名だたる進学校を抑えて今年、神奈川県内の私立高が「東京大学への現役合格率」でトップに躍り出る快挙を成し遂げた。その躍進のウラには、時代と逆行するかのような「塾に頼らない」異端の教育方針があるという。
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【写真】「えっ、あの人も!?」 聖光学院OBの意外な面々
「受験と教育の情報サイト」インターエデュによると、2024年の東大への「現役合格率」で聖光学院高校(神奈川)が1位に輝いたという。大学受験誌の編集者が言う。
「聖光学院の現役合格率は37.55%で、2位の灘高(32.57%=兵庫)、3位の開成高(29.10%=東京)を大きく引き離しました。東大への合格者数ではトップの開成(149人)に次ぐ2位となりましたが、それでも聖光は昨年の東大合格者78人から今年は同99人と数字を伸ばし、右肩上がりで記録の更新を続けています」
聖光学院は栄光学園などと並ぶ「神奈川の私立男子御三家」の一つに数えられる完全中高一貫校だ。卒業生にはシンガーソングライターの小田和正氏やJAXA宇宙飛行士の大西卓哉氏などがいて、神奈川では「偏差値70超えの最難関校」(同)に位置づけられている。
そんな聖光学院の「凄さ」の秘密を探ると、意外な事実が見えてきた。
大手予備校の現役講師が語る。
「聖光は“塾に依存しない高校”として有名で、塾に通うことなく、東大合格者を多数輩出する同校に対し、複雑な感情を抱く進学塾関係者は少なくありません。よく聞くのは、聖光はガツガツと知識を詰め込むタイプのスタイルでなく、情操教育にも力を入れるなど、生徒の“考える力”を育てる教育方針を採っているというもの。実際、聖光の自習室は夜9時まで開放され、休日にも利用可能といい、生徒の自主性をバックアップする体制が整っているそうです」
もちろん聖光学院の生徒で塾に通っている子がいないわけではないが、現実には「ほぼ一択」に限られているとも。
「聖光の生徒が唯一、通うに足ると感じているのは“鉄緑会のみだ”との話は業界内でしばしば耳にします。昨年、500名を超える東大合格者を出した鉄緑会は、東大合格率で他の有名進学塾を圧倒する存在。同会の実績は驚異的で、聖光の生徒ですら100名以上が在籍しているほどです。ただ鉄緑会は“あくまで例外”だそうで、学校の先生の質やレベルが高いため、そもそも塾に通う必要性を感じない生徒が多いそうです」(同)
学校教員の教える力が「有名進学塾の講師に匹敵する」理由を、前出の受験誌編集者がこう話す。
「聖光は中高6年間を3つの段階に分け、高校1年生までは向学心や自立性を育てることに力を置き、本格的に学業に専念させるのは高2以降とされます。そのため6年間にわたって先生と生徒がじっくり向き合うことができ、互いの信頼関係やコミュニケーションが深まる要因となっている。勉強は奨励しますが、その分、先生の面倒見も良いため、生徒の学習意欲が削がれることはないと聞きます」
そんな熱量を持った教員が集まるのも、“のびのびと生徒を育てつつ、勉学の醍醐味も教える”といった独特の校風に惹かれての部分が大きいという。同校の校長自身、「生徒一人ひとりの名前を覚えている」(保護者)とされ、行き届いた目配りと風通しの良さでも定評があるとか。
「今回の躍進で、高校教育の現場では今後、“聖光スタイル”が主流となっていく可能性も指摘されています。頭ごなしに『勉強しろ』という時代から、自発的に生徒が勉強に向かう環境をつくりあげる――。過熱する受験戦争に新風を吹き込む“革命児”として、聖光学院の存在感はさらに増していくのではないか」(同)
すでに開成や麻布を蹴って、都内から聖光に通う生徒も増えつつあるという。盤石に見えた名門進学校の「勢力図」にも変化が現れている。
デイリー新潮編集部