国の重要無形民俗文化財に指定されている石川県の輪島の海女漁が、能登半島地震で危機的な状況に陥っている。
海底の隆起や施設の被害で、今夏の漁再開は難しく、高齢の海女の中には地震を機に引退を考えている人もいる。そんな窮状を知った全国の海女から、支援の申し出が相次いでいる。(赤沢由梨佳)
■全国から義援金 漁場の把握励む
「文化を守らないといけない。でも、今は海に潜ることすらできない」
海女歴27年で、「輪島の海女漁保存振興会」の門木奈津希会長(43)は悔しさをにじませた。
最盛期の夏には、輪島市沖約50キロの舳倉(へぐら)島や、20キロの七ツ島周辺でアワビやサザエなどを取っている。しかし、地震による地盤の隆起で輪島港の水深が浅くなり、多くの船は座礁したままだ。春はワカメ漁のシーズンだが、港や大型冷蔵庫、海水くみ取り機など設備の被害は大きく、復旧のめどは立っていない。
また、よく取れる水域や岩礁の位置は長年の経験で頭の中に入っているが、地震で海底の地形も一変したとみられ、把握し直すのには5~10年かかるという。
そもそも新型コロナウイルス禍での外食需要の落ち込みや、アワビなどの餌となる海藻がなくなる「磯焼け」の影響で、2015年に200人ほどいた海女は約170人に減少。65歳以上が過半数を占め、引退を考えている人もいる。
地震後、約3分の2の海女が市外に避難しており、漁ができない期間が長引けば、海女漁の技の継承も危ぶまれる状況だ。
一方、苦境にある輪島の海女を支援する動きも広がっている。三重県志摩市の海女谷口美幸さん(46)は、海女小屋体験施設「さとうみ庵(あん)」に、輪島の海女の写真を展示し、寄付を募っている。
谷口さんは「高齢の海女さんが『私が潜れるうちに漁は再開しないかも』と話していると聞き、悲しくなった。同じ海女として力になりたい」と話す。
NHK連続テレビ小説「あまちゃん」のロケ地となった岩手県久慈市や、福岡県宗像市の漁協も義援金を集めている。
道具の被害状態を確認したり、隆起した漁場の状況を見て回ったりと、再起に向けて動き出した輪島の海女もいる。松下直子さん(52)は「サザエが乾いて死んでいた。でも、新たな地形を把握する一歩になった」と話す。
門木さんは「全国の応援がとても励みになっている。じっとしていられない。一日も早くなりわいを取り戻す」と前を向く。
◆輪島の海女漁=1569年に現在の福岡県宗像市あたりから、男女13人の海士(あま)たちが来たのが始まりとされる。輪島の海女数は三重県鳥羽市(約370人)に次いで多い。