5月1日、中古車販売大手ビッグモーター(BM)の主力事業を引き継ぐ新会社「WECARS(ウイーカーズ)」の設立を発表した伊藤忠商事。だが、その裏で創業家は……。
【画像】“ビッグモーターのドン”だった兼重宏行前社長
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経済部記者の解説。
「買収の条件は、創業家が一切経営にはタッチしないことでした。伊藤忠は、輸入車ディーラーのヤナセなどを子会社に抱え、中古車業界とも近い。特にBMが擁する約250の実店舗は魅力的に映ったようです。新会社の社長には、伊藤忠元執行役員の田中慎二郎氏(61)が就任。北米の建材会社や英国のタイヤ会社の事業再生を手掛けた“再生請負人”です」
“伊藤忠のドン”こと岡藤正広会長
だが、懸念材料もある。
「保険金の不正請求問題が収束したわけではありません。優秀な社員は多数辞めた一方、今も創業家の息がかかった社員は少なくない。どこまで経営改革に切り込めるのか、不透明感も残っています」(同前)
新経営陣の一人も小誌の取材にこう答えた。
「取締役会もまだこれからだしね。そんな急には上手くいかないよ」
では、創業家の兼重宏行前社長(72)らは一体、何をやっているのか。BMの株式を100%保有していたのは、一族の資産管理会社「ビッグアセット」。同社の名義などで、推定30億円超とされる目黒の豪邸をはじめ、京都や熱海、軽井沢など各地に別荘を保有している。改めて登記簿を調査したところ、目に飛び込んできたのが、次の記載だ。

〈令和5年10月31日新築〉
〈所有権保存 令和5年12月18日〉
場所は軽井沢。かねてからビッグアセット名義で保有していた別荘に隣接する形で、床面積約1100平米に及ぶ建物を昨年10月31日に新築していたのだ。現地に足を運ぶと、一帯が高さ数メートルの柵や木々で“目隠し”されている。その中に、チャコールグレーの目新しい別荘が佇んでいた。近隣住民に尋ねると、

「以前はオレンジの幕が敷地を囲っていましたね。施工会社が昨夏、挨拶に来て『工事は終わったけど、家具の搬入があるからその音がすると思います』と。その後、幕も取られ、無事別荘は完成したようです」
だが、昨年10月から12月と言えば、伊藤忠がスポンサーとして名乗りを上げようとしていた時期。つまり、買収交渉の最中に、創業家は豪華な別荘を新築していたことになるのだ。
更に、登記簿を見ていくと、昨年12月28日付で、軽井沢や各地の別荘などを担保に、東京スター銀行から、年利6.08%で計25億円の借入をしていた形跡も窺える。その後、今年3月29日付で担保権の設定は解除されていた。
「メインバンクも兼重氏に対しては冷淡だった。他方で、日経新聞によれば、創業家は債務返済などに備え、100億円程度を拠出する方向だといいます。買収交渉を決着させる過程で、緊急の資金手当てが必要だったことから、年末に借入を図ったのでしょう」(銀行関係者)
兼重氏に別荘新築などについて訊くべく、目黒の豪邸を訪ね、質問状も投函したが、応答はなかった。
伊藤忠広報に尋ねると、創業家を利するスキームではないなどとしたうえで、
「創業家が一個人として過去に行っていたことについては、当社としてコメントする立場にございません」
せっかく建てたビッグな新別荘だが、兼重氏が寛げる日はまだ当分先のようだ。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年5月16日号)