※本稿は、げげ『後悔しない家づくりのすべて』(サンクチュアリ出版)の一部を再編集したものです。
注文住宅といえば、「人と違ったおしゃれな家をつくれる」というイメージを持つ人は多いでしょう。
しかし、自由度が高いのはデザインだけではありません。性能もまた、ある程度自由に設計することができます。
住宅における性能は、以下にわけられます。
「耐震性(建物の構造体の強さ)」「耐久性(耐候性、雨漏り防止)」「メンテナンス性(維持管理、修繕がしやすい工夫)」「温熱環境(断熱、気密、空調計画)」「省エネ性(建物の燃費、光熱費、太陽光などの創エネ)」の5つです。
個人的には、デザインよりもまずこれら5つの性能にバランスよく配慮した設計が、幸せな暮らしにつながると思っています。
住宅会社によって特に大きな差が出るのは、断熱性をはじめとした「温熱環境」へのこだわりです。詳しくは後述していきますが、温熱環境は健康で幸せに暮らすうえでは欠かせない要素であるため、ぜひ家づくりの際に意識してほしいポイントです。
デザイン、コストと並び重要な、住宅の性能。とはいえ、いまひとつイメージできない人もいるかもしれません。
性能について考えるうえで、個人的にもっとも大切だと思うのは温熱環境、すなわち「あたたかさ」です。
寒さというのは、実は私たちの体にかなり悪影響をおよぼすことがわかっています。手足の冷えや、アレルギー、睡眠不足などの不調の原因にもなります。あたたかい場所から急に寒い場所に移動すると、血圧や心拍の急激な変化が起き、それが脳梗塞や心筋梗塞の引き金となるリスクがあります。
また、室温が18度以下になると、循環器系の疾患やケガのリスクが上がり、WHO(世界保健機関)は住宅内の最低室温を18度以上にすることを強く勧告しています。
住宅内で人が亡くなるのは冬が多く、急激な血圧の変化などによる「ヒートショック」がその最たる例です。
あたたかな家は、冬にも快適に過ごせるだけではなく、家族の命と健康を守ってくれるのです。
家の性能についての検討に入ると、断熱性や気密性といった言葉が出てきます。
断熱や気密についての細かい話は、だいぶテクニカルな領域であり、徹底してこだわりたい人を除いて、そこまで深く勉強する必要はないでしょう。「できるだけあたたかい家がいい」などというオーダーを叶える手段として、設計者が断熱や気密の構成を考えてくれるはずです。
ひとつ注意しなければならないのは、性能について尋ねた際に、「○○という商品を使えば、断熱は完璧です」というような営業トークをする会社です。
断熱材の性能は、「断熱材の熱の通しにくさ」と「断熱材の厚み」で決まります。高性能の断熱材も、薄ければ熱を逃がしやすくなります。
また、断熱性能は断熱材だけではなく、内装仕上げ材(壁紙など)、防湿気密シート、石こうボード、構造用面材、通気層、外壁下地、サイディングといったものの組み合わせで総合的に決まります。
断熱材の性能ばかり推してくる会社は、あまり優良とはいえません。
住宅の断熱に関しては一定の基準が存在し、住宅会社もそれをベースに断熱性能を設定することが多いです。
国の定める断熱基準が1999年からアップデートされていないこともあり、近年目指すべき水準として使われているのが「HEAT20(20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会)」が提示するグレードです。
HEAT20が設けたG1、G2という基準は、国の基準よりも高い水準です。住宅において、断熱性能の目安として「国の基準、G1、G2」という3つがあると知っておきましょう(さらに寒冷地でも対応できるG3レベルもある)。
何もオーダーしなければ、断熱性能は基本的に国の基準並みとなりますが、よりあたたかな家を望むなら、G1、G2とグレードを上げることになり、追加でコストがかかる可能性も高いです。
ただ、断熱性能を高めることで、設置するエアコンの台数が減ったり、ランニングコストが抑えられたりして、いずれ初期投資は回収できます。
加えて長く健康で快適に住み続けられるというメリットもあるので、G2レベルを目標とし、最低でもG1レベル以上にしておくことをおすすめします。
地震大国日本において、住宅の耐震性は、安全な暮らしに直結する要素です。現在、建築基準法という法律により、住宅が満たすべき耐震性(耐震等級1)は定められていますが、あくまで最低レベル。その上には、国の基準の1.25倍の強度である「耐震等級2」と、1.5倍の強度を持つ「耐震等級3」が存在しています。
では、現実としてどの等級であれば安心して暮らせるのか。2016年に発生した熊本地震を例にとって考えてみます。
熊本地震では、震度7の地震が連続で発生しました。
耐震性の低い建物は、前震でダメージを受け、本震がとどめとなって崩壊。耐震等級1程度相当の建物のうち、6%が倒壊しました。耐震等級2の建物は、倒壊こそ逃れたものの半壊や修繕困難な損傷を負った建物もありました。しかし、耐震等級3の建物では、倒壊、全壊、大規模半壊はゼロで、地震後も軽微な修繕で住み続けられました。
命はもちろん、日々の生活を守り、維持するためにも、耐震等級3の取得をおすすめします。
「光がよく入る、明るい家にしたいから、窓をできるだけ多くつくってほしい」そんな要望を受けることがよくあります。
ただ、実は窓というのは、構造的にいうと建物における「弱点」であり、たくさんつくるほどデメリットが大きくなってきます。例を挙げると断熱性能、耐震性、メンテナン性、収納性、コストパフォーマンスといった点が、低下していくのです。
窓の本来の役割を考えてみると、次の4つになるかと思います。「自然の光をとり入れる」「景色をとり入れる」「出入りする」「通風をうながす」。
この4つさえ満たせれば、窓の数が少なくとも、十分快適に暮らしていけます。
窓は、「必要最小限の数」を「適切な場所」に計画するべきというのが、私の基本的な考え方です。「なんとなく」窓という弱点を設け、住み始めてから「いらなかった」とならないよう、必要性を吟味しましょう。
注文住宅の設計で、定番のオーダーといえば「吹き抜けがほしい」というものです。ただ「なぜほしいのか」と理由を聞くと「憧れていた」「広々しそう」など、なんとなくのイメージから依頼する人が多いようです。
ここで吹き抜けのメリットとデメリットを考えてみましょう。
吹き抜けがあれば、空間が縦に広がって開放感が出ますし、採光や通風の面でもメリットがあります。1階と2階の空間的なつながりができ、コミュニケーションもとりやすくなります。
一方のデメリットとしては、まず冬に暖房がききづらくなります(高断熱、高気密住宅を除く)。また、音やにおいが上階に伝わりやすくなるのも、人によってはデメリットです。
構造的に見ると吹き抜けは弱点といえ、耐震性が下がります。それを補うべく、新たな柱や補強材が必要になることもあります。これらを知らずに吹き抜けをつくり、後悔する人は意外に多くいます。メリットとデメリットを天秤にかけてしっかり検討しましょう。
注文住宅で実現したい仕様の上位に挙がる、無垢フローリング。木材ならではのナチュラルな雰囲気と、素足で歩いたときの心地よさは、他の素材では得難いものです。
ただし、天然の木材を切り出して使うという特性から、デメリットも発生します。
反りやすい、伸縮して隙間ができやすい、傷や汚れがつきやすい、へこみやすい、変色する、床暖房に向かない、オイルを塗るなどの手入れが必要……。そのうえで、導入コストも割高な無垢フローリングは、実は本当に「手のかかる子」なのです。
それを理解したうえで、それでも無垢フローリングを愛し、手がかかるのを楽しむことができるなら、コストをかけて採用する価値があると思います。このあたりの感覚は、レザーの財布やデニムのジーンズを「育てる」のと似ているかもしれません。
愛情をかければ、無垢フローリングは家族の歴史をその身に刻みつつ、深く味わいのある色に経年変化していくでしょう。
家の大きさの目安として昔からいわれているのが「家族ひとりあたり8~10坪」。
4人家族なら、最低でも32坪以上は必要な計算です。それよりもっと広い家に憧れる人もいるかもしれません。
ただ、私が提案したいのは、そうした常識とは真逆です。序章でも述べた通り、「小さな家のほうが、より豊かに暮らせる」と考えています。その点を改めて詳しく解説したいと思います。
個人的な感覚としては、4人家族なら26坪あれば十分に暮らせます。実際に、私が担当した施主の方の中には、家族4人、22坪の家で暮らす人がいますが、とても豊かな生活を送り、満足されています。
「小さな家」にする大きなメリットは、サイズを抑えた分、浮いたコストを「質を高める」方向に使えることにあります。
たとえば、断熱性や耐震性を高めたり、塗り壁や無垢フローリングを採用したり、長く使える質のいい家具を買ったりすることで、「暮らしの質」が上がり、幸福度も高くなります。
その他にも、家族みんなが目の届く範囲で暮らせて、掃除もラクにでき、庭を大きくとれ、空間が小さいことで断熱性能も高まるなど、さまざまなメリットがあります。
では、実際にどのようなポイントを押さえて小さな家を建てれば、豊かに暮らしていけるでしょう。
間取りに関しては、階段やホールを家の中心に配置し、できるだけろうかを減らすと、スペースをフル活用できます。窓の配置などを工夫して庭や空とのつながりを持たせたり、吹き抜けやロフトを採用して縦方向の視線の抜けをつくったりすると、床面積以上の開放感が得られます。
不要なものは大胆に「引き算」するのも大切です。玄関、子ども部屋、ダイニング、壁や扉……。自分たちのほしい暮らしの中で、不要な要素は思い切って削ります。
空間の使い方としては、寝室、子ども部屋、書斎などと部屋に名をつけるのをやめます。たとえば、「最初は夫婦の寝室として使い、子どもが大きくなったら2つの部屋に区切って子ども部屋をつくる」という感じで、将来の家族の変化に応じて可変的に使える家にしましょう。
———-げげ( 尚)(かなたに・なおひろ)一級建築士YouTuber級建築事務所げげ代表。1990年まれ。兵庫県出。大学卒業後、新卒で積水ハウスに社。6年で100棟以上の住宅・店舗設計を経験後、独。「住まいの満度を上げ、豊かなを送るを増やす」をミッションに、新しい時代の常識にとらわれない家づくりを提案している。「後悔しない家づくり」の仕組みを、誰にでもわかるようにルール化したYouTubeが話題。———-
(一級建築士YouTuber げげ( 尚))