近年、国内の政治情勢などを背景に、日本に移住する中国人が増えているが、在日中国人が最も多く住んでいる地域はどこか、ご存じだろうか。法務省の在留外国人統計(2022年6月末時点)によると、それは東京都で、約22万2000人となっている。在日中国人総数は約75万人なので、約3~4分の1が東京都に居住していることになる(続いて多いのは、埼玉県、神奈川県、大阪府、千葉県の順)。
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さらに、都内での居住地域を細かく見てみると、最も多いのは江東区だった。2位は足立区、3位は江戸川区、4位は新宿区、5位は板橋区となっており、新宿区を除いて住宅地のイメージが強い地区となっている。中華料理店が多いイメージがある池袋を含む豊島区などはトップ5には入っていない。
なぜ、中国人はこれらの地域に多く住んでいるのか。同じ在日中国人でも、居住地域によって住んでいる人の特徴に違いはあるのか。各行政区の中国人に関する詳細な情報はないが、私はこれらの地区に住む中国人の知人に話を聞き、そこに住む理由を聞いてみた。そこから浮かび上がってきたものは――。
「中国人の友人から、この付近(江東区亀戸)はとにかく物価が安くて、庶民的で、中国食材店も多いから住みやすいよ、と勧められたので、数年前に移り住みました。会社は新宿なので、最寄りのJR総武線亀戸駅から1本で行けるし、出張のときには東京駅にも10分ほどでアクセスできるので、かなり便利ですよ」
こう語るのは、IT企業に勤務する30代の中国人男性Aさん。10年以上前、中国の東北部から来日し、日系、中国系企業に勤務してきた。以前は千葉県に住んでいたが、勤務先がある新宿に少しでも近いほうがよいと考えて、亀戸に移ったという。亀戸は、「亀戸天神」や「亀戸餃子」などがあり、下町の庶民的なイメージがある。その通り、駅から徒歩5分の距離には「亀戸五丁目中央通商店街」があり、レタスが2個で98円など激安の青果店や、Aさんが話していた中国食材店が数軒ある。連続して商店が軒を連ねているわけではないため、同じ総武線の(荒川を超えた江戸川区にある)新小岩、小岩などの商店街と比べると賑わっているというほどではなく、「中国人比率」はそれほど高くないように感じる。だが、Aさんによると、同商店街から西方向に数分歩いた距離にある「亀戸二丁目団地」では中国人を多く見かけるという。「私自身もそこに住んでいるのですが、とにかく中国人が多いですよ。家賃が安いし、ここには中国の団地みたいな雰囲気があるんです。団地の真ん中に中庭があり、クルマが中まで入ってこないので、小さな子どもが遊んでいても安心。交通量の多い道路に面したマンションよりも、建物に囲われている分、安心感があるんです」(Aさん)私もこの団地に足を運んだことがあるが、UR都市機構(独立行政法人都市再生機構)の物件で、保証人が不要であること、家賃が比較的安いこと(UR都市機構のウェブサイトによると、1LDK~3Kまでで約8万4000円~約13万3000円)、敷地内に激安スーパーがあるという諸条件が、中国人比率が全体の5割近い埼玉県川口市の芝園団地と酷似している。中国人ネットワーク同じ江東区に、もう一ヵ所、中国人が急速に増えている地域がある。豊洲だ。地下鉄有楽町線の豊洲駅に降り立つと、高層ビルやタワーマンションが複数そびえ立っており、亀戸と違って、生活感はまったく感じられない。私は今年5月に出版した『中国人が日本を買う理由』の中で、豊洲のタワーマンション(約7000万円)を購入した20代の若者のことを書いた。この若者が豊洲に引っ越してきたのは22年春。彼は私に「中国人の友人から、中国人の間でいま豊洲の人気が上がっていると聞き、20年に一室購入しました。上層階から海が見渡せる眺望も気に入りました」と話していた。このように、江東区内には、下町風情が漂い、激安店が多い亀戸と、新興都市としてオフィスビルが立ち並ぶ豊洲という2つの対照的な地区がある。公共交通機関も、JR総武線、地下鉄有楽町線、東西線、都営新宿線があり、いずれも都心へのアクセスがいい。それが(在日中国人が住む地域として)1位にランクインした理由の一つかもしれないと感じた。では、2位以下はどうなっているのか。江東区の次に中国人が多いのは足立区だ。以前はあまりイメージがよくないという日本人もいたが、リクルートが実施している「SUUMO住みたい町ランキング2023首都圏版」では北千住が28位にランクインするなど、近年は人気が上がっている。駅前にはルミネやマルイなどのファッションビルも立ち並んでいる北千住。駅前に中国をイメージするものはほとんどないが、住宅街や、近隣の竹ノ塚駅のほうまで行ってみると、中華食材店、中華料理店が増えている。私の知人の中国人も北千住に住んでいるが、彼は「知り合いの中国人不動産屋から、建売のいい一軒家があると紹介されたのが北千住でした。庭つきの家で子どもを伸び伸びと育てたいと、ここにしました。日比谷線の沿線に勤務先があるので便利なんです」と、引っ越してきた理由を話した。3位の江戸川区は前述した江東区と同じ路線上にあり、千葉県に近い。江東区と同じく、庶民的な商店が多く、家賃や物価が安い。JR総武線の平井駅付近には外国人留学生向けの日本語学校や、中国人専門の大学受験予備校があり、亀戸や小岩と並んで中国人率が非常に高い。同じ江戸川区葛西に住む知人の中国人は「東西線の葛西や行徳にも中国人が多いですが、平井は第二の高田馬場になるような気がする」と話す。その高田馬場があるのが4位の新宿区だ。歌舞伎町、大久保などの歓楽街のイメージがあるが、中国人にとっては、日本語学校や専門学校が多いところというイメージ。3年前に中国の高校を卒業後に来日した女性、Bさんは、高田馬場にある日本語学校に入学するのと同時に、同じ駅前にある大学受験予備校にも入学。その予備校の担当者から住居を紹介され、高田馬場にマンションを借りた。日本語学校、大学受験予備校、不動産店のいずれの担当者も中国人だ。高田馬場駅前を降りると、大学受験予備校の看板が多数並んでいる。そこに通う中国人留学生を目当てにした「ガチ中華」の店も多く、早稲田大学まで続く早稲田通り沿いには、中国で人気の飲食チェーン店が軒を連ねている。以前、駅前の大学受験予備校でアルバイトをしていたという中国人男性は、「この町が気に入り、受験が終わっても、この町に住み続けるという友だちが少なくないです」と話していた。5位は板橋区。板橋区は池袋がある豊島区に隣接しており、JR埼京線、都営三田線、東武東上線、地下鉄有楽町線・副都心線が走っている。都営三田線を除いた路線はすべて池袋駅につながっており、通勤に便利な割に家賃が比較的安く、庶民的なエリアだ。このように、中国人が多い地区のトップ5を見てみると、共通点が浮かび上がってくる。それは、比較的物価が安く、中国人の生活に欠かせない中国食材店や中華料理店が多いこと、10年以上前に来日した中国人がすでに多く住んでいて、安心感があること、中国人のネットワークで不動産物件を紹介された人が多いこと、都心への交通アクセスがよいこと、などだ。これらの情報は中国人が頻繁に使っているSNS、ウィーチャットで流れてくる。それを見て、さらに、そこに人が集住するという流れになっている。【後編】『日本に移住する中国人が「住む場所」に変化が起きていた…その「驚愕の実態」』では、これまでの在日中国人とは様相の異なる「在日中国人」が増えてきたことについて説明する。
こう語るのは、IT企業に勤務する30代の中国人男性Aさん。10年以上前、中国の東北部から来日し、日系、中国系企業に勤務してきた。以前は千葉県に住んでいたが、勤務先がある新宿に少しでも近いほうがよいと考えて、亀戸に移ったという。
亀戸は、「亀戸天神」や「亀戸餃子」などがあり、下町の庶民的なイメージがある。
その通り、駅から徒歩5分の距離には「亀戸五丁目中央通商店街」があり、レタスが2個で98円など激安の青果店や、Aさんが話していた中国食材店が数軒ある。連続して商店が軒を連ねているわけではないため、同じ総武線の(荒川を超えた江戸川区にある)新小岩、小岩などの商店街と比べると賑わっているというほどではなく、「中国人比率」はそれほど高くないように感じる。
だが、Aさんによると、同商店街から西方向に数分歩いた距離にある「亀戸二丁目団地」では中国人を多く見かけるという。
「私自身もそこに住んでいるのですが、とにかく中国人が多いですよ。家賃が安いし、ここには中国の団地みたいな雰囲気があるんです。団地の真ん中に中庭があり、クルマが中まで入ってこないので、小さな子どもが遊んでいても安心。交通量の多い道路に面したマンションよりも、建物に囲われている分、安心感があるんです」(Aさん)
私もこの団地に足を運んだことがあるが、UR都市機構(独立行政法人都市再生機構)の物件で、保証人が不要であること、家賃が比較的安いこと(UR都市機構のウェブサイトによると、1LDK~3Kまでで約8万4000円~約13万3000円)、敷地内に激安スーパーがあるという諸条件が、中国人比率が全体の5割近い埼玉県川口市の芝園団地と酷似している。
同じ江東区に、もう一ヵ所、中国人が急速に増えている地域がある。豊洲だ。
地下鉄有楽町線の豊洲駅に降り立つと、高層ビルやタワーマンションが複数そびえ立っており、亀戸と違って、生活感はまったく感じられない。
私は今年5月に出版した『中国人が日本を買う理由』の中で、豊洲のタワーマンション(約7000万円)を購入した20代の若者のことを書いた。この若者が豊洲に引っ越してきたのは22年春。
彼は私に
「中国人の友人から、中国人の間でいま豊洲の人気が上がっていると聞き、20年に一室購入しました。上層階から海が見渡せる眺望も気に入りました」
と話していた。
このように、江東区内には、下町風情が漂い、激安店が多い亀戸と、新興都市としてオフィスビルが立ち並ぶ豊洲という2つの対照的な地区がある。公共交通機関も、JR総武線、地下鉄有楽町線、東西線、都営新宿線があり、いずれも都心へのアクセスがいい。それが(在日中国人が住む地域として)1位にランクインした理由の一つかもしれないと感じた。では、2位以下はどうなっているのか。
江東区の次に中国人が多いのは足立区だ。以前はあまりイメージがよくないという日本人もいたが、リクルートが実施している「SUUMO住みたい町ランキング2023首都圏版」では北千住が28位にランクインするなど、近年は人気が上がっている。
駅前にはルミネやマルイなどのファッションビルも立ち並んでいる北千住。駅前に中国をイメージするものはほとんどないが、住宅街や、近隣の竹ノ塚駅のほうまで行ってみると、中華食材店、中華料理店が増えている。
私の知人の中国人も北千住に住んでいるが、彼は「知り合いの中国人不動産屋から、建売のいい一軒家があると紹介されたのが北千住でした。庭つきの家で子どもを伸び伸びと育てたいと、ここにしました。日比谷線の沿線に勤務先があるので便利なんです」と、引っ越してきた理由を話した。
3位の江戸川区は前述した江東区と同じ路線上にあり、千葉県に近い。江東区と同じく、庶民的な商店が多く、家賃や物価が安い。JR総武線の平井駅付近には外国人留学生向けの日本語学校や、中国人専門の大学受験予備校があり、亀戸や小岩と並んで中国人率が非常に高い。
同じ江戸川区葛西に住む知人の中国人は「東西線の葛西や行徳にも中国人が多いですが、平井は第二の高田馬場になるような気がする」と話す。
その高田馬場があるのが4位の新宿区だ。歌舞伎町、大久保などの歓楽街のイメージがあるが、中国人にとっては、日本語学校や専門学校が多いところというイメージ。3年前に中国の高校を卒業後に来日した女性、Bさんは、高田馬場にある日本語学校に入学するのと同時に、同じ駅前にある大学受験予備校にも入学。その予備校の担当者から住居を紹介され、高田馬場にマンションを借りた。日本語学校、大学受験予備校、不動産店のいずれの担当者も中国人だ。
高田馬場駅前を降りると、大学受験予備校の看板が多数並んでいる。そこに通う中国人留学生を目当てにした「ガチ中華」の店も多く、早稲田大学まで続く早稲田通り沿いには、中国で人気の飲食チェーン店が軒を連ねている。
以前、駅前の大学受験予備校でアルバイトをしていたという中国人男性は、「この町が気に入り、受験が終わっても、この町に住み続けるという友だちが少なくないです」と話していた。5位は板橋区。板橋区は池袋がある豊島区に隣接しており、JR埼京線、都営三田線、東武東上線、地下鉄有楽町線・副都心線が走っている。都営三田線を除いた路線はすべて池袋駅につながっており、通勤に便利な割に家賃が比較的安く、庶民的なエリアだ。
このように、中国人が多い地区のトップ5を見てみると、共通点が浮かび上がってくる。それは、比較的物価が安く、中国人の生活に欠かせない中国食材店や中華料理店が多いこと、10年以上前に来日した中国人がすでに多く住んでいて、安心感があること、中国人のネットワークで不動産物件を紹介された人が多いこと、都心への交通アクセスがよいこと、などだ。これらの情報は中国人が頻繁に使っているSNS、ウィーチャットで流れてくる。それを見て、さらに、そこに人が集住するという流れになっている。
【後編】『日本に移住する中国人が「住む場所」に変化が起きていた…その「驚愕の実態」』では、これまでの在日中国人とは様相の異なる「在日中国人」が増えてきたことについて説明する。