『私のバカせまい史』を見ていたらドキドキしてしまった。
そんな、ふだんはドキドキするような番組ではない。
「今まで誰も調べたことのない“バカせまい歴史”を徹底研究し、その成果を独自の考察で発表する」という、懐かしの『ホリイのずんずん調査』みたいな番組です。スタッフロールの「協力」で堀井憲一郎の名前もあって、パッと見チャラいバラエティですが、わりと調査は行き届いている。
今回は「どっきり番組における“落とし穴”トラップはいつからどんな風に」「バラエティ番組のVTR巻き戻し繰り返しでBGMにマンボ使いはじめたのはいつか」などの小ネタをつかみにしてから、出てきたメインのネタが、
「電車で寝ていた女性がおじさんのよだれを吸うエピソードの始まり」
電車でうたた寝してた女性と前のつり革につかまったままうたた寝してるおじさん。おじさんが寝ながらよだれを女性の手に垂らしてしまった、それを目がさめた女性が自分が垂らしたと勘違いしてあわてて吸った、という話。有名な話らしいが聞いたこともなかった。スタジオも客席も皆さん同じような反応。
※写真はイメーシ AFLO
しかしこのネタは「身近に起きた面白い話」として今までいくつもの番組でいろいろな人によって披露されたネタだという。ではその話の起源はどこか、とそのエピソードトークが出た番組を調べ(他局もある)、それを語ったタレントに「それはどこから聞いたのか」を直撃すると……。
「ノーコメント」「そんなことを言った記憶もない」「マネージャーに聞いた」「何か面白いネタはないか聞いたらこれを教えられたので」「名前も出してくれるな」
この返答の数々。うわー、よくあるやつだ。名も知らぬ女性とおじさんの話だから罪もないようなもんだが、こういう話で知らずにレッテル貼られて石投げられる、そこから悲劇が……なんて話はナンボでもある。こういう罪のないネタでこの図式を暴いていくので却って怖ろしさが際立った。民放テレビ局がバラエティの文脈でそれを紹介するから、ドキドキしてしまった。
ヤフー掲示板や、少女マンガ作品の中にネタの源流を探りながら、番組はついに1994年1月『ライオンのごきげんよう』で磯野貴理子がしゃべったのが初出ではないかというところまで迫った。で、この調査によって得られた考察は「こうして面白い話が人口に膾炙し、やがて『落語』みたいになるのでは」。
落語ときたところで「なるほど」と納得しかけたけど、これほんと、構造としては怖ろしい話なのでテレビ局としてその考察でええんか、と思ったのだった。そもそもこのよだれ話、キタナイだけだよなあ。
INFORMATION
『私のバカせまい史』フジテレビ 木 21:00~https://www.fujitv.co.jp/bakasemaishi/
(青木 るえか/週刊文春 2024年3月7日号)