「コロナ禍以降、交際相手にお金をせびる詐欺的な恋愛が増えました。“おかしい”と思ったところで調査依頼に来る人が増えています。それは圧倒的に女性が多いです」とは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんだ。
2024年3月7日、警察庁はSNSを通じて投資を勧める「SNS型投資詐欺」と、恋愛感情を利用し金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」の被害状況を初めて発表したと朝日新聞が報じた。その記事によると、2023年の被害件数は合わせて3846件、被害額は455億2000万円。振り込め詐欺など特殊詐欺の被害額(約441億2000万円)を上回っていたという。
露木康浩長官は7日の定例記者会見で「1日当たりに換算すると、毎日1億2000万円以上の金銭がだまし取られている極めて憂慮すべき状況。新たな警戒の空白とならないように各種対策を強力に進めたい」と語っていた。
今回、山村さんのところに相談に来たのは、40歳の美桜さん。IT関連会社で管理職をしているキャリア女性だ。1年前に「結婚する」と約束すると同居を始めた同じ年のホストの彼について調査のお願いにきた。
前編「40歳管理職の女性が結婚15年になる夫と離婚した「ヤバイ理由」」では、美桜さんがこのホストの彼と結婚する前の背景をお伝えした。美桜さんは25歳のときに10歳年上の上司と結婚していたが、体の関係もほぼなく、冷え切った関係になっていた。
エリート街道を歩き、勉強と仕事だけをしてきた美桜さんが「このまま恋も知らずに死ぬのは嫌だ」と恋愛を始めたのはコロナ禍のとき。マッチングアプリで知り合った米国人パイロットを自称する人物に100万円を送金してしまう。
それに懲りた美桜さんは、リアルな男性と体の関係を持つように。しかし、恋愛に不慣れで、心の奥に根深い嫌悪感がある美桜さんは、容姿を侮辱されたり、財布からお金を抜かれたりしてしまう。
そんな心を癒してくれたのは、地元のホストクラブで働くホストの彼だった。店に通ううちに男女の関係になり、美桜さんに愛される喜びと肉体的な快楽を与える。そして彼は美桜さんにプロポーズする。
美桜さんは夫と離婚し、彼のところに行く。しかし彼は「すぐには結婚できない。半年待ってくれ」というも、1年経った今も入籍はされていない。一緒に住み始めてから、彼が家賃を滞納していることや、前妻との間に子供が3人いること、昼間は介護職として働いていることもわかった。子供がいない美桜さんは、「少子高齢化に貢献している彼は立派だ」と、生活費と家賃を負担。他にも色々プレゼントや金銭的援助をしており、すでに500万円使っているという。
美桜さんは入籍して、名実共に夫婦になりたいことを願っているが、彼は外泊や外出を繰り返すようになる。そこに異変を感じた美桜さんの友人が、山村さんのところに「本当のことを調べてもらいなさい」と連れてきたのだった。
美桜さんの貯金は、彼と同棲する前は2000万円以上あったのですが、すでに700万円に目減りしていると言います。また、かつては貯金をする余裕があったのに、今は彼がどんどん使うため、月給だけでは足りないとのこと。
美桜さんは相手の心を繋ぎ止めるために、お金を払ってしまうところがあるようです。国際ロマンス詐欺も、ホストも、女性に寄生する男性たちは、愛を渇望している女性に付け込んでくると感じます。
まず、朝から彼の昼の仕事場である、介護施設から張り込みをスタート。すると、8時に彼が出勤してきました。背が高く、スタイルがよく哲学者のような趣がある知的な男性です。いかにもモテそうであり、ホストとして人気があることもわかりました。
16時に退勤すると、電車に乗り3駅先の駅で下車。そして、古い一戸建てに入っていきます。玄関前には、子供用の自転車が2台、大人用が2台あり、おそらくここが彼の「本当の家」なのではないかと直感。離婚して養育費を払っていると言っていましたが、ちょっと様子が違うように見えます。
17時30分に近くの学童保育に迎えにいき、8歳くらいの女の子をピックアップ。この子達は双子のようで、彼を「パパ」と呼んでいました。19時に高校生くらいの男の子がテニスラケットを持って家に入っていきます。そして22時に「いかにも働き者」というタイプのキャリア女性が入っていきます。この女性も美桜さんと似たようなタイプで、白髪も染めず、1本に結んでいました。
1時間後、彼は一人で出てきて、電車に15分程度乗って、ホストクラブに出勤。深夜2時まで店におり、美桜さんと住むマンションに帰って行ったのです。
翌日、彼の妻らしき人物を調べると、子供たちを学校に送り出したあと、病院に出勤していました。彼の苗字を手がかりに調べると、看護師としてこの病院に勤務している様子でした。彼と同じ苗字なので、離婚はしていないのでしょうか。
この調査があっさり終わってしまい、美桜さんに結果報告をすると「何となく離婚していないような気はしていたんです」と言います。ただ、それでは諦めきれないので、彼が別の女性と浮気をしていないか追加調査に入ることにしたのです。
美桜さんの話と彼の動きをまとめると、月水金は介護施設で働いており、水木金土はホストクラブに出勤している。介護施設もフルタイムではなく、パートのような働き方で、自由に使える時間は多い。
美桜さんは「昔はよく日曜日にデートをしていた」と言っていたので、ここに動きがあるはずだと、日曜日の昼から、美桜さんの自宅から調査をスタート。
すると、ロングコートを羽織り、いつもよりオシャレをした彼が出てきて、地元の駅へと向かいます。そこのロータリーで待っていると、車がやってきたので私たちはタクシーで追いかけます。30分程度走った神奈川県内にあるラブホテルに入っていき、40代の真面目そうな女性と一緒にホテルに入っていきました。
1時間もしないうちに手を繋ぎながら出てきて、車の中で濃厚なキスを繰り返していました。そして、再び地元駅に戻ります。女性の車を追うと、大きな家に入っていきました。表札から、結婚して子供がいる女性だとわかりました。夫や子供たちが出かけている間、束の間の恋を楽しんだのでしょう。この人は、後にホストクラブの客で、すでに50万円ほど貢いでいることもわかります。
彼は、そのまま子供たちがいる家に帰宅。夕方に子供たちが来て、22時に妻が帰宅。入れ替わるように出て、美桜さんの待つ家に帰ります。
以上の証拠を揃えて、美桜さんに報告すると、「いったい、何なんですかね。私は誰からも愛されていないんですかね」と泣いていました。美桜さんは、彼のことを愛しているのではなく、愛されることを求めているのかもしれません。
美桜さんは、彼と話す前に、彼の妻と思しき人に会いにいきます。すると妻は「あんたもあいつに引っ掛けられたの」と鼻で笑ったそうです。妻と彼は数年前に離婚していました。それは彼が金にだらしなく、借金が重なり自宅を抵当に入れて金を借りようとしたことだったと言います。姓が変わっていないのは、子供たちが変わるのを嫌がったからだとか。
「彼にお金がないのは、後輩に奢ったりして見栄を張るからだとか。かつて、バンドをやっていたときに、自主制作のCDを出したり、ライブをしたりしたときの借金もまだ残っているみたいです。他にもギャンブルで浪費したり、女性に貢いだりしている、とんでもない男だとわかったんです」
目先のことしか考えずに、人生を考えている彼は、あるタイプの女性にとっては「ロックぽくて素敵」と思われるようです。
また、彼の妻から、彼が20代の頃、詐欺グループに入っており執行猶予付きの判決を受けていることも教えてくれたそうです。それに対し、美桜さんは「前科があるとわかると、恋心も冷めるというか、別れることを決意しました」と語っていました。
しかし、現実はそうはいかず、結局彼にははっきり現実を伝えられていない様子。顔を見たり、体を重ねたりすると、言葉たくみにお金を引き出されているようです。そんな美桜さんを私の友人が支えつつ、別れに向けて進んでいるようです。
さかのぼって聞いてみると、美桜さんは親から教育虐待を受けていたようでした。「愛された実感」を持たないまま愛されることを求め続けていたのです。そういう女性の調査を請け負うことが多々ありますが、愛情の問題は根が深いことを感じます。
美桜さんは、お金のための表面的なプロポーズだったということを、彼から言ってほしくないのかもしれません。でもこのままではお金を食いつぶされてしまいます。まずは「だまされた現実」と向き合い、美桜さんが一人で歩く決意をすることが大切です。「夫」も、多くの女性たちをだましてお金を巻き上げていることに対してはどのように思っているのでしょうか。本当の詐欺師は、本当に愛されていると感じさせることができるのです。
時に辛い現実でも、「知る」ことは大切。知って初めて対策ができます。辛い現実を受け止めて、美桜さんが心から笑顔になれる日が来るのを願ってやみません。
調査料金は40万円(経費別)です。
40歳管理職の女性が結婚15年になる夫と離婚した「ヤバイ理由」