モノが押し込まれている状態(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
祖母、父、母、妹が次々と亡くなり、家に残されたのは大量のゴミだった。依頼者の女性(姉)が、一人で始まる新生活を明るいものにするため、家族で住んでいた7LDKを片付ける。
本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。
ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)を兄の二見文直氏とともに営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見信定さんと、依頼者の女性が、モノ屋敷に住むことの苦労を語った。
動画:『父の死に母親の介護「気が付けば家の中がゴミや不用品だらけ」』、『父の死に母親の介護「片付けを説得できず親と摩擦が」』
関西某所にある2階建ての一軒屋。片付けの依頼者である50代の女性は7LDKのこの広い家に、祖母、父、母の4人で暮らしていた。ずいぶん前のことではあるが、祖母が他界。もともとモノを溜め込む性格だった祖母の荷物が残ったまま、次はパーキンソン病を患っていた母親の介護に突入した。依頼者の女性が話す。
「私も勤めているものですから、昼間は父が母の面倒を見てくれていました。夜は私が母の面倒を見るという忙しい生活が続いていたんですが、しばらくして母が亡くなりました。祖母のときと一緒で、母の遺品整理ができないまま、今度は父の介護が始まりました」
その後、父も他界。亡くなった3人分の荷物を少しずつ一人で片付けていったが、仕事が多忙なこともあって作業に限界を感じていた。そして、父の一周忌を迎えたのを機に、業者へ片付けの依頼をすることにした。だがその矢先、妹ががんで帰らぬ人となってしまった。
「突然というか、入院して3週間で亡くなってしまったんです。落ち込んで業者に電話もできなかったんですが、少し元気になってきたので依頼をさせてもらいました」
依頼者本人は片付けが苦手なわけではない。ただ、祖母、父、母の3人とも、モノが捨てられない性格だったという。
片付けの開始時点の状態(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
片付く前の小部屋(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
7LDKの間取りは少し特殊で、部屋が縦一列に並ぶ形になっている。1階、2階ともに突き当たりの奥にある部屋にいらないモノたちが押し込まれ、計2部屋と物置が、不用品の倉庫のような状態になっていた。
本棚、マッサージチェア、掃除機などの家具・家電に、マットレスや布団など寝具も数組、破れた障子にダンベルに地球儀と、不用品が無造作に積み上げられている。奥に何があるのか確認しようと思っても、まず前にあるものをすべて部屋から出さないといけない。そうなると、一人での作業はまったく進まなかった。
「グチャグチャになった包装紙でさえ畳んでとっておくみたいな状態で。本当にゴミだらけで、どうしようもないモノだけ押し込んで。部屋はいつも閉めているので、誰に見せるわけでもないんですけど。ただ、窓も開けられないし、掃除もできないので、ネズミとゴキブリの温床になるんじゃないかと思って」
父は写真が趣味だったという。現像された写真が大量に保管されていたが、それも女性がほとんど処分した。洋服も山のようにあったが、すべて仕分け済み。残っているモノは不用品のみとなるので、倉庫となっている2部屋と物置は完全に空にしてしまっていいそうだ。
現場に入ったスタッフは5名。予定の作業時間は4時間。縦に長い間取りのため運び出しに時間がかかるが、ひたすら不用品を家の外に出していく。
(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
生ゴミなどの生活ゴミがないこういったモノ屋敷の特徴は、住んでいる人やモノを増やしている本人には「モノが多い」という自覚がないことだ。ほとんどのケースが張本人からではなく、ほかの親族からの依頼だと、現場で運び出し作業をしている信定さんが言う。
「モノを増やしている本人は困っていないのですが、それによって別の家族が困っていることが多いんですよね。本人から依頼が来ることは、引っ越しや退去などで急遽片付けなければいけない理由ができたときくらいですね」
イーブイのスタッフ自ら、現場で住人を説得することもある。信定さんいわく、説得するうえで重要なのは、「一気に片付けようとしない」ことだ。
「頭ごなしに“全部いらんやろ”と否定してしまうのはよくなくて、勝手にモノを手に取ろうものなら“全部いるねん、何も触らんといて”と片付けがストップしてしまいます。本や小物が使わないまま入った本棚があっても、はじめから全部捨てようとしない。ひとつひとつ、いるモノかいらないモノなのかを一緒に確認していくことです。時間と労力はかかってしまうけど、根気よく説得するしかありません」
まず、ひとつモノを捨てることで、捨てることに慣れてもらうことが必要だという。モノを捨てることに慣れている人からすれば当たり前のことかもしれないが、目の前にいるのはそれが何十年もできてこなかった人だ。今すぐにモノを捨てられるわけがない。
(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
「使いもしないのにね、ゴミ同然なのに。モノを大事にしろと言われて育ってきたからしょうがないんですけど」
依頼者の女性がそう言うように、両親との衝突は避けられなかった。他人からすればゴミでも、本人からしたらゴミではないからだ。ただ、「ときにはハッキリ言うことも必要」と、同じく現場で作業をするスタッフのユウキさんは話す。
「今まで放置していたのにいざ片付けるときに、“懐かしい、どうしよう”と悩んで捨てられない人が多いんですよ。でも、何年も見ていないモノはやっぱり必要ないモノだと思うんですね。やっぱり、しんどい思いをするのって残された人だと思うんです。だから、僕は本人が生きている間に片付けるのが一番いいと思っています。片付けの費用は誰が払うねんっていう話にもなってきますし、業者を探したり、多少なりとも手伝わないといけないので」
この依頼者のように、身内同士だけだと衝突してしまいがちである。そんなとき、第三者である業者を間に入れることで、説得が円滑に進むこともある。ユウキさんが続ける。
「ちょっと冷たい言い方になるかもしれませんが、“これ思い出あるのよ”って言われても正直僕らにはわからない。そのモノに思い入れはないので。だからこそ、冷静に判断できるっていうのはあるはずです。そうやって捨てていく中で、スピードに乗ってきて、“もうガンガン捨ててください”って考えが変わる人も結構いるんです」
信定さんが話した「ひとつひとつ確認すること」を忘れずに、「それ、本当にいる?」とハッキリ聞いてあげることが大切かもしれない。
(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
この家もそうだったが、物置という場所は基本的にいらないモノの集合体だ。また、物置に限らずそもそも収納スペース自体が不用品だらけになりがちだ。
「片付けが苦手な人の場合、収納スペースはいらないモノをいったん押し込んでおくだけの場所になってしまうんです。だから、何が入っているかもわからなくなるし、そうなると片付けたいと思っても手が付けられない。逆に、自分がいま何を持っているのか把握できていれば、収納スペースを有効活用できるんだと思います」(信定さん)
片付けが苦手だからこそ収納スペースの多い物件を選んでしまいそうだが、それはいい結果を生まないかもしれない。
(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
倉庫となっていた2部屋と物置はものの4時間で空っぽになった。依頼者の女性も安堵した様子の声で感謝していた。
「何年かぶりなんですよ、窓開けるのも。いやぁ、よかったです、本当にすっきりしました。ありがとうございます」
現在はきれいになった7LDKの家で一人、新生活を満喫している。
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(國友 公司 : ルポライター)