一度発症したら治りにくいと言われる「四十肩」や「五十肩」。じつは、日常生活のちょっとした習慣が、発症リスクを高めているのだそうです。一体、どんなことに気をつければいいのかについて、「八木整形外科」の八木先生に解説していただきました。

監修医師:八木 敏雄(八木整形外科)
昭和大学医学部卒業。その後、昭和大学医学部整形外科学講座入局、関連病院で勤務医として経験を積む。2023年、東京都武蔵野市に位置する「八木整形外科」勤務、副院長を務める。医学博士。日本骨粗鬆症学会認定医、日本整形外科学会専門医・認定運動器リハビリテーション医・認定スポーツ医、日本スポーツ協会認定スポーツドクター。昭和大学病院整形外科兼任講師。
編集部
四十肩や五十肩とはどのような疾患ですか?
八木先生
明らかなケガやきっかけがなく痛みが発生し、肩の可動範囲が狭くなる疾患を、一般に四十肩や五十肩と言い、「肩関節周囲炎」と呼ばれることもあります。医学的には「凍結肩」や「肩関節拘縮」と定義されています。
編集部
四十肩や五十肩とは俗称なのですか?
八木先生
はい。江戸時代に書かれた「俚言集覧(りげんしゅうらん)」という書籍に、「凡、人五十歳ばかりの時、手腕、骨節痛む事あり、程過ぐれば薬せずして癒るものなり、俗にこれを五十腕とも五十肩ともいう。また長命病という」と記載されています。このように、歴史上では「五十肩」という単語が登場するのですが、その後、40代でも発症する人が増えたことから、四十肩とも呼ばれるようになったのではないかと推察されます。
編集部
四十肩や五十肩には、どのような症状が表れますか?
八木先生
腕を上げると痛い
腕を背中に回すと痛みが生じる
肩が動かしにくく、着替えができない
後ろに手を回せず、下着をつけることができない
ひどくなると、夜も痛みで眠れなくなったり、寝返りのたびに痛みが生じたりすることもあります。
編集部
なぜ、四十肩や五十肩が生じるのですか?
八木先生
特定の原因だけで発症するわけではなく、様々な要因が複合的に重なって発症するとされています。主な要因としては、加齢や日常的な姿勢の悪さなどが挙げられます。そのほか、肩に負担がかかる動作を繰り返すことで炎症が生じることもありますし、「運転中、料金所の支払い時に無理に手を伸ばした」など、軽微な外傷がきっかけとなって発症することもあります。
編集部
様々な要因で発症するのですね。
八木先生
特に気をつけたいのは、日常的な姿勢の悪さです。例えば、同じ姿勢を長時間続けるデスクワークやスマホの使いすぎなどは、四十肩や五十肩を発症する原因になり得ます。こうした姿勢はおのずと前屈みになり、肩周りの運動量が低下して血流が悪くなったり、筋肉がこわばったりしてしまいます。
編集部
そのほか、四十肩や五十肩になりやすい人の特徴はありますか?
八木先生
長時間、同じ姿勢を強いられるデスクワークに従事している人は、四十肩や五十肩になりやすいと考えられています。また、糖尿病や甲状腺疾患などの疾患をもつ人は、疾患のない人と比べて2~3倍、四十肩や五十肩になりやすいことが知られており、しかも治りにくいと言われています。
編集部
四十肩や五十肩は、一度発症したら治りにくいと聞いたことがあります。
八木先生
自然に治ることもありますが、放置すると可動域がますます狭くなったり、筋肉が拘縮したりして、日常生活に大きな支障を及ぼすことがあります。整形外科では必要な検査をおこない、肩の痛みを引き起こす関連疾患の可能性を除外します。その後、肩関節周囲炎と診断された場合は、症状の程度や病期に応じて適切な治療をおこないます。できるだけ早く治療を開始することで治癒までの時間も短縮できるので、困っていることがあれば早めに相談してください。
編集部
四十肩や五十肩を予防するには、どうしたらいいのでしょうか?
八木先生
まずは、適切な運動をすることが必要です。特に、肩周りの筋肉にターゲットを当てたストレッチや軽い筋トレは効果的です。こうすることで関節の柔軟性が維持され、筋肉の緊張を解放することができます。
編集部
運動やストレッチが重要なのですね。
八木先生
特にデスクワークの人は、長時間前屈みの姿勢を続けることで肩周りの血流が悪くなり、筋肉が固まりやすくなります。適度に休息をとりつつ、肩を回したり、両腕を上げて伸びをしたり、両肘を後ろに引いて肩甲骨を中央へ引き寄せたりして、こまめに肩周りをほぐすようにしましょう。
編集部
そのほかに、気をつけることはありますか?
八木先生
重いものを持つときには両手で持ったり、リュックなどで両肩に重量を分散させたりすることも、四十肩や五十肩の予防には重要です。
編集部
肩に痛みがある場合は、どうしたらいいのですか?
八木先生
そのときは無理に動かさず、安静にしましょう。できるだけ肩をつかわないようにし、痛みがひどいときには炎症を抑える成分を含んだ湿布を貼ってもいいでしょう。それでも痛みがひかない場合には、早めに整形外科を受診しましょう。
編集部
受診の目安を教えてください。
八木先生
四十肩や五十肩は、痛みが長引くとその分治療期間も長引いてしまいます。例えば、同じ場所の痛みが1~2週間以上続く場合には診察を受けた方がいいでしょう。また、「夜に痛みで目が覚めることがある」「寝返りを打つたびに肩が痛くなって起きる」という場合には、症状が進行していることが予想されます。このような症状がみられたら、早めに診察を受けましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
八木先生
四十肩、五十肩の予防には普段から適切な姿勢を意識することや、長時間同じ姿勢は取らずに、こまめにストレッチすることなどが大切です。いったん痛みが出た場合は放置すると痛みが長引くことも多いので、早めに整形外科を受診しましょう。
腕を上げられないなど、日常生活で様々な不都合が生じる四十肩や五十肩。「治らない」と諦めている人も多いのではないでしょうか。しかし、近年では医療技術も進化し、治癒が可能な場合もあります。痛みで困っている場合には、できるだけ早く整形外科を訪ねることをおすすめします。

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