政府、自治体、経済団体は、こぞって「2050年カーボンニュートラルを目指す」、つまりCO2をゼロにする、「脱炭素社会」を宣言している。だが、脱炭素とは、石油もガスも石炭も禁止するということだ。経済が大きな打撃を受けることは容易に想像がつく。そもそも、脱炭素によって、温暖化が解消されるのだろうか?経済誌プレジデント元編集長の小倉健一氏が解説する――。
「日本維新の会」所属の足立康史衆議院議員が、11月25日、X(旧Twitter)に「ガソリン代は、高くていいのです」とポスト(投稿)した。続けて、「まさか、このポストだけ読んでリプしてる人は居ないと信じたいけど、先行するポストを読んでない人向けに、文脈を補足しておきます。地球温暖化対策、脱炭素という長期的な経済構造の観点から言えば、『ガソリン代は高くていいのです。』」と自身のポスト内容を補足した。
足立議員のいう「ガソリン代は、高くていいのです」という認識について、今回は考えを述べたい。
まず、文脈を切り取っているという指摘を受けないためにも、まずは「地球温暖化対策」としての「脱炭素」について述べる。足立議員を含む、多くの人も間違った認識を持っている可能性がある。
2023年9月25日に発表された『温室効果ガスの排出によって気温レベルはどの程度変化しているのか?』(https://www.ssb.no/en/natur-og-miljo/forurensning-og-klima/artikler/to-what-extent-are-temperature-levels-changing-due-to-greenhouse-gas-emissions、この論文はノルウェー語で執筆されているが、筆者はノルウェー語ができない。いったんDeepL翻訳ソフトを使って英語に直したものを読んでいる)という検証結果が分かりやすいだろう。検証したのは、ジョン・K・ダグスヴィック氏ら。ノルウェー統計局に所属している。
これは、2020年に発表された結論である<過去200年間にわたって、人間によるCO2の排出は、気温の変動に大きな体系的な変化をもたらすほどの強い影響を与えているわけではありません>を、気温データに関する過去の統計分析、理論的な議論と統計的な検定を用いて、検証したのだ。
そう、繰り返すが、<過去200年間にわたって、人間によるCO2の排出は、気温の変動に大きな体系的な変化をもたらすほどの強い影響を与えているわけではありません>という結論は、正しかったのだ。つまり、地球温暖化は進んでいるけれど、人類が排出するCO2を減らしたところでどうこうなる問題ではないということだ。
この検証では、以下のようなことが指摘されている。
・過去200年間に観測された気温のデータには、長期的な周期性と温度上昇の傾向が一貫してみられる・グリーンランドの現在の10年平均気温は、過去4000年間の自然変動の範囲を超えていない・2031年から2043年の10年間で、地球の平均気温は -1.0℃下がると予想される・地球の気温変動には複数の要因がありますが、その一つに太陽と月が引き起こす気温の周期があり、この周期は最大で約4450年に及ぶ。また、数十年ごとの気温変動の主要な原因は、木星型惑星(木星、土星、天王星、海王星)と海王星が生成する一定の軌道周期によるもの・人間によるCO2の排出は、気温の変動に大きな体系的な変化をもたらすほどの強い影響を与えているわけではない
検証では、地球の気候が複雑で、CO2が地球温暖化に影響を与えることが証明できなかった一方で、過去の気候変動の枠内で現在の気候が変動していることを指摘している。 つまり、地球温暖化対策で、脱炭素を行うのは間違いであるということだ。
では次に行こう。「ガソリン代は高くていい」のかということだ。
これは、現在、失速をはじめたドイツ経済の例を考えるとわかりやすいだろう。国際通貨基金(IMF)の最新報告によると、ドイツ経済は今年-(マイナス)0.5%になるという。IMFによれば、アメリカは2.1%、日本は2%、イギリスは0.5%、ユーロ圏全体でさえ0.7%の経済成長が見込まれる中で、「一人負け」のような状態になっている。
IMFは、ドイツが「世界的に遅れをとっている」原因の一つとして、次のようにいう。
「ロシアのエネルギー輸入に大きく依存していた経済(とりわけドイツ)は、エネルギー価格の急騰と、より急激な景気後退を記録した」
ドイツ連邦議会では野党のハンスイェルク・ドゥルツ氏(カウダー独連邦議会キリスト教民主同盟・社会同盟)は、「ドイツの現在の経済危機は自業自得だ。グリーンな計画経済の代わりに、古典的で明確な供給サイドの政策が必要だ。官僚的なコストを削減し、税金や賦課金を減らしてエネルギー価格を下げ、企業の研究開発を強化する。そうでなければ、ドイツは長期的に遅れをとる恐れがある」(ドイツ経済ニュース『DeutscheWirtschaftsNachrichten』11月21日)と批判をしている。
また同記事内では、ドイツ商工会議所(DIHK)のマルティン・ヴァンスレーベン専務理事のコメントも記載されている。
「エネルギー価格の高騰、将来のエネルギー供給に対する不安、高い税金や関税、官僚主義、熟練労働者の不足、世界経済の低迷などが、ビジネスの重荷になっている」
燃料代の高騰がドイツ経済を悪化させているという声を足立議員はどう受け止めるのだろうか。炭素税は日本企業の国際競争力を奪うものだ。
「長期的な経済構造の観点から言えば、ガソリン代は高くていいのです」という足立議員の主張には、首を傾げざるを得ない。短期的にも長期的にもエネルギー代は安い方がいいと、経営者の感覚なら考えるのではなかろうか。
ちなみに、ドイツ紙で批判される「官僚主義」「計画経済」だが、足立議員は、経産省出身の元官僚だ。今後政権交代をしようという政党の有力議員がこの主張するのでは、警戒するほかあるまい。
最後に、燃料代の高騰がいかに貧困層を痛めつけるかについても述べておこう。
ガソリン・灯油などの燃料、光熱費は、所得が増加するにつれて、より多く消費されるようになる。しかし貧困層の相対的な負担は、可処分所得がはるかに低いことを考えると、より高い。また、容易に想像できることだが、都市部では、灯油暖房代の比率が低く、公共交通インフラが発達しているが、地方では逆だ。収入第Ⅰ分位(年収・約330万未満の世帯)と呼ばれる所得層の家計消費支出に占めるエネルギー関連の支出は、10%超える水準で推移しているが、地方ではさらに大きな割合を占めていることになる。
足立議員のいう「ガソリン代は、高くていいのです」は、倫理的にも誤った認識であることがわかるだろう。足立議員は、かつて貯金を含む金融資産に課税するとして、世論の不評を買った経緯がある。
増税するまえに何かすることがあるというのが、維新の掲げた精神だったと思っていたが、トリガー条項の発動にも否定的な発言を繰り返している。本音が出たのだろう。とても残念だ。
「増税メガネ」と揶揄された岸田文雄首相ですら、こんな認識には至らないのではないのではないのだろうか。政治家の発言として、軽すぎるし、ひどすぎる。