ベビーシッター派遣業務では国内最大手で、全国300カ所以上の保育園を運営する株式会社ポピンズ(東京都渋谷区)で起きた中村紀子会長(74)による会社の私物化と社員へのパワハラ疑惑。デイリー新潮の取材直後の11月22日、中村氏は会長を退任し、彼女の娘で社長の轟麻衣子氏(47)は社員に謝罪したという。しかし、元社員らは「問題はこれだけではない」と憤る。会議での吊し上げや全社員が参加する「中村会長サプライズバースデー」の実態とは。
【写真】社員200名が参加「前会長のお誕生日会」轟社長がプレゼントした「高級スニーカー」を履いた足を高く掲げる“驚きの姿”泣きながら「お怪我報告」 11月27日、轟社長は社員らに対し、デイリー新潮が報じたパワハラ疑惑について直接説明したという。中村紀子前会長(左)と轟麻衣子社長(右)(ポピンズのHPより)「騒動を謝罪した上で、『会長は病状が悪化し、厳しい言動が多くなっていた』と説明しました。『私もポピンズも生まれ変わっていく』と涙ながらに話していましたが、正直、白けていた人が多かったですね。27日以降、株価も年初来安値を更新し続けています」(ポピンズの社員) デイリー新潮は複数の社員や元社員に取材した。「記事にあった自宅の家事を行う社員だけでなく、ポピンズやグループ会社の多くの社員が、前会長から暴言などのパワハラを受けています。そのため、入社後2、3週間で退職する人もおり、慢性的な人員不足の状態でした」(元社員) 社員らが恐れるのが、月に1回開かれる全社会議だという。「保育園の施設長や本社の社員ら約400人が参加するオンラインでの全体会議では、中村前会長に罵倒されて泣き出す社員もいます。『お怪我報告』といって、保育所で起きた怪我や事故を施設長が報告する時間があり、報告者は前会長から『この人、辞めさせて』などときつい言葉で罵倒されます。反省している態度を見せるために泣きながら謝罪し、とにかく時間が過ぎるのを待つしかありません。怪我の報告をすることは再発防止のために重要なことですが、それをきっかけに吊るし上げのような状態になります。それを恐れて、怪我や事故の事実を隠す園があってもおかしくはありませんでした」(同)“見た目”について怒られる 罵倒されるのはオンライン会議の場だけではない。別の元社員はこう証言する。「会社でコピーをしていると、前会長に声を掛けられ、『なぜ契約が取れていないの』などと怒られました。担当外の業務内容だったのでそれを説明しましたが、『担当でしょう』と聞き入れてもらえず、怒られ続けました」 前会長が出社する日は、社員らは戦々恐々としていたという。「出社する日が分かると、パワハラに耐えられそうな社員だけが社内に残り、派遣社員や新入社員はその時間だけ席を外してもらうようにしていました。そうしないとショックを受けて退職してしまうかもしれないからです」(同) 前会長は、社員の“見た目”に関して怒ることも多かったという。「前会長も社長も派手な服装が好みで、社員の身なりにも非常に厳しい。ネイビーやグレーのスーツを着ていると、地味だと怒られたこともあります。オンライン会議でも服装や顔つきなどについて怒られるため、社員は口紅をポケットに入れて、いつでも塗り直せるように準備しているのです。入社式の時は、新入社員がきちんとメイクできているかどうか、前会長に会う前に社員が確認していました」(同)スニーカーを履いた足を高く掲げ… 元社員らが口をそろえて「異様だった」と言うのは、誕生日会だ。毎年、中村前会長と轟社長の誕生日には、社員らによるサプライズイベントが行われるという。「中村代表バースデーサプライズ」と銘打たれた2021年の誕生日会は、コロナ禍でZoomを通して行われた。このパーティーに参加した元社員が証言する。「200人以上の社員が参加したのですが、開始時刻が遅れ、1時間以上も待機しなければなりませんでした。前会長は自宅からオンラインで参加していたようで、社員がハーモニカ演奏の余興をしたり、お祝いメッセージを読み上げたりする様子を、シャンパンを飲みながら眺めていました」 そんなオンライン誕生日会の中で、中村前会長が最も感激したのが轟社長からの高級スニーカーのプレゼントだった。「社長は2カ月前にヨーロッパから取り寄せたロジェヴィヴィエというブランドの靴だと紹介していました。秘書に探させてやっと手に入れたそうで、チャットでも『これもう日本では売っておりません』『毎日のチョコ(わんちゃん)の散歩に是非』などと盛り上げていました。さらに社長が促すと、前会長がスニーカーを履いた足を高く掲げ、カメラ越しに社員たちに見せる一幕も。正直言って、何をやってるんだろうという気持ちになりました」(同)本社の社員を“ナニー”として派遣 さらに、パワハラとは別の問題についても証言を得た。 ポピンズの事業の根幹となるのは、“ナニー”と呼ばれるベビーシッターを派遣する事業である。同社の公式ホームページよると、《当日オーダーOK、24時間365日いつでも対応!》といい、約2500人のナニーが所属していると記されている。「登録しているナニーの数が足りていません。給料が安いため募集しても人が集まらないのです」(元社員) 繁忙期となる秋以降は、依頼があっても対応しきれない場合が多いという。「ナニーが見つからない時は、普段はナニーの手配をしている本社の社員が現場に行かされるのです。ぎりぎりまで手配に奔走して、ダメなら自分が行くといった感じです。当然、実務経験は乏しく、社員も不安がっています」(同) 別の元社員も「普段はデスクワークをしている社員が、人手が足りない時に自らナニーとして契約家庭に行くということはよくありました。ただし、最低限の研修は受けているので、社内の基準はクリアしており、全くの素人というわけではありません」と証言する。社長の人望は薄い さて、先の誕生日会の様子からも分かるように、前会長と社長の親子関係は良好なようだ。「麻衣子さんが社長になってからも、実質的に中村前会長の意向で全てが進んでいました。採用面接の際は、前会長と社長、それぞれと面接がありましたが、事前に人事から『社長と会長は意見が違う』『会長は強烈な人なんでメンタルを強く持ってください』とも言われました」(別の元社員) 数年前に退職した社員は、親子関係についてこう証言する。「社長は、一代で会社を築き上げた母親のことを尊敬するあまり、言いなりになってしまっているのだろうと思います。会議などで中村前会長が社員を罵倒する場面を轟社長や他の経営陣も見ていますが、それを止めることはありません。古くからいる社員は、前会長のきつい性格に辟易としていますが、経営者としての手腕を評価し、尊敬している人もいます。彼女は情に厚い性格でもあるのです。一方の轟社長は、社員からの人望はあまりなく、影が薄い存在です。社長に就任した直後は、社員と親睦を深めるため、社内でワインパーティーを開いたこともありました。ただ、社員は残業中でパーティーどころではなく、逆に反感を買っていました」 今後、会社はどう変化するのだろうか。先の現役社員はこう不安を漏らす。「最近話題のオーナー企業と同様、同族経営が続けば、今後も中村前会長による院政が敷かれることは容易に想像がつきます。社長や経営陣は本当に反省しているのか、疑問が残ります」 ポピンズに事実関係を確認したところ「ご質問にかかる事実関係については、現在調査中であり、詳細な回答は控えさせていただきます。本社の社員がサービスに伺う場合でも、ナニーと同様に必要十分な研修を受講してサービスに入っております」との回答があった。デイリー新潮編集部
11月27日、轟社長は社員らに対し、デイリー新潮が報じたパワハラ疑惑について直接説明したという。
「騒動を謝罪した上で、『会長は病状が悪化し、厳しい言動が多くなっていた』と説明しました。『私もポピンズも生まれ変わっていく』と涙ながらに話していましたが、正直、白けていた人が多かったですね。27日以降、株価も年初来安値を更新し続けています」(ポピンズの社員)
デイリー新潮は複数の社員や元社員に取材した。
「記事にあった自宅の家事を行う社員だけでなく、ポピンズやグループ会社の多くの社員が、前会長から暴言などのパワハラを受けています。そのため、入社後2、3週間で退職する人もおり、慢性的な人員不足の状態でした」(元社員)
社員らが恐れるのが、月に1回開かれる全社会議だという。
「保育園の施設長や本社の社員ら約400人が参加するオンラインでの全体会議では、中村前会長に罵倒されて泣き出す社員もいます。『お怪我報告』といって、保育所で起きた怪我や事故を施設長が報告する時間があり、報告者は前会長から『この人、辞めさせて』などときつい言葉で罵倒されます。反省している態度を見せるために泣きながら謝罪し、とにかく時間が過ぎるのを待つしかありません。怪我の報告をすることは再発防止のために重要なことですが、それをきっかけに吊るし上げのような状態になります。それを恐れて、怪我や事故の事実を隠す園があってもおかしくはありませんでした」(同)
罵倒されるのはオンライン会議の場だけではない。別の元社員はこう証言する。
「会社でコピーをしていると、前会長に声を掛けられ、『なぜ契約が取れていないの』などと怒られました。担当外の業務内容だったのでそれを説明しましたが、『担当でしょう』と聞き入れてもらえず、怒られ続けました」
前会長が出社する日は、社員らは戦々恐々としていたという。
「出社する日が分かると、パワハラに耐えられそうな社員だけが社内に残り、派遣社員や新入社員はその時間だけ席を外してもらうようにしていました。そうしないとショックを受けて退職してしまうかもしれないからです」(同)
前会長は、社員の“見た目”に関して怒ることも多かったという。
「前会長も社長も派手な服装が好みで、社員の身なりにも非常に厳しい。ネイビーやグレーのスーツを着ていると、地味だと怒られたこともあります。オンライン会議でも服装や顔つきなどについて怒られるため、社員は口紅をポケットに入れて、いつでも塗り直せるように準備しているのです。入社式の時は、新入社員がきちんとメイクできているかどうか、前会長に会う前に社員が確認していました」(同)
元社員らが口をそろえて「異様だった」と言うのは、誕生日会だ。毎年、中村前会長と轟社長の誕生日には、社員らによるサプライズイベントが行われるという。
「中村代表バースデーサプライズ」と銘打たれた2021年の誕生日会は、コロナ禍でZoomを通して行われた。このパーティーに参加した元社員が証言する。
「200人以上の社員が参加したのですが、開始時刻が遅れ、1時間以上も待機しなければなりませんでした。前会長は自宅からオンラインで参加していたようで、社員がハーモニカ演奏の余興をしたり、お祝いメッセージを読み上げたりする様子を、シャンパンを飲みながら眺めていました」
そんなオンライン誕生日会の中で、中村前会長が最も感激したのが轟社長からの高級スニーカーのプレゼントだった。
「社長は2カ月前にヨーロッパから取り寄せたロジェヴィヴィエというブランドの靴だと紹介していました。秘書に探させてやっと手に入れたそうで、チャットでも『これもう日本では売っておりません』『毎日のチョコ(わんちゃん)の散歩に是非』などと盛り上げていました。さらに社長が促すと、前会長がスニーカーを履いた足を高く掲げ、カメラ越しに社員たちに見せる一幕も。正直言って、何をやってるんだろうという気持ちになりました」(同)
さらに、パワハラとは別の問題についても証言を得た。
ポピンズの事業の根幹となるのは、“ナニー”と呼ばれるベビーシッターを派遣する事業である。同社の公式ホームページよると、《当日オーダーOK、24時間365日いつでも対応!》といい、約2500人のナニーが所属していると記されている。
「登録しているナニーの数が足りていません。給料が安いため募集しても人が集まらないのです」(元社員)
繁忙期となる秋以降は、依頼があっても対応しきれない場合が多いという。
「ナニーが見つからない時は、普段はナニーの手配をしている本社の社員が現場に行かされるのです。ぎりぎりまで手配に奔走して、ダメなら自分が行くといった感じです。当然、実務経験は乏しく、社員も不安がっています」(同)
別の元社員も「普段はデスクワークをしている社員が、人手が足りない時に自らナニーとして契約家庭に行くということはよくありました。ただし、最低限の研修は受けているので、社内の基準はクリアしており、全くの素人というわけではありません」と証言する。
さて、先の誕生日会の様子からも分かるように、前会長と社長の親子関係は良好なようだ。
「麻衣子さんが社長になってからも、実質的に中村前会長の意向で全てが進んでいました。採用面接の際は、前会長と社長、それぞれと面接がありましたが、事前に人事から『社長と会長は意見が違う』『会長は強烈な人なんでメンタルを強く持ってください』とも言われました」(別の元社員)
数年前に退職した社員は、親子関係についてこう証言する。
「社長は、一代で会社を築き上げた母親のことを尊敬するあまり、言いなりになってしまっているのだろうと思います。会議などで中村前会長が社員を罵倒する場面を轟社長や他の経営陣も見ていますが、それを止めることはありません。古くからいる社員は、前会長のきつい性格に辟易としていますが、経営者としての手腕を評価し、尊敬している人もいます。彼女は情に厚い性格でもあるのです。一方の轟社長は、社員からの人望はあまりなく、影が薄い存在です。社長に就任した直後は、社員と親睦を深めるため、社内でワインパーティーを開いたこともありました。ただ、社員は残業中でパーティーどころではなく、逆に反感を買っていました」
今後、会社はどう変化するのだろうか。先の現役社員はこう不安を漏らす。
「最近話題のオーナー企業と同様、同族経営が続けば、今後も中村前会長による院政が敷かれることは容易に想像がつきます。社長や経営陣は本当に反省しているのか、疑問が残ります」
ポピンズに事実関係を確認したところ「ご質問にかかる事実関係については、現在調査中であり、詳細な回答は控えさせていただきます。本社の社員がサービスに伺う場合でも、ナニーと同様に必要十分な研修を受講してサービスに入っております」との回答があった。
デイリー新潮編集部