時間にルーズでいつも待ち合わせに遅れてくる人、身近にいませんか?それか、もしかしたら、あなた自身が大切な約束に遅れてしまい、信頼を損なったことはありませんか?
時間を守れない、遅刻の癖は、発達障害の一種であるADHDに関連していることがあります。ADHD専門のカウンセリングルーム「すのわ」の代表であり、臨床心理士・公認心理師の南和行さんが、ADHDの人に共通する「時間を守れない・遅刻の癖」の特徴と、それに対処する方法について解説します。
ADHD(注意欠如・多動症)は、神経発達症の一種で、不注意や注意の持続の困難、衝動的な行動が特徴です。これらの特性が日常生活に影響を及ぼし、時間に合わせて行動するのが苦手になることが多くあります。
アメリカのADHD専門家であるバークレー博士によれば、一般の大人の5%に遅刻の問題が見られるのに対し、ADHDの場合は55%もの人がその問題に直面しています。
筆者が代表を務めるADHD専門のカウンセリングルームには、多くの方が時間に関する問題を抱えて相談に訪れます。その中で話される悩みを元に、典型的な架空の事例を紹介し、それに関連するADHDの特性について解説します。その特性に応じた遅刻の軽減策も紹介します。
祐介さんは、明日は大事な取引先との打ち合わせです。遅れられないのが分かっているので、早めに寝なくてはいけないと頭では理解しています。しかし、いつものようにスマホで動画を次から次へと見ているうちに時間は深夜に。急いで布団に入るも、朝は睡眠不足のため目覚ましを止めて、二度寝。結局、出発まで30分という時間まで寝過ごしてしまいました。
急いで身支度を始めますが、大事な書類が見つからず部屋中を探すことに、タイムリミットのギリギリに大急ぎで駅に向かいます。何とか間に合いそうと思っていた矢先、焦っていたため乗り換えの電車を間違ってしまい、結局大事な打ち合わせに大幅に遅刻してしまいました。そして、持参の資料は別の取引先とのもので、上司からも呆れられてしまうのでした。
夜寝るのが苦手で、朝起きるのも難しいという問題を抱えている方は多いです。例えば、祐介さんのように、ADHDの方は睡眠に関する問題を抱えることがよくあります。やりたいことに対してブレーキをかけるのが難しく、その結果、寝る前に動画やSNSを見てしまい、夜更かしになってしまうことがあります。そのため、朝に起きることが苦手で、二度寝をしてしまう方も多いのです。
【対策1】
夜11時以降はスマホを見ないなどのルールを決めることが重要ですが、ついつい見てしまうのも特性です。スマホの充電を少なめにしておいて、夜には充電切れで使えないようにするなどの工夫が効果的です。また、寝室でスマホを充電している方は、寝室に持ち込まないようにしましょう。睡眠リズムが乱れてしまっている人は、睡眠の記録をとって自分のパターンを客観的に振り返るのも役立ちます。
【対策2】
朝起きるための工夫は複数用意しましょう。
目覚ましを布団から1メートル離したところに置くことで、布団の中で目覚ましを止めて二度寝することを防ぎます。
ADHD当事者のサラリーマンでライターの借金玉さんは「起きるのではなく飲み物を飲む」ことを勧めています。起きるという目標は抽象的すぎるため、朝に目覚ましが鳴ったら、1メートル先にある目覚ましの横のペットボトルの緑茶(カフェイン飲料)を飲むことで、朝に起きやすくなるという工夫を紹介しています。
冬の朝の寒さも二度寝の大きな要因です。エアコンのタイマー機能を活用して部屋を暖めておくこともおすすめです。
準備不足も遅刻の主な原因の一つです。面倒くさいことを先延ばしにするADHDの人々は、出発直前に準備を始める傾向があります。元々片付けが苦手で物の整理ができないこともあります(前回記事「ADHDの大人の『片付けられない部屋』に共通していること、なぜ散らかるのか」を参照)。それゆえ、直前の探し物で予想外に時間がかかってしまいます。
【対策3】
前日に持ち物の準備をすることが重要ですが、詰めが甘いのもADHDの特徴です。大切な書類を用意しても机の上に忘れてしまうことなどもやりがちです。筆者は絶対に忘れないように、書類の束を靴の上に置くなど、強制的に気が付く工夫をしています。
特性として不注意になりやすいADHDの人々ですが、焦っているときには不注意のミスがさらに起こりやすくなります。時間を間違えたり、電車を乗り過ごしたり、道に迷ったりしてタイムロスが生じることがよくあります。
【対策4】
不注意によるミスへの対策として、間違える時間も予定に含めることが重要です。自分はケアレスミスをするものだと認識し、予定に15分の余裕を持たせることで、たとえミスがあっても焦らずに済みます。待ち合わせ時間の1時間以上前に到着し、カフェでリラックスした時間を楽しむようにしている人もいます。
記事後半は「友人との待ち合わせで愕然…『ADHDの大人』が遅刻を繰り返してしまうワケ」からお読みいただけます。
友人との待ち合わせで愕然…「ADHDの大人」が遅刻を繰り返してしまうワケ