世襲政治家が多すぎる─―叩き上げの野田佳彦・元首相が国会で「ルパンだって三世まで」と批判して話題となったが、岸田文雄・首相をはじめ閣僚の約半数が世襲だ。自民党の世襲議員の「政治とカネ」を徹底取材すると、“庶民感覚”は微塵も感じられなかった。これでは、国民の生活苦など理解できるはずもない。
【写真12枚】20代女性A子さんの自宅マンションの玄関ロビーでA子さんを見つめる山口晋代議士。他、A子さんの隣に立つネクタイを緩めた山口代議士、アザーカットも 自民党の2世議員といえば、本誌・週刊ポストが前号(2023年11月27日発売号)で20代女性A子さんとの不同意“泥酔キス”トラブルを報じた山口晋・代議士もその1人だ。トラブルの内容は、国会議員の立場以前に社会人としての姿勢が問われるものだった。

11月1日夜、山口氏はA子さんが勤めていた東京・赤坂にあるラウンジに先輩議員と飲みに行き、「テキーラ飲もうよ」「もっと強いお酒ないの?」などと言ってA子さんとさんざんお酒を飲んだ。その後、店を出てA子さんらと韓国料理店で食事、泥酔したA子さんを自宅マンションまで送った。“事件”はそこで起きた。エレベーター内で山口氏が泥酔状態のA子さんにキスしている場面をA子さんの母親が目撃したのだ。驚いた母親が引き離すまで、A子さんはキスされたことにさえ気づかなかったと証言した。 母親に何者なのかと問われた山口氏は「埼玉のガス会社の者」と名乗り、母親が警察を呼ぶ事態になった。 その後、A子さんは山口氏からセクハラを受けたと警察に被害届を提出。一方の山口氏側も、A子さんの母親から「慰謝料30万円」を要求されたことなどが悪質な恐喝行為に該当する可能性があると警察に相談しているという。 山口事務所は本誌の取材に、キスの経緯については一切回答せず、「ガス会社の者」と名乗ったことは「事実に基づいた説明で偽りではない」と主張した。 そこから山口氏の新たな疑惑が浮上した。「ガス会社」からの寄附 山口氏の父・泰明氏は自民党選対委員長や組織運動本部長を歴任し、菅義偉・前首相の側近として知られた大物政治家だ。議員時代から、選挙区(埼玉10区)の坂戸市を中心とする埼玉県中部エリアに都市ガスを供給する「坂戸ガス」の社長兼会長を務め、政治的にも経済人としても文字通り地元の実力者である。 次男である山口晋氏は成城大学卒業後、一橋大学大学院、留学を経て東京ガスに入社。2018年に官房長官だった菅氏の秘書となり、1年間務めた後、2019年に父の秘書となった。坂戸ガスの会社登記によると、山口氏はこの年の6月、坂戸ガスの取締役に就任、現在も国会議員と坂戸ガス取締役を兼職している。A子さんの母親に「ガス会社の者」と名乗ったことは確かにウソではない。 そして父の泰明氏が前回総選挙(2021年10月31日投開票)で引退すると、晋氏が地盤を継いで埼玉10区で当選した。 疑惑はこの世襲選挙をめぐるものだ。総選挙1か月前の同年9月30日、山口父子が経営する坂戸ガスが、地元の坂戸市に1000万円、鶴ヶ島市に350万円、鳩山町に150万円と、選挙区内の3自治体に総額1500万円を寄附したのだ。 坂戸市の担当者は総選挙直後、本誌の取材に経緯をこう語っていた。「坂戸ガスの50周年記念事業の一環として寄附をいただいた。振り込みが9月30日。寄附を受けることを決裁したのは市長です」 地元では坂戸市長は泰明氏と近い山口陣営の有力者として知られ、現在も「地盤を継いだ晋氏と毎月のように会合を持っている」(地元政界関係者)と言われる人物だ。 他の2市町も同じ日に坂戸ガスから寄附を受けていた。それを受けて鶴ヶ島市は寄附の「贈呈式」を行ない、市長はブログで泰明氏とのツーショット写真とともに紹介(後に削除)。鳩山町も広報誌で町民に寄附を告知した。 その1週間ほど後、衆院解散が確定的となったことを受けて同選挙区の有権者に新聞折り込みなどで配布された自民党機関紙『自由民主』の号外には、候補者である山口氏のガッツポーズの写真と、父・泰明氏の「山口すすむが、継承します」という紹介文、さらに寄附を受けた坂戸市の市長、鶴ヶ島市長、鳩山町長ら選挙区内の首長らの写真がズラリと並び、こうメッセージが書かれていた。「地域の発展のため山口すすむ支部長の力が必要です」父親とのツーショット写真 坂戸ガスの寄附が、選挙戦で効果的に使われ、山口父子の“議席の世襲”を有利にしたのではないか。まさに親から「地盤」「看板」「カバン(資金)」を受け継ぐ“ザ・世襲議員”ならではの選挙のやり方と言えよう。さらに、このケースは選挙違反の疑いがある。公職選挙法(199条の3)は、「公職の候補者等の関係会社等の寄附の禁止」をこう定めている。〈公職の候補者(中略)がその役職員又は構成員である会社その他の法人又は団体は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、これらの者の氏名を表示し又はこれらの者の氏名が類推されるような方法で寄附をしてはならない〉 泰明氏が引退を表明し、自民党埼玉県連が山口氏を埼玉10区の候補者に決定したのは2021年7月。坂戸ガスの寄附(9月)は山口氏が「公職の候補者等」となった後に、「公職の候補者が役職員である会社」の坂戸ガスから選挙区内になされたことは明白だ。 しかも、鶴ヶ島市長が「贈呈式」で泰明氏から寄附の目録を受け取った時のツーショット写真を公表し、その泰明氏は有権者に配布した党の機関紙で「山口すすむが、継承します」とアピールしているのだから、候補者の類推は容易にできる。公選法や政治とカネの問題に詳しい上脇博之・神戸学院大学法学部教授が指摘する。「公選法199条の3の条文では『これらの者の氏名を表示し又はこれらの者の氏名が類推されるような方法で』となっているが、坂戸ガスの経営者が山口家であることは知られており、受け取った自治体も十分承知しているのではないでしょうか。だから公選法に抵触する可能性は高い」 実は、この問題は選挙後、坂戸市議会で追及され、市民団体が父の泰明氏を検察に告発。今年3月、さいたま地検は泰明氏の不起訴処分を決定した。だが、息子の晋氏は告発されていなかった。上脇氏が続ける。「父の泰明氏は寄附当時、坂戸ガスの代表で現職国会議員ではあったが、引退を決めているので候補者ではなかった。それに対して、息子の晋氏は坂戸ガスの役員で公職の候補者だったから、父の泰明氏以上に公選法に抵触する要件を満たしていると言えます」 山口事務所に聞くと、「坂戸ガスにお尋ねください」と回答。坂戸ガスは、「既に不起訴が決定され、適法とされている」と回答した。不起訴と適法は違う。しかも、今回の問題は父の泰明氏ではなく山口氏自身の関与だ。 回答も父の会社に“おんぶに抱っこ”だった。※週刊ポスト2023年12月15日号
自民党の2世議員といえば、本誌・週刊ポストが前号(2023年11月27日発売号)で20代女性A子さんとの不同意“泥酔キス”トラブルを報じた山口晋・代議士もその1人だ。トラブルの内容は、国会議員の立場以前に社会人としての姿勢が問われるものだった。
11月1日夜、山口氏はA子さんが勤めていた東京・赤坂にあるラウンジに先輩議員と飲みに行き、「テキーラ飲もうよ」「もっと強いお酒ないの?」などと言ってA子さんとさんざんお酒を飲んだ。その後、店を出てA子さんらと韓国料理店で食事、泥酔したA子さんを自宅マンションまで送った。
“事件”はそこで起きた。エレベーター内で山口氏が泥酔状態のA子さんにキスしている場面をA子さんの母親が目撃したのだ。驚いた母親が引き離すまで、A子さんはキスされたことにさえ気づかなかったと証言した。
母親に何者なのかと問われた山口氏は「埼玉のガス会社の者」と名乗り、母親が警察を呼ぶ事態になった。
その後、A子さんは山口氏からセクハラを受けたと警察に被害届を提出。一方の山口氏側も、A子さんの母親から「慰謝料30万円」を要求されたことなどが悪質な恐喝行為に該当する可能性があると警察に相談しているという。
山口事務所は本誌の取材に、キスの経緯については一切回答せず、「ガス会社の者」と名乗ったことは「事実に基づいた説明で偽りではない」と主張した。
そこから山口氏の新たな疑惑が浮上した。
山口氏の父・泰明氏は自民党選対委員長や組織運動本部長を歴任し、菅義偉・前首相の側近として知られた大物政治家だ。議員時代から、選挙区(埼玉10区)の坂戸市を中心とする埼玉県中部エリアに都市ガスを供給する「坂戸ガス」の社長兼会長を務め、政治的にも経済人としても文字通り地元の実力者である。
次男である山口晋氏は成城大学卒業後、一橋大学大学院、留学を経て東京ガスに入社。2018年に官房長官だった菅氏の秘書となり、1年間務めた後、2019年に父の秘書となった。坂戸ガスの会社登記によると、山口氏はこの年の6月、坂戸ガスの取締役に就任、現在も国会議員と坂戸ガス取締役を兼職している。A子さんの母親に「ガス会社の者」と名乗ったことは確かにウソではない。
そして父の泰明氏が前回総選挙(2021年10月31日投開票)で引退すると、晋氏が地盤を継いで埼玉10区で当選した。
疑惑はこの世襲選挙をめぐるものだ。総選挙1か月前の同年9月30日、山口父子が経営する坂戸ガスが、地元の坂戸市に1000万円、鶴ヶ島市に350万円、鳩山町に150万円と、選挙区内の3自治体に総額1500万円を寄附したのだ。
坂戸市の担当者は総選挙直後、本誌の取材に経緯をこう語っていた。
「坂戸ガスの50周年記念事業の一環として寄附をいただいた。振り込みが9月30日。寄附を受けることを決裁したのは市長です」
地元では坂戸市長は泰明氏と近い山口陣営の有力者として知られ、現在も「地盤を継いだ晋氏と毎月のように会合を持っている」(地元政界関係者)と言われる人物だ。
他の2市町も同じ日に坂戸ガスから寄附を受けていた。それを受けて鶴ヶ島市は寄附の「贈呈式」を行ない、市長はブログで泰明氏とのツーショット写真とともに紹介(後に削除)。鳩山町も広報誌で町民に寄附を告知した。
その1週間ほど後、衆院解散が確定的となったことを受けて同選挙区の有権者に新聞折り込みなどで配布された自民党機関紙『自由民主』の号外には、候補者である山口氏のガッツポーズの写真と、父・泰明氏の「山口すすむが、継承します」という紹介文、さらに寄附を受けた坂戸市の市長、鶴ヶ島市長、鳩山町長ら選挙区内の首長らの写真がズラリと並び、こうメッセージが書かれていた。
「地域の発展のため山口すすむ支部長の力が必要です」
坂戸ガスの寄附が、選挙戦で効果的に使われ、山口父子の“議席の世襲”を有利にしたのではないか。まさに親から「地盤」「看板」「カバン(資金)」を受け継ぐ“ザ・世襲議員”ならではの選挙のやり方と言えよう。さらに、このケースは選挙違反の疑いがある。公職選挙法(199条の3)は、「公職の候補者等の関係会社等の寄附の禁止」をこう定めている。
〈公職の候補者(中略)がその役職員又は構成員である会社その他の法人又は団体は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、これらの者の氏名を表示し又はこれらの者の氏名が類推されるような方法で寄附をしてはならない〉
泰明氏が引退を表明し、自民党埼玉県連が山口氏を埼玉10区の候補者に決定したのは2021年7月。坂戸ガスの寄附(9月)は山口氏が「公職の候補者等」となった後に、「公職の候補者が役職員である会社」の坂戸ガスから選挙区内になされたことは明白だ。
しかも、鶴ヶ島市長が「贈呈式」で泰明氏から寄附の目録を受け取った時のツーショット写真を公表し、その泰明氏は有権者に配布した党の機関紙で「山口すすむが、継承します」とアピールしているのだから、候補者の類推は容易にできる。公選法や政治とカネの問題に詳しい上脇博之・神戸学院大学法学部教授が指摘する。
「公選法199条の3の条文では『これらの者の氏名を表示し又はこれらの者の氏名が類推されるような方法で』となっているが、坂戸ガスの経営者が山口家であることは知られており、受け取った自治体も十分承知しているのではないでしょうか。だから公選法に抵触する可能性は高い」
実は、この問題は選挙後、坂戸市議会で追及され、市民団体が父の泰明氏を検察に告発。今年3月、さいたま地検は泰明氏の不起訴処分を決定した。だが、息子の晋氏は告発されていなかった。上脇氏が続ける。
「父の泰明氏は寄附当時、坂戸ガスの代表で現職国会議員ではあったが、引退を決めているので候補者ではなかった。それに対して、息子の晋氏は坂戸ガスの役員で公職の候補者だったから、父の泰明氏以上に公選法に抵触する要件を満たしていると言えます」
山口事務所に聞くと、「坂戸ガスにお尋ねください」と回答。坂戸ガスは、「既に不起訴が決定され、適法とされている」と回答した。不起訴と適法は違う。しかも、今回の問題は父の泰明氏ではなく山口氏自身の関与だ。
回答も父の会社に“おんぶに抱っこ”だった。
※週刊ポスト2023年12月15日号