【東京五輪汚職裁判傍聴記】(上)
“黒い五輪招致”疑惑の馳浩知事に怪しい政治資金…衆院議員時代から有権者へのバラマキ常習か 東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件の裁判が相次いで開かれた。14日、受託収賄罪に問われた大会組織委員会の元理事、高橋治之被告(79)は初公判で無罪を主張、波乱含みの展開をうかがわせた。 12日には独占禁止法違反(不当な取引制限)に問われた大会組織委の元大会運営局次長、森泰夫被告(56)に懲役2年、執行猶予4年の判決が下されたが、組織委首脳のスケープゴートでは、という見方がある。傍聴記とともに被告周辺に迫ってみた。

◇ ◇ ◇ 被告席に座っても持ち前の眼光の鋭さは変わらない。 ビッグマネーまみれのスポーツビジネス界の修羅場をくぐり抜けてきた高橋治之被告は法廷でも存在感を示した。「全ての公訴事実について無罪を主張します。支払いを受けたのは民間のコンサル会社としての報酬で、あくまでビジネス。理事の職務の対価として支払われたものではありません」 罪状認否での全面否認は予想通りとはいえ、実際に証言台で聞くと重みが違う。79歳という年齢とはかけ離れた闘争心がみなぎっている。昨年9月に元代議士の山口敏夫氏から聞いた、被告の人物評を思い出した。「大物ぶりを自ら演出して、乗せられたマスコミが虚像をつくってしまった。それを森(喜朗)クン(元首相)がうまく利用したんだ」 山口氏は1990年代半ば、2信組事件に関わり背任容疑などで逮捕され、懲役3年6月の実刑判決を受け、服役した(刑期途中で仮釈放)。高橋被告の実弟でバブルの帝王といわれた故・治則氏(イ・アイ・イ・インターナショナル事件で逮捕、有罪となり最高裁に上告中に死去)とは深い親交があった。 資産1兆円といわれた治則氏は「日本銀行は1万円札までしか刷れない。でも、私は1億円札だって刷れる」(「真説バブル」日経BP)とまで豪語、国会議員やキャリア官僚らをプライベートジェットに乗せ、自ら経営する香港や豪州のリゾートホテルに招いて接待漬けにした。 高橋被告はその手法に倣い、スポーツ人脈を広げ、いつの間にか、ドン、フィクサーなどの“称号”がつくようになる。「大したことないのに必要以上に重用された。みんな弟のカネが目当てだっただけさ。兄貴は弟におんぶに抱っこだったんだよ」(山口敏夫氏)■検察さえ「第一人者」 検察側さえ「スポーツマーケティングの第一人者」というまくらことばを何回も使った。その冒頭陳述が延々と続く。被告は時折、弁護士と短い会話を交わし、ペットボトルの水を口にする。居眠りする傍聴人、席を立つ者さえいる。法廷内から開廷時の緊迫感が消えていった。 検察側は約3時間におよぶ冒陳を終えると、数カ所の訂正を申し出る。弁護団は別の部分に「主語が不明」の表現があると指摘、敵失に乗じて先制パンチを放つ。高橋被告側の戦闘モードばかりが目立つ初公判だった。 今後の法廷で虚像は暴かれていくのだろうか。 =つづく(津田俊樹/スポーツライター)
東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件の裁判が相次いで開かれた。14日、受託収賄罪に問われた大会組織委員会の元理事、高橋治之被告(79)は初公判で無罪を主張、波乱含みの展開をうかがわせた。
12日には独占禁止法違反(不当な取引制限)に問われた大会組織委の元大会運営局次長、森泰夫被告(56)に懲役2年、執行猶予4年の判決が下されたが、組織委首脳のスケープゴートでは、という見方がある。傍聴記とともに被告周辺に迫ってみた。
◇ ◇ ◇
被告席に座っても持ち前の眼光の鋭さは変わらない。
ビッグマネーまみれのスポーツビジネス界の修羅場をくぐり抜けてきた高橋治之被告は法廷でも存在感を示した。
「全ての公訴事実について無罪を主張します。支払いを受けたのは民間のコンサル会社としての報酬で、あくまでビジネス。理事の職務の対価として支払われたものではありません」
罪状認否での全面否認は予想通りとはいえ、実際に証言台で聞くと重みが違う。79歳という年齢とはかけ離れた闘争心がみなぎっている。昨年9月に元代議士の山口敏夫氏から聞いた、被告の人物評を思い出した。
「大物ぶりを自ら演出して、乗せられたマスコミが虚像をつくってしまった。それを森(喜朗)クン(元首相)がうまく利用したんだ」
山口氏は1990年代半ば、2信組事件に関わり背任容疑などで逮捕され、懲役3年6月の実刑判決を受け、服役した(刑期途中で仮釈放)。高橋被告の実弟でバブルの帝王といわれた故・治則氏(イ・アイ・イ・インターナショナル事件で逮捕、有罪となり最高裁に上告中に死去)とは深い親交があった。
資産1兆円といわれた治則氏は「日本銀行は1万円札までしか刷れない。でも、私は1億円札だって刷れる」(「真説バブル」日経BP)とまで豪語、国会議員やキャリア官僚らをプライベートジェットに乗せ、自ら経営する香港や豪州のリゾートホテルに招いて接待漬けにした。
高橋被告はその手法に倣い、スポーツ人脈を広げ、いつの間にか、ドン、フィクサーなどの“称号”がつくようになる。
「大したことないのに必要以上に重用された。みんな弟のカネが目当てだっただけさ。兄貴は弟におんぶに抱っこだったんだよ」(山口敏夫氏)
■検察さえ「第一人者」
検察側さえ「スポーツマーケティングの第一人者」というまくらことばを何回も使った。その冒頭陳述が延々と続く。被告は時折、弁護士と短い会話を交わし、ペットボトルの水を口にする。居眠りする傍聴人、席を立つ者さえいる。法廷内から開廷時の緊迫感が消えていった。
検察側は約3時間におよぶ冒陳を終えると、数カ所の訂正を申し出る。弁護団は別の部分に「主語が不明」の表現があると指摘、敵失に乗じて先制パンチを放つ。高橋被告側の戦闘モードばかりが目立つ初公判だった。
今後の法廷で虚像は暴かれていくのだろうか。 =つづく
(津田俊樹/スポーツライター)