「石丸伸二氏の街頭演説はとにかく若者が多い。『カッコイイ大人になりましょう!』など短くシンプルな言葉ばかりで小泉純一郎元首相とよく似ており、当時まだ選挙権がなかった30代以下には新鮮に聞こえるのでしょう。
中にはイメージカラーである紫の服で『伸二』と書かれたうちわを振る女性もいて、まるでアイドルのライブ会場のようでした。彼の爽やかさに魅了されたファンがついてくるのを見越して、石丸氏サイドもアクセスがいい山手線の内側を重点的に回っていましたね」
実際に数ヵ所で石丸氏の演説を聞いた法政大学教授の白鳥浩氏は、現場の様子をこう振り返る。
駅から駅へと街頭演説を続ける石丸氏を追って、熱狂的なファンが電車で追いかけていく――まるで「ハーメルンの笛吹き男」のようだ。そうした熱心な支持者に支えられた結果、彼は下馬評を覆して蓮舫氏を抜き去る大健闘を見せた。
安芸高田市長を1期務めただけでほぼ無名だった石丸氏が、なぜこれほど躍進を遂げたのか。「石丸フィーバー」に熱狂した人々とは、いったい何者だったのか。
まず、支持層の中核が若者なのは間違いない。出口調査によると、10~20代の有権者の約20%が小池百合子氏、約40%が石丸氏に投票している。政治への関心が低い彼らが石丸氏を知ったきっかけはSNS、とくに数十秒のショート動画が流れてくるTikTokだった。
投稿された動画には、100万回以上再生されているものも多い。ただしそこから見えてくる石丸氏の姿は、一般的なイメージとは大きく異なる。メディア論を専門とする成蹊大学教授の伊藤昌亮氏が解説する。
「石丸氏というと、安芸高田市議に対して『恥を知れ!』と怒鳴るなどの攻撃的な言動が思い浮かびます。しかしTikTokでよく『いいね』されているものに、石丸氏が効率的なテスト勉強のやり方や仕事上の心得を紹介する、いわば『自己啓発』系の動画があります。
好景気の時代を知らず将来が不安な若者たちは、人生を自力で何とかしようともがいている。そんな状況で、自らの経験に基づく勉強術や仕事術を紹介し、自身がどうやって努力してきたか語る石丸氏を見ると、自分も成長できる気がして救われるのでしょう。
彼は生まれながらのエリートではなく、自らの努力で京大を卒業して大手銀行に就職し、市長にまでなった人です。いわば『手が届きそうなエリート』である石丸氏は、彼らにとって『カッコイイ大人』の理想像であり、彼のようになりたいと憧れる若者も少なくない」
石丸氏に投票したのは、決して若者だけに限らない。中高年世代からも幅広く集められたからこそ、160万票も獲得できたのだ。その理由については、後編記事『「石丸構文」がむしろ快感になっている…石丸氏に共感する支持者たちの「深層心理」』で詳しく分析する。
「週刊現代」2024年8月3日号より
「石丸構文」がむしろ快感になっている…石丸氏に共感する支持者たちの「深層心理」