「脳腫瘍」は脳に腫瘍ができてしまい、頭痛やめまい、視力低下などさまざまな症状が現れます。ですが、小児の場合は症状の表現がうまくできずに発見が遅れることがあるそうです。穴井善弥くんは、1歳のときに「脳腫瘍」と診断されました。当時、母の菜摘さんは善弥くんの様子がいつもと違うことに気付き、すぐに医療機関を受診したそうです。では、菜摘さんはどのようにしてお子さんの変化に気がついたのでしょうか? 脳腫瘍が判明したきっかけや、通園している保育園での様子など、詳しくお話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年11月取材。
体験者プロフィール:穴井 菜摘
大阪府在住の8人家族。五男の善弥くんは1歳になったばかりの時に「脳腫瘍」を発病し、手術、化学療法、放射線治療の一通りの治療を受ける。現在は3カ月に1度定期的な検査を受けながら、保育園、放課後デイサービスに通って経過観察している。
記事監修医師:村上 友太(東京予防クリニック)※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
穴井さん
1歳前から1人歩きができていたのに、ある時「今日は歩かないでよく寝るな」と思ったのがきっかけです。その日はお正月で仕事も休みだったので1日中様子を見ていましたが、「やはり普段とは違う!」と思い、休日診療に行きました。そこでは大きい病院で診てもらったほうがよいとのことで、別の病院に運ばれました。
編集部
そこで詳細な検査をされたのですね。
穴井さん
はい。CT検査をした結果、脳に腫瘍があることが分かりました。当初、血液検査、尿検査、CT検査、骨髄検査を行うと言われたのですが、先にしたCT検査で頭に腫瘍があるのが明らかになったので結局ほかの検査は行いませんでした。
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
穴井さん
正直あまり記憶にないです。「脳に腫瘍? 腫瘍ってがん? どういうこと?」となり、理解するのに時間がかかりました。「先生が治してくれるから大丈夫だよね?」とあまり現実味がなかったように思います。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
穴井さん
脳腫瘍は手術と化学療法、放射線療法などで治療をするようですが、それは脳腫瘍の種類によってそれぞれ治療方針が異なるとのことでした。私の子どもの脳腫瘍の場合には、「まだ1歳になったばかりで放射線治療は避けたい、まず化学療法をして手術をしよう」と話がありました。
編集部
化学療法はどのように進めていったのでしょうか?
穴井さん
あまり詳しく覚えてないのですが、『3日間抗がん剤治療・1週間休憩』のペースを2カ月間行いました。その間、体調が悪くなることもなく一度も中止せず終えることができました。先生から抗がん剤を始める前、事前に「1歳くらいの場合は抗がん剤でしんどくならないことが多い」と教えてもらっており、抗がん剤の副作用の嘔吐などの症状もなく、大きく体調を崩すことはなかったです。
編集部
その後の治療の流れも教えてください。
穴井さん
化学療法の後、すぐに放射線治療はしませんでした。まだ1歳だったので、放射線治療ではなく手術で乗り切っていました。でも、頻繁に再発を繰り返すので、2歳4カ月で再発した時初めて放射線治療に踏み切りました。
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
穴井さん
兄弟が多いのもあって付き添い入院はしなかったのですが、私は仕事も辞めたり、面会に行くため送り迎えができないので兄弟は習い事を辞めたりと、色々変化はありました。
編集部
ご兄弟は入院されているお子さんに対してどのような思いを感じられていたのでしょうか?
穴井さん
まだ全員小さかったこともあり、どこまで理解していたかは分からないですが、「早く元気になって帰ってきてほしい」「かわいそう」とはよく言っていました。
編集部
闘病に向き合う上で心の支えになっているものを教えてください。
穴井さん
やはり家族の存在だと思います。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
穴井さん
「体調の変化が出だした時点で、しつこくてももっと色々な検査をしてもらいなさい。子どもの少しの変化に一番気づいてあげられるのは、母である私だよ」と言いたいです。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
穴井さん
現在は3カ月に一度のMRI検査で、経過観察をしています。保育園にも通っていますが、医療的ケアが必要な状態なので、いつもお世話になっているデイサービスの看護師さんが保育園に同伴してくれています。
編集部
看護師さんは具体的にどのようなことをしてくださっているのでしょうか?
穴井さん
気管切開と胃ろうをしているので、痰吸引をしてもらったり、胃ろうから適宜水分を注入してもらったりしています。ほかにも、息子が少し辛そうだと思ったら血中酸素濃度を測ってもらうこともあります。保育園にいる間はすぐに対応できるように常にそばで様子を見てくれています。
編集部
脳腫瘍を意識していない人に一言お願いします。
穴井さん
お子さんの様子が少しでも変だなと思ったら病院へ連れて行ってあげてほしいです。大人の方であれば、やはり定期的に人間ドックや脳ドック、がん検診に通ってほしいです。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
穴井さん
毎日たくさんの患者さんを診て、大変なお仕事だと思います。大事なこと、危険性など、厳しいことを伝えないといけない時、当事者だけでなく家族の心のケアもしてもらえたらと思います。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
穴井さん
子どもの少しの変化にもすぐに気づくことができるのは、やはり私たち親です。お子さんの不調があったとき、「こんなことで病院へ行って過保護な親だと思われたら嫌だな」などとためらわずに受診してほしいと思います。
今回は、1歳で脳腫瘍であることが発覚した善弥くんのお母さん・菜摘さんに当時の様子についてお聞きしました。子育てをしていると、つい「今日はたまたまだろう」「もう少し様子を見よう」と思ってしまいがちです。ですが、今回の取材を通して、子どもの様子が「いつもと違う」と感じたら、その直感を信じて早めに病院へ連れていくことの大切さを痛感しました。「少しの変化にもすぐに気がつけるのは私たち親だと思う」という言葉は、子育てをしている人たちが常に心に留めておくべきです。自分の体や子どもの異変に気づいたら、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。