人物が入り込んで、瑠奈は死んだというゾンビ妄想が出ていたのか?
「いつ頃から始まったかは、確認する資料がないからわからない。10年くらい前のことだと思う。娘に『瑠奈』と呼びかけると、『その子は死んだ』『その名前で呼ばないで』と言っていた」
――気分が落ち込んだ時に言うのか。一貫してそう言っていたのか?
「本人から瑠奈という魂はいなくて、私はシンシアだと言い出した。ほかにも複数いることを本人が言い出した」
――基本的にはシンシアという人格か?
「娘は人格というよりも魂と言っていた。死んだ瑠奈の身体をシンシアという人が借りているだけ。これが10年くらい続いている」
――瑠奈本人の認識は? 揺らいだことはないのか?
「言い始めた当初は覚えていない。20歳を過ぎるころには揺らいだことはない。浩子と一緒の時のことはわからない。ニコニコして話していていも瑠奈と呼ぶと、『その子の名前で呼ばないで、瑠奈は死んだ』と言っていた」
――シンシアにとって瑠奈は妹?
「瑠奈は妹でシンシアは姉、という説明。血縁のある姉妹ではなく、年上の人という意味で姉と呼んでいた」
――シンシアにとって修と浩子は叔父と叔母という認識? 親として振る舞うことはできなかった?
「娘は『自分は瑠奈ではない、シンシアだ』と言っていた。娘を瑠奈と呼べなくなった。通常の親として振る舞うことは相当難しくなった」
――両親で瑠奈を好き勝手させ、甘やかしていた?
「少なくともゾンビ妄想前はそれなりにしつけていたつもり。言うべきことははっきり言ってきたつもり。ゾンビ妄想が始まった18歳以降は言えなくなった」
――なぜですか?
「妄想だけではなく、そのころから自傷やオーバードーズなどを繰りかえすようになり、『これ以上生きていたくない、早くお迎えが来てほしい』と訴えるようになった。本人の精神状態が追い詰められると取り返しがつかない。追い詰めないかかわりをするのが望ましいと感じていた」
――妄想上の恋人ジェフさんはシンシアの恋人?
「おそらくそうだと思います」
――ジェフが見えていた?
「見えている時もあるし、常に存在を感じている状態」
――シンシアの魂がジェフと関わるところを見たことがあるか?
「見たことあります」
――瑠奈はどこを見ていた?
「上の方を見ながら語りかけたり、うなずいたり」
――結婚することになったのはどういう経緯から?
「『恋人であるジェフがプロポーズしてきて、式を挙げる』と言われた。具体的に『ここにこれを置いて』とか相談があった。実際にはリビングにカーペットを敷いて、そこで瑠奈がお香を炊いたり、音を鳴らすなどしていた。私たちは列席というか座っていた」
事件直前の6月25日に、瑠奈被告はクラブで知り合った被害者とは別の男性とホテルに行ってSMプレイをしていたことも明かされた。
――あなたは娘がその人とSMプレイすることをどう思っていた?
「手放しで喜ばしくはないが、許容していた」
――一般的な考え方ではないが、どうして許容した?
「内心は父として不安、心配はあったが、(瑠奈は)社会的に何も関心がなく、閉じ籠っていて、『こんなつまらない人生、早く終わらせたい』と言っていた。本人が社会と繋がりたいと思ったのであれば、こちらもしたいことを許容したいと思った。
自宅で練習相手もさせられていたとも明かした。
「自宅のリビングで(瑠奈から)真ん中に『正座して』と言われた。手を後ろにして、目を閉じて、と。『手錠と目隠しをしていると思ってそこに座って』と言われた。
――実際にはしてない?
「手錠とアイマスクはしてないが、そのイメージをしてくれと」
――その後は?
「目を閉じていると、後ろからモゾモゾする気配を感じて、スカーフで頬や首筋を触る感じがあった」
――その時、あなたと瑠奈被告の格好は?
「服は着ていた」
頭部の損壊場面の撮影を止めなかった理由についてはこう答えた。
「その時の記憶がけっこう曖昧で、はっきりと思い出せないが、やめなさいと言っても、やるだろうと思った。咎めると本人の精神状態が悪化する。どうせ逮捕されると分かっていた。不穏当だがその日まで穏便に時間が過ぎるのを待ちたかった」
――撮影を断れなかったのは、逆らうのが怖かったから?
「断ると本人が興奮する。怖いというより、本人の精神状態が壊れる方が心配だった。(断るのが)怖いという気持ちはゼロではなかったが、メインは本人が壊れていくのが忍びなかったから」
この日の尋問はここで終了し、7月30日に開かれる第3回公判に持ち越されることになった。
修被告は退廷する際、被告人席に座っていた浩子被告に目を向けた。浩子被告は目を真っ赤にして修被告の顔をしっかり見つめた。法廷から夫が去ると、妻は溢れ出る涙をハンカチで拭っていた。
前編〈法廷で再現されたグロすぎる死体損壊場面「カメラで撮影していると、瑠奈は眼球を手際良く切り抜いた」【ススキノ首切り裁判】〉では法廷で再現された、瑠奈被告が自宅で被害者の頭部を損壊する生々しい場面を伝えている。
デイリー新潮編集部