“世界一臭い食べ物”とも言われる缶詰「シュールストレミング」のフードサンプルが製作され、話題となっている。シュールストレミングは、輸入・販売を行う三幸貿易の通販ページによるとスウェーデンのバルト海沿岸で作られるニシンの缶詰のこと。春先に獲れた産卵前のニシンを塩漬けにして缶に詰めたもので、缶の中で発酵が進み、猛烈な臭気とガスが発生するという。開封の際には液が噴出し、周囲に被害を及ぼす危険があるとのこと。また、食べた後も、強烈なにおいがしばらく胃から上がってくるという。

このような“取り扱い要注意食品”のフードサンプルを作ったのは、大阪市にある食品サンプル製造メーカーのいわさきで、おそらく業界初だという。サンプルの画像を見ると、発酵したニシンの質感や色、そして猛烈な臭気がするという液体部分の雰囲気も見事に再現されている。世界初【シュールストレミングの食品サンプル作り方】〈装備〉ビニールエプロン・手袋・防毒マスクなお、いわさきはこんなコメントとともに製作工程の写真をX(旧Twitter)に投稿。防毒マスクを着けての作業となったようだが、いったいどのようなものだったのだろうか。またなぜ、シュールストレミングのサンプルを作ったのだろうか。いわさきの担当者に話を聞いた。展覧会に実物を展示できないので…――なぜシュールストレミングのサンプルを作ることになったの?当社のX(旧Twitter)の「鮒寿司」の食品サンプルについての投稿をご覧になった東京農業大学のご担当者様から、お問い合わせをいただきました。醸造・発酵の世界についての展示をする「JOZOO-醸造と発酵のせかい-」という企画展にシュールストレミングの展示も予定しているが、滅菌をしないため長期間の展示中に発酵が進んで缶が膨張して破裂してしまう可能性があって展示が難しい状況となっている。そのため食品サンプルが作れないか、もしくは缶のみの展示にするかを検討している、とのお話がありました。「シュールストレミング」の食品サンプル製作はおそらく業界でも初ですし、絶対に作る価値がある!と直感したのですが、強烈なにおいや密封状態の缶のなかで発酵が進むという取り扱いの難しい食材だという懸念があったため、社内でも製作の可・不可を検討したうえで、取り組むことになりました。――ちなみにサンプルを作るのにいくらかかるの?製作する食品サンプルの内容や、飲食店に陳列する・博物館に陳列する等の用途・お客様が求められるクオリティによって値段は変動しますので一概に言えないところがございます。どんなものでもご相談にのりますので、ぜひお気軽にお問い合わせいただければと思います。開けるとドブのようなにおいが続いて、実際に食品サンプルを担当した製作担当者にも話を聞いた。――依頼を受けた時どう思った?「世界一臭い」と言われている食材のご発注でしたので、半分は怖いもの見たさ、もう半分はこんな機会は一生のうちに今しかない!というわくわく感がありました。――どのような準備をして開封に臨んだの?蓋を開けて身を取り出すのに相当覚悟と準備、細心の注意を要しました。ネットでにおいや開け方、(実際に食べるわけではないですが)食べ方を調べまくり、東京農業大学様からも開封方法についてのアドバイスをいただいたり、情報収集をしたうえで、しっかりイメージトレーニングを行いました。〈装備〉ビニールエプロン・手袋・防毒マスク・水を張った寸胴鍋・缶切――実際に嗅いでみてどうだった?「世界一臭い」という前情報からどれくらい臭いのだろう…という期待値も高かったのですが、イメージよりは落ち着いていた感じです。おそらく鮮度がよかったのだと思います。開けた時はドブのようなにおいと魚の発酵したにおいが混じり合っていましたが、2日目は不思議とチーズのような良い発酵臭に変わっていました。――どのような工程で作ったの?(1)水の中に缶を沈め、缶切で穴を開けて中のガスを時間をかけて抜く(2)身を水とエタノールで洗い、臭気を出来るだけ取り除く(3)現物を様々なかたちに整え、シリコンを流し込んで型を作る(4)固まったシリコン型にシュールストレミングの色に着色したビニール樹脂を流し込み、オーブンで焼き固める(5)シリコン型から成形された部品を取り出す(6)写真を見ながらエアブラシや筆で身と皮に着色(7)出来上がったシュールストレミングのパーツを缶に上手く詰める(8)汁(塩水)部分の液を注いで固める(9)完成――作ってみてどうだった?食品サンプル製作自体の難易度はそこまで難しいものではありませんでした。ただ、製作に至るまでの工程がこれまでで群を抜いて難しかったです。――意識したところは?食品サンプルですのでもちろん“におい”はないのですが、「シュールストレミング」ということで、見る人の嗅覚に訴えかけなければいけないことを意識しました。発酵が進むと魚のかたちが崩れてくるとのことでしたが、届いた見本は綺麗に魚の姿も残っていたのでこれでは見た目でにおいが伝わらないと感じ、エタノールで浸した後に水で少しふやけさせ発酵が進んでいる状態を表現しました。実際の状態を再現するだけでなく「食べてみたさ」も感じていただけるように、皮側だけでなく身も見せるようにいろいろな形で型入れをし、着色や盛り付けを工夫して食品サンプルにしました。担当者の「製作に至るまでの工程がこれまでで群を抜いて難しかった」という言葉に、今回の食品サンプルの大変さが凝縮されているのではないだろうか。なお、このシュールストレミングのフードサンプルは、東京農業大学で2024年4月6日まで開催中の展示「JOZOO -醸造と発酵のせかい-」で見ることができる。
“世界一臭い食べ物”とも言われる缶詰「シュールストレミング」のフードサンプルが製作され、話題となっている。
シュールストレミングは、輸入・販売を行う三幸貿易の通販ページによるとスウェーデンのバルト海沿岸で作られるニシンの缶詰のこと。春先に獲れた産卵前のニシンを塩漬けにして缶に詰めたもので、缶の中で発酵が進み、猛烈な臭気とガスが発生するという。
開封の際には液が噴出し、周囲に被害を及ぼす危険があるとのこと。また、食べた後も、強烈なにおいがしばらく胃から上がってくるという。
このような“取り扱い要注意食品”のフードサンプルを作ったのは、大阪市にある食品サンプル製造メーカーのいわさきで、おそらく業界初だという。
サンプルの画像を見ると、発酵したニシンの質感や色、そして猛烈な臭気がするという液体部分の雰囲気も見事に再現されている。
世界初【シュールストレミングの食品サンプル作り方】〈装備〉ビニールエプロン・手袋・防毒マスク
なお、いわさきはこんなコメントとともに製作工程の写真をX(旧Twitter)に投稿。防毒マスクを着けての作業となったようだが、いったいどのようなものだったのだろうか。またなぜ、シュールストレミングのサンプルを作ったのだろうか。
いわさきの担当者に話を聞いた。
――なぜシュールストレミングのサンプルを作ることになったの?
当社のX(旧Twitter)の「鮒寿司」の食品サンプルについての投稿をご覧になった東京農業大学のご担当者様から、お問い合わせをいただきました。
醸造・発酵の世界についての展示をする「JOZOO-醸造と発酵のせかい-」という企画展にシュールストレミングの展示も予定しているが、滅菌をしないため長期間の展示中に発酵が進んで缶が膨張して破裂してしまう可能性があって展示が難しい状況となっている。そのため食品サンプルが作れないか、もしくは缶のみの展示にするかを検討している、とのお話がありました。
「シュールストレミング」の食品サンプル製作はおそらく業界でも初ですし、絶対に作る価値がある!と直感したのですが、強烈なにおいや密封状態の缶のなかで発酵が進むという取り扱いの難しい食材だという懸念があったため、社内でも製作の可・不可を検討したうえで、取り組むことになりました。
――ちなみにサンプルを作るのにいくらかかるの?
製作する食品サンプルの内容や、飲食店に陳列する・博物館に陳列する等の用途・お客様が求められるクオリティによって値段は変動しますので一概に言えないところがございます。どんなものでもご相談にのりますので、ぜひお気軽にお問い合わせいただければと思います。
続いて、実際に食品サンプルを担当した製作担当者にも話を聞いた。
――依頼を受けた時どう思った?
「世界一臭い」と言われている食材のご発注でしたので、半分は怖いもの見たさ、もう半分はこんな機会は一生のうちに今しかない!というわくわく感がありました。
――どのような準備をして開封に臨んだの?
蓋を開けて身を取り出すのに相当覚悟と準備、細心の注意を要しました。ネットでにおいや開け方、(実際に食べるわけではないですが)食べ方を調べまくり、東京農業大学様からも開封方法についてのアドバイスをいただいたり、情報収集をしたうえで、しっかりイメージトレーニングを行いました。
〈装備〉ビニールエプロン・手袋・防毒マスク・水を張った寸胴鍋・缶切
――実際に嗅いでみてどうだった?
「世界一臭い」という前情報からどれくらい臭いのだろう…という期待値も高かったのですが、イメージよりは落ち着いていた感じです。おそらく鮮度がよかったのだと思います。開けた時はドブのようなにおいと魚の発酵したにおいが混じり合っていましたが、2日目は不思議とチーズのような良い発酵臭に変わっていました。
――どのような工程で作ったの?
(1)水の中に缶を沈め、缶切で穴を開けて中のガスを時間をかけて抜く(2)身を水とエタノールで洗い、臭気を出来るだけ取り除く(3)現物を様々なかたちに整え、シリコンを流し込んで型を作る
(4)固まったシリコン型にシュールストレミングの色に着色したビニール樹脂を流し込み、オーブンで焼き固める
(5)シリコン型から成形された部品を取り出す
(6)写真を見ながらエアブラシや筆で身と皮に着色(7)出来上がったシュールストレミングのパーツを缶に上手く詰める
(8)汁(塩水)部分の液を注いで固める(9)完成
――作ってみてどうだった?
食品サンプル製作自体の難易度はそこまで難しいものではありませんでした。ただ、製作に至るまでの工程がこれまでで群を抜いて難しかったです。
――意識したところは?
食品サンプルですのでもちろん“におい”はないのですが、「シュールストレミング」ということで、見る人の嗅覚に訴えかけなければいけないことを意識しました。
発酵が進むと魚のかたちが崩れてくるとのことでしたが、届いた見本は綺麗に魚の姿も残っていたのでこれでは見た目でにおいが伝わらないと感じ、エタノールで浸した後に水で少しふやけさせ発酵が進んでいる状態を表現しました。
実際の状態を再現するだけでなく「食べてみたさ」も感じていただけるように、皮側だけでなく身も見せるようにいろいろな形で型入れをし、着色や盛り付けを工夫して食品サンプルにしました。
担当者の「製作に至るまでの工程がこれまでで群を抜いて難しかった」という言葉に、今回の食品サンプルの大変さが凝縮されているのではないだろうか。