昨今、好きなアイドルやアニメ、プラモデルやフィギュアなど、自分が愛する対象を多様な形で応援する「推し活」に勤しむオタクは、昔に比べてポピュラーな存在ともいえる。
民間調査会社の矢野経済研究所が発表したデータによると、国内「オタク」市場における主要13分野の市場規模は、約6840億円にも及ぶという。
しかし、なかには「推し活」が原因で夫婦関係の悪化に直面した人もいる。腐女子やオタクに特化した結婚相談所を運営する、ミューコネクト株式会社の代表・横井睦智さんに話を聞いてみた。
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「ふたりともウチの会員で、それぞれジャンルの違うオタク同士でした。女性(優樹菜さん・仮名)は観劇が大好きで、いわゆる2.5次元系のオタク。男性(和弥さん・仮名)は声優オタクでした。お互いが『推し活は続けたい。けど、家庭を持ちたい』という条件だったんです。
価値観も合うし年も近かったから、気が合ったんでしょうね。すぐお付き合いに至って半年くらいでスピード成婚しました」
しかし、横井さんは「あること」を心配をしていた。
「似たもの同士ってこともあって、大人しくて控えめなふたりなんです。だから、ちゃんとコミュニケーションが取れてるのか、気になっていました。同じ『オタク』でも、趣味が違うわけですし。
聞くと、二人は間取り3DKの、すこし広めの家に住んでいて。それぞれ自分の部屋があって、しかも寝るときも別々だというのです。『ちゃんと喋ってるの?』って尋ねたところ、『大丈夫です』って二人とも口をそろえて言うので、気にしないようにはしてたんですけど」
じつは、優樹菜さんは「隣に人が寝ている生活がムリ」なタイプ。一方の和弥さんは「推しの抱き枕があるから問題ない」と。
はたして、横井さんの不安は的中する。半年ほど経った頃、二人は別々に、横井さんのもとへ相談にやってきたのだ。
「案の定、『どうしたら離婚できるか』という相談でした。詳しい話を聞くと、ふたりはお互い趣味の世界にのめり込みすぎて、現実での結婚生活が疎かになっていたんです。週末はそれぞれ『推し活』に一生懸命で、コミュニケーションをまったく取らないと。
『休みの日は推し活をしているとしても、平日は一緒にごはんとか食べるでしょ?』と聞くと、『食べないですよ。奥さんは基本料理しないから、お互い平日はコンビニ弁当で、それぞれの部屋で食べてます』って言うんです」
仕事から帰宅するとお互い自分の部屋に直行し、食事も自室で食べる毎日。「それじゃあ、ルームシェアと変わらないじゃないか」と横井さん。和弥さんは「ゴミがたくさん出ちゃって困るんですよねー」と笑って答えたというが、毎日コンビニ弁当を食べていたら、そうもなるのも当然だ。
「家事は一応分担していたものの、奥さんの優樹菜さんはあまりやらなかったそうで。そもそも人とコミュニケーションを取るのが苦手なので、二人は不満も言えず喧嘩にもならなかったと。それでお互いがお互いのことをどうでもよくなってしまい、『終了』って感じです」
成婚からわずか1年後に離婚。結婚後も「推し活」に没頭した二人は、一緒にいることの意味がわからなくなった末の決断だった。
「幸せのかたちは人それぞれです。お互いがよければ成婚後、登録者さんがどんな生活をしてくれててもいいんですよ。でも、『今後離婚してどういうふうに生きていけばいいですか?』って相談にくるので、困りました。趣味や価値観が違ったとしても、二人でなにかを共にする時間が必要なんじゃないかなって。
お互い好きなことをしていても、『夫婦生活を構築していく工夫をしなさい』って僕は伝えています。1日に1回は必ず一緒に食事をとるとかでもいい。二人の時間を共有しないとダメですね」
世の中にはどうしようもなく不運なケースも存在する。長きにわたる婚活の末にようやく結ばれた相手のはずが、夫の趣味が暴走した結果、別れを決断しなければいけなくなった女性の事例もあると、横井さんは話す。
「30代前半の女性、直子さんはロリータファッションが好きで、かなり長い期間、婚活に苦戦していました。なかなか自分の見た目を好きになってくれる人が現れなかったんです。4年ほどかかりましたが、なんとか別の相談所の男性と巡り合うことができ、無事にお付き合いを開始することができた、と報告を受けたのです」
お付き合いから数ヵ月を経て、晴れて成婚。後日横井さんが彼女から結婚式の写真を見せてもらったところ、夫となった男性はガッチリとした筋肉質な体型で、メガネをかけて柔和な表情だったという。
「ぼくもすごくうれしかったです。ようやくいい人と巡り会えたと、写真を見てほっとしました」
ところがその数ヵ月後…信じられない事態が直子さんを待ち受けていた。
「結婚して半年ほど経った頃、直子さんから連絡がありました。どうしたのかと思ったら、『夫に盗撮されていた』って言うんです。彼女がお風呂から出て、タオルで身体を拭こうとしたところ、棚に置かれていたタオルとタオルの間に小さなカメラを発見した、と」
直子さんは最初、その黒い物体を不審に思いつつも『なにかの置き忘れかな?』と思って手に取ってみると、それはカメラで、録画中だったという。一旦停止して映像を巻き戻し再生してみると、ディスプレイに映し出されたのは、脱衣所で着替えている自分の姿だった。
「夫をすぐに呼んで『どういうことなの?』と問い質すと、かなり慌てふためいた様子で、『こんなこと(盗撮)をしたのは君しかいない。君が初めてだからいいじゃないか』と苦し紛れの言い逃れを展開。とりあえず直子さんはその場でカメラを没収しました」
しかし、夫の言うことは「まったくの嘘」だった。カメラに入っていたSDの映像を見てみると、他の日の自分が着替えている動画が残っていた。そして、さらに信じられないことに…なんと、自分以外の女性の盗撮動画も発見してしまったというのだ。
「場所は脱衣所ではないんですけど、がやがやしてる場所で、おそらく駅かなんかですかね。エスカレーターで女性の足元にカメラを忍ばせ、スカート内の動画を撮っていたそうなんです。怖くなった直子さんは『どうしたらいいか』って私を頼ってきたのです」
そこで横井さんは、ひとまず「実家に避難しなさい」と直子さんに伝えたという。
「『弁護士に相談して、警察に行ったほうがいい』と言いました。数週間が経った頃、『彼とは離婚して裁判することにしました』と連絡がきたんですけど。それ以外はなにも連絡がないので、その後どうなったのかは知りません。私的にもかなりショックな出来事でしたね」
結婚とは愛し合ったり助け合ったりしながら、互いに信頼を築いていくものではないだろうか。相手を尊重していたら、一切の会話をせず趣味に没頭することはできないはずだ。ましてや、自らの趣味が暴走して相手を傷つけるなんてことも……。
いずれにせよ、夫婦間でのコミュニケーションは非常に大切だということ。それに加え、相手の本性を見抜くというスキルも、ますます重要になっている。
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