警察庁が指定する重要指名手配犯が1月下旬から2月上旬にかけて、立て続けに逮捕された。’74年~’75年に起きた連続企業爆破事件に関与したとされる桐島聡容疑者(70)と、’20年に長野県で暴力団関係者を拳銃で撃って重傷を負わせたとされる指定暴力団幹部・金成行容疑者(55)の2人だ。特に金容疑者の逮捕は、警察庁が作成した重要指名手配犯のポスターで、桐島容疑者の左隣に掲載されていたため、「桐島効果」などともてはやされている。
これで重要指名手配犯は14人から12人に減った。このうち懸賞金の上限額が2番目に高く(上限600万円)、事件直後に海外へ逃亡したのが「関東連合」の見立真一容疑者(44)だ。逃亡先とされていたフィリピンの捜査当局は、「数ヵ月前、見立が潜伏しているとされる場所へ捜査に行った」と明かしており、逃亡から10年以上が経過した現在も追跡を続けている。
事件は’12年9月2日未明に発生した。東京都六本木のクラブで仲間と飲んでいた飲食店経営者・藤本亮介さん(当時31)が、車2台に分乗して店にやってきた十数名の男たちに襲われ、金属バットで撲殺された。しかも人違いだった。この主犯格が見立容疑者で、犯人の中で唯一、逃走を続けている。
事件発生から1週間後の同年9月9日、見立容疑者はマニラ空港に到着した。出発地は中国の首都北京だった。その5日後に韓国の首都ソウルへ向かい、約2ヵ月後の11月上旬、今度はインドネシアの首都ジャカルタからマニラ入りした。以来、フィリピンから出国した記録は確認されていない。
現在もフィリピンに潜伏しているのだろうか。フィリピン入国管理局の幹部が語る。
「見立容疑者がマニラのコンドミニアムに潜伏しているとの情報を得て、2人の捜査員が現場で捜索を行った」
捜査員が現場へ向かったのは昨年10月25日。そのコンドミニアムは、マニラ湾にほど近いマラテ地区にそびえ建っている。
「捜査員はコンドミニアムの管理人やセキュリティの人員に事情を説明し、日本人住民の名前をすべてチェックした。また見立容疑者の写真も見せたが、本人の潜伏情報は確認できなかった」
もっとも、見立容疑者は偽名を使っている可能性が高い。さらにマラテ地区は、日本料理店やフィリピンパブ、カジノ付きホテルが建ち並び、日本人観光客が多いエリアだ。そんな人目につきやすい場所に敢えて潜伏するだろうかとも思われるが、以前もこの界隈でフィリピンの捜査当局が見立を探していたことがある。他の潜伏先としては「セブ島」という話も浮上しており、見立容疑者の行方をめぐっては情報が錯綜している。同局の幹部は続ける。
「見立容疑者は整形手術をしているという話も聞いたことがあるが、真偽のほどはわからない」
一方、日本の警視庁は見立容疑者について「すでに日本に帰国して国内に潜伏している可能性も十分に考えられる」として、可能性のある地域に東京都、静岡県、埼玉県、宮城県を挙げている。
見立容疑者の旅券は、日本の外務省から出された旅券返納命令に伴い、’13年1月下旬に失効している。つまりフィリピンでは不法滞在だ。その状態でもし、空路でフィリピンを出国する場合、在フィリピン日本国大使館で他人名義の旅券を発行してもらわなければならない。そんな“裏技”が可能なのか。日本の捜査関係者が語る。
「旅券の発給時にはなりすましを見破るために様々なチェックが行われる。だからマニラにいる時点で新規旅券の発給はあり得ない。見立容疑者ほど知られている人間であれば、なおのこと不可能だ」
ただし、見立容疑者の顔写真を印刷したフィリピン人名義の旅券を入手し、それで渡航することは可能だ。しかし、それには名義人の出生証明書が必要で、そこまで協力してくれるフィリピン人の存在が不可欠である。
果たして見立容疑者にそれが可能なのか。フィリピン側では今も捜査が続いている。
取材・文・PHOTO:水谷竹秀’75年、三重県生まれ。『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』。ウクライナ戦争など世界各地で取材活動を行う