〈「私なら…間違いなく、断る」大多数のタクシードライバーが「上野から富山に行きたいお客」を乗車拒否する理由〉から続く
「今は金の持ち合わせはないんだけど、家に帰ればカードがあるんです。だから富山まで行ってほしいんだけど」…上野で長距離運転を頼まれたタクシードライバーの遠山氏。
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果たして、そのお客は本当にお金を払ってくれるお客だったのか? それともただの不正乗車だったのか? 1日300km走行、タクシードライバーの悪戦苦闘の日々を描いた内田正治氏の著書『タクシードライバーぐるぐる日記――朝7時から都内を周回中、営収5万円まで帰庫できません』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
上野から富山まで乗せてほしいお客の正体とは…? 写真はイメージ getty
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遠山さんは「もう自分が騙されてもいいと思ったね。そのときは全部自腹の覚悟の男気だったよ」と言う。これもどこまで本音だかわからない。終わったあとになればなんとでもいえる。
タクシーの燃料はLPガスであり、燃料補給ができるスタンドは限られている。
富山ほどの遠方だと補給なしでは帰れない。遠山さんは、会社に定期的に現在地と燃料の残量を伝え、LPガススタンドの場所を案内してもらいながら走行した。
8時間に及ぶ走行で富山に到着。立派な門構えの邸宅だったという。
「あの家を見たとき、これは支払いも間違いないなと確信したね」
遠山さんは笑いながら語ってくれた。
それでも家から戻ってきたお客がカードを渡してくれたときには心の底からほっとしたという。
料金は約20万円、往復走行距離は約800キロだった。
そのお客からは、「私のことを信用してこんな遠くまで送ってくれて、本当にありがとう」と感謝されただけではなく、家から持ってきたたくさんの土産までもらったという。
「富山は本当に遠かったよ。お客を乗せて目的地に向かっているときはまだよかったけど、特に一人で帰ってくるときがまあ長いのなんの。見覚えのある表示板が現れたときは、やっと帰ってくることができたと、ほっとしたよ。でもやっぱりお客を信じようという男気、これが大切だよね」

宇都宮までしか行ったことのない私に、富山まで到達した遠山さんはそう自慢げに語ってくれたのだった。
(内田 正治/Webオリジナル(外部転載))