ここ数年、ニュースなどで頻繁に取り上げられている「あおり運転」。20年6月には改正道路交通法が施行され、以前よりも厳しく罰せられるようになったが、激減しているとは言い難い。 自動車損害保険を扱うチューリッヒ保険が8月に発表した『2023年あおり運転実態調査』によると、あおり運転をされたことがあるドライバーは53.5%。最初に調査を行った18年(70.4%)に比べれば改善しているが、前回調査の22年(51.3%)よりは悪化している。つまり、半数弱の方が被害経験を持つわけだ。あおり運転の被害者は後を絶たない。
だが、因果応報と言うべきか。あおり運転をした運転手の意外な顛末とは?
◆若い女性を乗せた中年男がニヤニヤしながら迫ってくる…
北海道在住の荒井太一さん(仮名・30代)は、よく家族旅行で道内を長距離運転するという。あるとき、「あおり運転」に遭遇した。 白いスポーツカーがものすごい勢いで迫ってくるのがバックミラー越しに見えたそうだ。 「すぐに追い越して行くだろうと思っていたら、真後ろで急にスピードを落として、あおり運転を始めたんです。テレビでよく見る蛇行運転に、後部座席に乗っていた子どもたちも怖がっていました。運転手はフォーマルな格好をした中年男性。
妻が『ニヤニヤしながらこっちを見ている』というので目をやると、まるで挑発を楽しんでいるような雰囲気でした」 荒井さんはすぐに車を左側に寄せてスピードを落とした。ハザードを出して追い越すように合図をしたのだ。しかし、男は不気味な笑顔でついてきたという。さすがに恐怖を抱いた荒井さんは「停車するから、相手が降りてきた時のためにスマホで動画撮っておいて」と妻にお願いした。 ◆大型トラックが登場し、まさかの大逆転!
荒井さんがドアのロックを確認してから停車すると、運転手は停車せずに追い越していったそうだ。 「私たちは『車から降りてきて怒鳴ったり、車を蹴ってきたりしたらどうしよう……』と、さまざまなケースを想像しました。助手席には若い女性の姿が見えましたね。本当になんだったんですかね」
ようやく恐怖から解放され、再び発進しようとした荒井さんだったが、その後、予想外の“逆転劇”が起こった……。 「後ろから大型トラックが猛スピードで走って来るのが見えたため、通りすぎるのを待ちました。すると、先ほどあおり運転をしてきたスポーツカーの後ろにトラックがピッタリとくっつき、けたたましいクラクションを鳴らしていたんです」 なんと、荒井さん家族をあおっていた運転手が、今度はトラックにあおられたのだ。そして次の瞬間……。 「運転手はトラックの威嚇が怖くなったのか路肩で徐行して、それをトラックはすごい勢いで追い越していきました。目の前の運転手があおられるのを見て、本当にスカッとしました」 もしかすると大型トラックの運転手は、荒井さんの車があおられるのを見ていて、その“仕返し”でこうした行動を取ったのかもしれないと振り返った。
◆狭い山道であおり運転に遭遇!

スポーツカーは、再び速度を上げて追い抜こうとするが、対向車が来て慌てて急ブレーキを繰り返す。それが5分~10分程度続いたあと、しびれを切らした運転手が……。 ◆抜き去るスポーツカーに起こった悲劇
「窓から顔を出し、『ちんたら走ってんじゃねえ!』『どけよ!』と怒鳴っていました。退避エリアもなく、私はどうすることもできなかったので、ただ大通りに出るのを待つしかありませんでした」 走行している道に落石や崩れた道があると知っていたため、速度を上げることはできなかったとのこと。しばらくすると道が開けてきた。運転手は爆音とともに速度を上げると、麻生さんを睨みながら抜き去っていったという。 しかし、その数秒後、驚きの光景が目に入った。 「前日は一日中雨が降り、山道もぬかるんだ場所が多かったんです。あおってきた車は大量の雨を吸った落ち葉の上を走っていました。しかも、運の悪いことにあたりの落ち葉はすべて“イチョウの葉”でした。イチョウの葉って乾いていても滑りやすいんですよね」 それを知らない運転手。大量のイチョウの葉の上でスリップすると、一瞬で姿を消した。なんと、そのまま崖から落ちてしまったのだ……。 「車を止めて崖の下の様子を見に行くと、石や木にぶつかってボコボコになったスポーツカーがありました。私はすぐに警察に連絡しました」 運転手は20代の若い男で、麻生さんの車に残っていたドライブレコーダーの映像により、事情聴取を受けることになった。男はあおり運転をしただけでなく、父親の車を勝手に乗り回していたようで、迎えに来た父親に怒鳴り散らされていたとのことだ。 幸い、運転手の男性はかすり傷程度で済んだが、運が悪ければ、命も奪われるような大事故にもつながっていただろう。 <取材・文/chimi86>