原子力災害が発生した際に、発電所から外部への通報や行政機関同士の情報共有手段の一つとして使用されているのがファクスだ。
ファクスは使い慣れた通信手段ではあるが、電力会社などの訓練では送信トラブルなどの課題も散見されており、災害対応のデジタル化を踏まえた議論が必要になりそうだ。(堀和彦)
原発事故の発生時、電力会社は直ちに国や立地自治体などに通報する義務があり、災害時の対応などを定めた「原子力事業者防災業務計画」を政府に届け出ている。
同計画に関する省令では、通報方法について「ファクシミリ装置その他のなるべく早く到達する通信手段を用いて一斉に複数の者に送信する」と明記。原子力規制庁の担当者は「なるべく早く到達する手段としてあくまで例示している」と解説する。
このため、各電力会社などが定めた同計画では、緊急時の政府関係機関や自治体などへの通報手段として「15分以内を目途として、ファクシミリ装置を用いて一斉に送信」などと記載し、通報先に電話連絡するとしている。東京電力が定めた福島第一原発の同計画でも、東電から関係機関へのファクスや電話での通報経路を図示している。
東電から通報を受けて関係機関に連絡する福島県も、国の省令に基づいてファクスと電話確認を基本的な連絡手段としている。県と関係機関を結ぶ非常時の専用回線を使用するため、回線が途絶える可能性は低いという。国や関係機関が災害対応などを端末で確認できる情報共有システム「原子力防災システム(NISS)」も活用しているが、県の担当者は「現状では、なるべく早く一斉に複数に送信する手段はファクスが適切だ」と語る。
一方で、県が東日本大震災後にまとめた初動対応を巡る報告書では、連絡体制の課題として、県災害対策本部の電話やファクスが回線不足でつながりにくかったほか、電子メールが有効活用されずに連絡に支障をきたしたとの声があった。
全国各地で実施される原子力防災訓練では、ファクスの送信トラブルが度々発生している。県が実施した2022年度の原子力防災訓練の評価報告書によると、外部機関の参加者からは、ファクスの送信から受信まで12分、電話連絡を終えるまでさらに17分かかったとの報告があり、「より迅速な情報共有の方法を検討する必要がある」と指摘された。このほか、対応する職員が少ない中でファクス送信や他業務に影響を及ぼした事例もあった。
防災科学技術研究所 臼田裕一郎・総合防災情報センター長の話「ファクスの利点は、紙に出力して物理的に記録として残せるところにある。通信手段としてファクス回線だけが使えたケースもあり、通信手段の一つとして考えておくことは重要だ。一方で、一斉に複数の機関に連絡するならば、メールやチャットなどのほうが一般的で、ファクスは代替手段として強みを発揮する。もしメールなどで自動化できるのにファクスの送受信に人員を割いているならば、送信の自動化など改善の余地もあるだろう」