近年はゴミの分別を重視する自治体が増えているが、一方でゴミ出しによるプライバシーの問題も発生している。SDGsに精通している消費生活アドバイザーの田沼裕子さんは現状をこう話す。
「最近では、<市が指定した透明や半透明のゴミ袋を使ってゴミを出ように>と、ルールを決めている自治体が増えてきています。袋に名前を書くように指導しているケースもあります。それらは未だに分別しないでゴミを出してくる住民を減らすのが主目的のルールです。
しかし、成果があがる反面、ゴミの中身が名前とともに見えしまい、どこのお店を利用して、何を買い、どう消費しているかが一目瞭然となり、家庭の事情がダダ洩れになっているという問題が発生しました。ゴミを漁るストーカーの話なども聞きますし、ゴミは個人情報の塊です。それを透明のゴミ袋を入れたり、名前を書いたりすることはプライバシーが侵害される恐れがあるんです」(田沼さん)
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「プライバシーの侵害」は「人権の侵害」にも通ずる重大な問題ともいえる。実際、引っ越し先で出した家庭ゴミで、まさにこの憂き目にあい、住まいを追われた家族がいた。
小田島律子さん(仮名・45歳)は夫の転勤を機に北関東の某所にマイホームを建てて移住した。「ゴミ出しの分別ルールが県内でも厳しい自治体」と知り、細心の注意を払ってゴミを出すようにしていたものの、透明なゴミ袋ゆえに、近隣住民に「ナプキンの捨てる量」や「避妊具の利用」までバレてしまい、大恥をかいた。
これまで年齢性別問わず、5000人から、個人が抱えるあらゆる悩みを取材してきた清水芽々氏が『「隠して出したはずなのに」移住先の厳し過ぎるゴミ分別ルールに主婦が困惑…生理用品や避妊具がなぜかご近所に晒された「不可解な出来事」』に続き、リポートする。
「もし回収されなかったら、自分が気づくまで、ゴミステーションの中に放置されます。透明のゴミ袋には名前を書いていますから、ご近所のさらし者にされてしまいます。ご近所さんに、ナプキンやコンドームを見られるのはもう嫌です。何より引っ越し早々、『あの家はゴミのひとつもまともに出せない』と思われたくはなかったので、地元のルールに慣れるまで必死でした」(律子さん、以下同)
細心の注意を払ってゴミを分別して出した後は、自分のゴミがちゃんと業者に回収されているか、再度ゴミステーションに出向いて確かめるのが日課になったほど気を使っていたが、母娘のナプキン、夫婦の使用済みの避妊具に続き、また近所にプライバシーが干渉されてしまった。
「主人が自治会の集まりに顏を出した時に、近所に住んでいる男性から『ダンナさんも、イイ年なんだから悪あがきはやめた方がいいですよ』と言われたらしいんです。主人がなんのことだかわからないでいたら、その男性は主人の頭部を見ながら『育毛剤はXを使っているんでしょ? あれ高いじゃないですか』と言われたようでした。『なんで知っているんだ!?』と主人は驚いていましたが、おそらくゴミの中の空き箱を見られたからです」
<我が家のゴミから家族のプライバシーが近所にさらされている…>大袈裟ではなく、律子さんが危惧していたことが現実になっていた。「まさか、誰かの手によって、うちのゴミが荒らされているのでは?」そんな懸念を抱いた律子さんはゴミステーションをチェックすることに決めて、一旦ゴミを出した後、収集車が来る前に何度もゴミステーションに足を運ぶことにした。ゴミ集積場の監視で犯人がわかったそんな監視体制を数日間続けていたところ、後からゴミを出しにやって来た住民がすでにステーションのカゴの中に入れられていたゴミ袋を引きずり出し、自分の持って来たゴミ袋を入れ替えていたのを目撃する。「近づいて確認したら、出されていたのは我が家のゴミ袋でした。ここのゴミステーションは世帯数に対して小さすぎるため、後から出した人のゴミがカゴから溢れていることがあるんです。それで私は早起きして出すようにしていたのですが、それをわざわざ入れ替えるなんて卑怯です。透明のゴミ袋の中身を見られたくない気持ちは誰でも一緒。きっと、その人は今までもそうしてきたのでしょうね…」茫然と立ち尽くす律子さん。そこへゴミを捨てにやって来たのは、顔見知りの主婦だったという。「『どうかしましたか?』と声をかけられたので事情を話すと、彼女は『ああ、やっぱり』みたいな顏をして『そういうこと(ゴミ袋を入れ替える)をする人は結構いるんだけど、そういう時は新しく越して来た人がターゲットになりやすいんです。ほら、やっぱり面識があったり、交流している相手にはできないじゃないですか』と教えてくれました」photo by iStockその頃、律子さんの家庭ではある問題が起きていた。高校生の息子が外泊や深夜外出などで頻繁に家を空けるようになり、中学生の娘が不登校になっていたのである。「越して来たばかりだったので悪い友達でもできたのかなとか、学校に馴染めなかったのかな、など心配は尽きなかったのですが、もしかしてゴミでプライバシーを荒らされたことが原因になっているのでは? と考えたんです」晒されたゴミで子供たちがいじめの被害に律子さんが事情を話すと、子供たちは重い口を開いたという。「案の定でした。息子は成績の悪かったテストの答案や、あるコンテストの落選通知が。娘はサプリメントの空き容器や、お友達から貰ったリボンをゴミの中から見られていたんです。道路に放り出された私たちのゴミは、透明な袋で名前まで書いてありますから悪目立ちしていたと思います。ゴミ回収業者が持っていた後なので真相は分かりませんが、カラスにつつかれて中身が散らばっていた可能性もあります。実際、名前とともに、そうやって路上にさらされた可燃ごみは何度も目撃していましたので…。これによって、子供たちは隠していたことやウソをついていたことなどが同級生にバレてしまい、SNSなどで誹謗中傷を浴びて、いわゆる炎上状態。通常の生活が送れなくなっていました」photo by iStock原因がわかったとはいえ、状況が改善されるわけではない。「きっかけは単なるゴミとはいえ、それが発端となった息子や娘の行状についての陰口が止むことはなく、息子は家出を繰り返し、娘は家から一歩も出られなくなりました」「ここに住みたくない!」と口を揃える思春期の子供達を前に、律子さん夫婦が下した結論は「転居」だった。この土地から逃げるしか方法が無かった「このあたりはすべて分譲住宅ですので、住民が入れ変わることはまず期待できません。だったらこっちが出て行くしかない。せっかく手に入れたマイホームですが、これ以上子供達の人生を犠牲にするわけには行きませんから。主人も同じ考えでした」律子さんと子供達は都心部に戻ることにしたが、ご主人は勤務先の関係で、そのまま自宅に留まって単身赴任という形をとることになった。photo by iStock「自宅は売りに出しています。主人はいずれ家族と共に暮らせるよう、通勤圏内で新しく住居を探しています。今は1日も早く子供達の心の傷が癒えることを祈り待つばかりです」ゴミの扱い方で人間性が問われる時代に前出・消費生活アドバイザーの田沼さんが話す――。「古くからの住民が多い地域では、移住者は好奇の目で見られがちです。地方というのは監視社会でもあるので、移住者の人となりや生活環境が如実に表れるゴミにも関心を持ったのかも知れません。いずれにしても、特定の家庭のゴミを締め出すようなマネはいじめのようなもの。お気の毒ですが、災難だったとしか言いようがないですね」「たかがゴミ、されどゴミ」ゴミ出し日には、「不要品」だけではなく「知られたくない事実」も含めてゴミ袋の中に入れられ、捨てられる。それはお互い様であり、それをわざわざ見つけて指摘したり、あげつらう行為など言語道断である。何をどうやってゴミに出すか、どう扱うかで、人間性が問われる時代になってきている。続いて、ノンフィクションライターの清水芽々さんの『「知らない男性に下腹部を…」夫の仕事の都合で「限界集落」へ移住、妊娠した20代女性が感じた「強烈な違和感」』や、それ以外の「連載記事」もあわせてどうぞ
大袈裟ではなく、律子さんが危惧していたことが現実になっていた。
「まさか、誰かの手によって、うちのゴミが荒らされているのでは?」
そんな懸念を抱いた律子さんはゴミステーションをチェックすることに決めて、一旦ゴミを出した後、収集車が来る前に何度もゴミステーションに足を運ぶことにした。
そんな監視体制を数日間続けていたところ、後からゴミを出しにやって来た住民がすでにステーションのカゴの中に入れられていたゴミ袋を引きずり出し、自分の持って来たゴミ袋を入れ替えていたのを目撃する。
「近づいて確認したら、出されていたのは我が家のゴミ袋でした。ここのゴミステーションは世帯数に対して小さすぎるため、後から出した人のゴミがカゴから溢れていることがあるんです。それで私は早起きして出すようにしていたのですが、それをわざわざ入れ替えるなんて卑怯です。透明のゴミ袋の中身を見られたくない気持ちは誰でも一緒。きっと、その人は今までもそうしてきたのでしょうね…」
茫然と立ち尽くす律子さん。そこへゴミを捨てにやって来たのは、顔見知りの主婦だったという。
「『どうかしましたか?』と声をかけられたので事情を話すと、彼女は『ああ、やっぱり』みたいな顏をして『そういうこと(ゴミ袋を入れ替える)をする人は結構いるんだけど、そういう時は新しく越して来た人がターゲットになりやすいんです。ほら、やっぱり面識があったり、交流している相手にはできないじゃないですか』と教えてくれました」
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その頃、律子さんの家庭ではある問題が起きていた。
高校生の息子が外泊や深夜外出などで頻繁に家を空けるようになり、中学生の娘が不登校になっていたのである。
「越して来たばかりだったので悪い友達でもできたのかなとか、学校に馴染めなかったのかな、など心配は尽きなかったのですが、もしかしてゴミでプライバシーを荒らされたことが原因になっているのでは? と考えたんです」
律子さんが事情を話すと、子供たちは重い口を開いたという。
「案の定でした。息子は成績の悪かったテストの答案や、あるコンテストの落選通知が。娘はサプリメントの空き容器や、お友達から貰ったリボンをゴミの中から見られていたんです。
道路に放り出された私たちのゴミは、透明な袋で名前まで書いてありますから悪目立ちしていたと思います。ゴミ回収業者が持っていた後なので真相は分かりませんが、カラスにつつかれて中身が散らばっていた可能性もあります。実際、名前とともに、そうやって路上にさらされた可燃ごみは何度も目撃していましたので…。
これによって、子供たちは隠していたことやウソをついていたことなどが同級生にバレてしまい、SNSなどで誹謗中傷を浴びて、いわゆる炎上状態。通常の生活が送れなくなっていました」
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原因がわかったとはいえ、状況が改善されるわけではない。
「きっかけは単なるゴミとはいえ、それが発端となった息子や娘の行状についての陰口が止むことはなく、息子は家出を繰り返し、娘は家から一歩も出られなくなりました」
「ここに住みたくない!」と口を揃える思春期の子供達を前に、律子さん夫婦が下した結論は「転居」だった。
「このあたりはすべて分譲住宅ですので、住民が入れ変わることはまず期待できません。だったらこっちが出て行くしかない。せっかく手に入れたマイホームですが、これ以上子供達の人生を犠牲にするわけには行きませんから。主人も同じ考えでした」
律子さんと子供達は都心部に戻ることにしたが、ご主人は勤務先の関係で、そのまま自宅に留まって単身赴任という形をとることになった。
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「自宅は売りに出しています。主人はいずれ家族と共に暮らせるよう、通勤圏内で新しく住居を探しています。今は1日も早く子供達の心の傷が癒えることを祈り待つばかりです」
前出・消費生活アドバイザーの田沼さんが話す――。
「古くからの住民が多い地域では、移住者は好奇の目で見られがちです。地方というのは監視社会でもあるので、移住者の人となりや生活環境が如実に表れるゴミにも関心を持ったのかも知れません。いずれにしても、特定の家庭のゴミを締め出すようなマネはいじめのようなもの。お気の毒ですが、災難だったとしか言いようがないですね」
「たかがゴミ、されどゴミ」
ゴミ出し日には、「不要品」だけではなく「知られたくない事実」も含めてゴミ袋の中に入れられ、捨てられる。それはお互い様であり、それをわざわざ見つけて指摘したり、あげつらう行為など言語道断である。
何をどうやってゴミに出すか、どう扱うかで、人間性が問われる時代になってきている。
続いて、ノンフィクションライターの清水芽々さんの『「知らない男性に下腹部を…」夫の仕事の都合で「限界集落」へ移住、妊娠した20代女性が感じた「強烈な違和感」』や、それ以外の「連載記事」もあわせてどうぞ