30日、全国の空き家の数が新たに発表されました。その数は、過去最多となる900万戸。全国の7軒に1軒が空き家になっています。年々深刻化する空き家問題の解決に向けて動き出している“0円”で空き家を譲る新たなサービスを取材しました。
【写真を見る】“空き家0円で譲ります”無償譲渡のマッチングサイト「みんなの0円物件」を取材“売買ではなく贈り物を”深刻化する空き家問題…過去最多900万戸【news23】
三重県鳥羽市。人口770人ほどの小さな港町に、ひっそりとたたずむ宿があります。

ここは元々、築約100年の“空き家”。リノベーションを施し、生まれ変わりました。
旅館なおみ 森大地さん「ここの照明だと、間接照明。砂利の奥に間接照明を忍ばせて、下から照らすようにして、古き良さを残した壁を照らすようにしている。和モダンみたいな感じです」
ただ、この宿、少し変わっていることがあります。それは、元々の空き家の“値段”です。
旅館なおみ 森大地さんQ.この物件はいくらで入手した?「これは0円ですね。タダです」
使ったのは、空き家を0円で譲りたい人と欲しい人とを結ぶマッチングサイト「みんなの0円物件」です。全国各地の“0円物件”が掲載されていて、成約率は8割超え。これまでに、1000件近くがマッチングに成功したといいます。火災や、災害時に倒壊などのリスクがある空き家。長年、問題視されてきました。
“0円物件”を掲載 西孝幸さん「雨漏りを放置してたので、悲惨な状態」
今、このサイトに築67年の空き家を“0円物件”として掲載している西さん(69)。10年ほど前に亡くなった父親から相続したものですが、住み手はおらず、空き家状態が続きました。そこで、ある問題が…
“0円物件”を掲載 西孝幸さん「放置してたら屋根につたが生えてきて『ひどいことになってるよ』と苦情をもらって、これは何とかせないかんということで、毎年つたの処理をやってるんです」
管理の負担から、解体することを考えましたが…
“0円物件”を掲載 西孝幸さん「(解体費用などは)320~30万円とか350万円とか。こんな負の財産をいつまでも持って子どもたちに引き継いでいくのも忍びないし、有効活用していただける人がいるのであれば、それが一番ベストだなということで」
「みんなの0円物件」には、こうした処分に困った空き家が、日々新しく掲載されます。私たちは、このサイトの運営者のもとを訪ねました。
中村領さん(「みんなの0円物件」を運営)Q.相続で悩んでいる方は多い?「多いですし、物件の近くの不動産屋に相談してみても『ウチでは取り扱えません』、役所に連絡してみても『それは不動産会社に相談してください』と、八方ふさがりの状態だったと思うんですね」
自身も、亡くなった祖父母の家を相続した経験があります。
中村領さん(「みんなの0円物件」を運営)「小さな商店を営んでまして、駄菓子を売ってたりアイスクリームを売ってたり、そういうお店でずっとやってました」
見積もりを取ると、土地の売却額が50万円だったのに対し、解体などの費用は320万円で大赤字。
中村領さん(「みんなの0円物件」を運営)「相続した後に知ったんですけど、ちょっと愕然としましたね」
困った中村さんでしたが、運よく「譲り受けたい」という知人を見つけ、無償で譲渡することができました。
その空き家は改築され、現在、旭川の天然水を活かした甘酒の専門店「COOZYJUICESTAND」に。これは、双方にとってありがたい話だったようです。
COOZYJUICESTAND 畠尾司さん「自分の中で家賃はこれくらいかかってという経費の計上をした上で予算たてていたが、それがなくなると考えると嬉しい。このご時世に0円という言葉、聞かないじゃないですか」
中村領さん(「みんなの0円物件」を運営)「僕にとってもありがたいんですよ。僕はもう管理できないから」
この経験から、“売買”ではなく“無償で譲る”という選択肢の可能性を感じたといいます。
中村領さん(「みんなの0円物件」を運営)「贈り物って感じですよね。次の方に使っていただきたいという思いを残すことで、将来にわたって地域に根付いて、持続可能な街の大きな柱・原動力に繋がっていくと思ってる」
23ジャーナリスト 片山薫記者:空き家のマッチングサイト「みんなの0円物件」には、さまざまな物件があります。
たとえば北海道紋別市の元酪農家の方が手放した土地は、4LDKの住宅にテニスコート20面分の土地、さらに山もついて0円。
商業地でもそういうのが行われていて、新潟県燕市では、丸々1棟スーパーの跡地を建物ごと譲って0円。さらに北海道足寄町でも、パチンコ店が丸々1棟0円で譲り渡されたという成約ケースがあります。
藤森祥平キャスター:「0円か~」と思いますね。誰でも手を挙げていいんですか?
23ジャーナリスト 片山薫記者:誰でも手を挙げていいです。
ただし、やはりいろいろ下調べがいるのと、物件自体は0円ですけれども、贈与税や、他にも各種税金がかかります。それと、土地や建物の登記費用は別にかかるので、コストが数十万円単位になることが多いです。もう一つが、建物のリスク。土地にもいろいろ建築条件や利用条件があるので、そのへんをある程度知らない方が手を出すと危険だというのは、この仲介サイトの方も言っていらっしゃいます。
小川彩佳キャスター:0円といいますが、まったくのタダではないという。ただ、空き家の有効活用は非常に大事な課題ですよね。
日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:これだけ空いていると、なかには有効に活用できる家もあるはずです。実は私も頼み込まれ、ある地方の空き家を買い、今は民泊に…。
いい商売をしていると思われるかもしれませんが、一方的にお金を出しただけです。結局、家を登記上、担保物件だったものを解除するお金を出して、ちょっとお金を入れて直してみましたが、とても直りませんでした。今はその道のプロの方にタダで貸していて、彼らがさらに投資をしてリフォームをして、民泊にして投資を回収しています。とても素人にできることではありません。もし万が一、何かあって火事でも出れば持ち主の責任になるわけですし、同じように放置しておいて、さらにそれを放置したら周りの人はまた困るわけですから、買う以上は責任が発生します。ただ、いろんな意味で夢が広がる、素晴らしいことです。といっても、これは地方都市で、いいところだったのでできました。
空き家が一番問題なのは東京です。皆さん、空き家は地方の問題と思っているかもしれませんが、東京も9軒に1軒は空き家です。マンションやアパートは、1室を1軒と数えます。皆さんも夜に歩いてご覧になると、明かりがついていない部屋が多いでしょう?令和5年住宅・土地統計調査では、日本に空き家(別荘を除く)が900万軒あるうちの10軒に1軒は東京です。次に多いのは大阪、神奈川。しかもこの東京、大阪、神奈川といった空き家は集合住宅が多いですから、放置しておいても腐ってなくなるわけではありません。
23ジャーナリスト 片山薫記者:空き家が増え続ける問題ですが、実は住宅の数で見てみると、今、全国に6500万戸あるうちの900万戸が空き家です。一方、空き家は増え続けていますが新築も増え続けていて、260万戸も新しく作られています。でも、人口は減っている。これは結構問題なのではと思いますが、いかがですか?
日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:はい、20年以上前から「問題である」ということをずっと言ってきています。ただ一方で、古い空き家は、耐震性や断熱性がないことが多いです。新しい耐震性や断熱性がある家に変わっていくこと自体はいいことではありますが、新築で260万戸を作るのであれば、逆に年間300万戸ぐらい処分していかないと計算に合わない。ですから、私は逆に新築を買っていません。必ず余るので、損をするのではないかと思っています。
23ジャーナリスト 片山薫記者:ただ、空き家の流通、特に0円で譲れるということはあまり知られていません。なぜかというと実は今、価格が付かない不動産を表すものとして、「負債」と「不動産」を合わせた「負動産」という言葉が結構使われています。値段が付かないので、手数料ビジネスをやっている不動産業者は扱いません。だからこそ譲るという選択肢が出てきましたが、この「負動産」がもう少し動かないと、なかなか解決策はないのかなと思います。
小川キャスター:この負動産をどう動かしていくのか、解決方法にはどういったことがあるのでしょう?
日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:いろんなフォーラムでもお話をしていますが、まとめて三つあります。第一に、特に地方都市もそうですが、これ以上新築の家、戸数が増えないように、都市計画をちゃんと運用しなくてはいけない。容積緩和してどんどん家を建てるというのは、必ずツケが自分に回ってきます。東京も同じですが、建てるのであれば、その分壊すというサイクルを作らなくてはいけません。二番目が、0円も含めて、使える人間に流通させる仕組み。民間の不動産業者がやらない部分を、NPO的に、みんなのためにやるという事業を増やすことです。三番目に、やはり車でも大きい家電でもそうですが、古いものを引き取ってスクラップにする業者の方がいてくれるので新しいものが売れます。新しい家具を買おうと思ったら、古いものを引き取ってくれないと買えませんよね。家はこれがなく、古い家をスクラップにするという事業が成り立っていません。動脈の反対で「静脈産業」といいますが、家の静脈産業を作ることが必要です。
実際に地方では、古い民家なんかだと中にアンティークがあったり、ばらした居酒屋の中に、内装に使えるような古い立派な柱が出たり。そのような古い木造家屋のほうが実は価値があって、むしろ都会の鉄筋コンクリ住宅のほうが価値がありません。これを、一定の公費をもらって取り壊して、実際にリサイクルできるところはするという、いわば廃棄物処理と同じ静脈産業をイチから作らないと、日本中、手がつけられないことになる。そう言い出してから、15年ぐらい経っています。そろそろ本当に真剣に、この番組を機会に、静脈産業づくりをやらなくてはいけません。そうしないと、新しい家が売れなくなってしまう。ぜひ不動産の皆さん、役所の皆さん、真面目に考えてほしいです。
23ジャーナリスト 片山薫記者:0円物件に駆け込む方というのはほとんど、相続して使いようがなくて困っていらっしゃることが多いので、土地をちゃんと相続、引き継いでくれる人がいるのかどうかは、持ち主のほうも考えていくべきだなと思いました。
==========<プロフィール>藻谷浩介さん株式会社日本総合研究所主席研究員著書「デフレの正体」NYコロンビア大学ビジネススクール卒業片山薫23ジャーナリスト元経済部筆頭デスク財務省や経産省・農水省などを担当コロナ禍では政府のコロナ対策取材を指揮