最近、18歳未満のケアラー「ヤングケアラー」や介護と仕事を両立しているケアラー「ビジネスケアラー」が話題だが、「ミドルケアラー」(就職氷河期ケアラー)がクローズアップされる機会は皆無である。
「ミドルケアラー」の定義を30~40代とすれば、総務省の令和3年社会基本調査によれば43万人いて、少子化や核家族化などの進行で一層の増加が予想される。結婚・出産・育児・仕事のキャリア形成、再就職難など人生のターニングポイントにさまざまな影響を及ぼす可能性があり、もっと社会問題化され適切な支援が行き届くべきだ。
筆者も家庭事情や経済的な事情、祖母に可愛がってもらったこともあり一日でも家で一緒にすごしたい思いなどを理由に、32歳から「ミドルケアラー」の一人として、認知症の祖母とガンや精神疾患の母の介護を計10年経験。生活困窮、ひきこもり、社会的疎外感や再就職難など、さまざまな困難に直面した。
介護中、介護後の影響は予想外に大きい。今も中程度の精神的な病気を抱えているし、ブランク期間が長く正社員に応募も内定がゼロ、母親が精神疾患のため長期入院中で書類手続き・施設探し・面会・主治医・看護師の病状説明などに時間が割かれる。以上の事情から自営業で働いている。それでも、「経験をプラスに変え私と似た境遇の人たちの力や支えになりたい」と在宅介護中にフリーライターになり、著書『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』を出版。ケアラーと生きづらさの伴走支援団体「よしてよせての会」代表、相談や講師をしている。
そんな筆者にとって、他人事とは思えない同世代の女性を取材した。
今回、37歳から祖母の介護を一人で担った早川真美さん(仮名=以下同)を取材した。家族構成は、祖母、母親、兄の4人。真美さんは母子家庭で育った。
真美さんは、大学卒業後新卒でサービス業の正社員に入社したが精神疾患を罹患し5年で自己退職。その後は、体調がいい時に単発のアルバイトをしながら80代後半の祖母と一緒に生活。母親は60代半ばで「一人で暮らすのが精神的に楽」と祖母と別居していた。
真美さんが祖母の異変に気がついたのは2022年春のこと。
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祖母の趣味は塗り絵で、バラや果物や凧あげ、スコップをもちながら農業する絵などを一から鮮やかにきめ細かく塗っていく。その塗り絵をコレクションのように自分の部屋に飾っていたのだが置き場所がわからなくなる回数が増えた。
「もしかして認知症?」
そう悟った真美さんは、祖母を説得し近所の脳神経外科に連れて行き、主治医から「アルツハイマー型認知症、中程度に進行しています」と告げられた。
「急に介護が必要になった。我が家はお金がなく施設に入れられないし、協力できる人がいないし一体どうすればいいんだろう」
真美さんには不安と動揺が駆け巡った。現に、母親は大病を何度も繰り返して体が弱く、兄は既婚して家庭もちで子どもが2人いる。2人に協力を頼んだものの、母親は「真美、ごめん。私お母さんを介護する体調に回復していない」、兄は「仕事と育児で忙しくてそれどころじゃない」との返答……。
「お金ぐらい出してよ。私一人でどうやっておばあちゃんをケアしろと言うのよ」(真美さん)
行き詰った彼女は主治医に相談したところ「真美さんは精神疾患を抱えておられますし、お祖母様の症状は悪化していきます。家でケアをするのは難しいです。施設に預けてください」と進言された。
しかし、真美さんは、祖母と学生時代から同居していて仲が良かったので、介護施設の入所ではなく他の選択肢を模索した。
「コロナは流行っているし祖母を介護施設に預けるとすぐボケが進行してしまうだろうな。既に目を離すと危ないところまで症状が進んでしまってるし…。プロの力を積極的に借りつつ介護をしてみようか」(真美さん)
また、知人から「一時的に生活保護を受けてみればいいんじゃない?家族全体が最低生活費を下回って親族の援助が頼れない保護対象なら、個人を世帯分離して保護できるはず」とアドバイスをうけた。
真美さんは、役所に行き事情を説明。施設入所を強く勧められたものの、結局、生活保護を受給。祖母のマンションの近くに賃貸アパートを借り在宅介護がスタートした。
真美さんは指示された通りケアマネージャーを選定し、ケアプランを作成してもらい早急に要介護認定の手続きを済ませた。祖母の介護度は「要介護2」。そのため、デイサービス9時~16時前まで週3回利用、訪問看護週1回30分、福祉用具リースレンタルであっという間に1ヶ月の介護保険利用上限額に達した。
祖母は国民年金で月8万しか収入がなく、毎月の介護サービス費約2万、食費月2.5万、光熱費月1万、医療費月7000円、固定資産税・管理費月1万の出費と毎月綱渡りの生活が続いていた。
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また真美さん自身も家賃を除くと月6万ほどで最低限の生活を送ることが求められた。先日、相次ぐ食品の値上げで約9割が家計への影響が出ているとの衝撃的なアンケート結果の報道があった。真美さん自身の生活や祖母の家計のやりくりは想像を絶する。
「近所に850円で焼きそば定食を食べれるお店がありますが、祖母のケアをするようになってから時間とお金の余裕がなくなり全然行っていませんね」(真美さん)
また、祖母のケアの面では夜間から早朝の度重なる「徘徊」と「夜間から早朝のトイレの付き添い」が想像以上に過酷だったと話す。
「夕方から夜の初め頃になると急にソワソワしてきて玄関のドアを空けてどこかに出かけようとするんです。どこ行くの?と聞くと汽車で故郷に帰りたいと……。ケアマネージャーや主治医に相談したら無理に止めず一緒に付き添いしてしばらくすれば落ち着きますと言われ……。それで一緒に付き添っていましたがクタクタでした。
加えて、祖母は利尿剤を飲んでいた関係で頻尿で、1晩10回近く排尿・排便します。トイレに行くまでに便をもらしたり、床につけようとしたりする回数が増え、かなりきつかったです。寝たかと思いきや起きてくる繰り返しで夜間も寝れたもんじゃありません」(真美さん)
ところが、ある日の夜、祖母はトイレで倒れていた。
「おばあちゃん、大丈夫?大丈夫?」
真美さんの呼びかけに全く応答がない。祖母は、病院に救急搬送されたものの帰らぬ人となった。急性心筋梗塞だった。
さらに、早川家の問題は続いた。
祖母の葬儀を執り行うにあたって、祖母が生命保険を料金滞納で解約してしまった上に貯金がなく、葬儀やお墓の費用を誰が捻出するかでもめた。今まで全く祖母のケアに協力しなかった母親や兄は、「真美、生活保護から費用が出るのならそれで済ませればいいじゃないか」と言ってきたのだ。
生活保護受給者の親族が死去すれば、自治体によって変動があるが約20万円の葬祭扶助が支給される可能性がある。真美さんは自治体に請求し、実際に葬祭扶助が支給された。
ただ、生活保護の葬祭扶助内のお葬式は、納棺、お通夜、告別式、出棺、火葬といった世間一般のお葬式ではなく、すぐ遺体を火葬し骨壺に遺骨を納める極めて簡素な形式でしかない。
「兄や母親は今まで全く面倒をみていないのに生活保護の費用をあてにしていて最低です。兄はそれほど祖母とあまり付き合いがなかったので仕方ないにしても、母親がせめて一般的なお葬式をするようにするべきではないでしょうか?さすがに腹が立つのを通り越して呆れましたよ」(真美さん)
そして、祖母の遺骨は真美さんが自宅で保管している。
「おばあちゃんの介護は大変でしたが、さすがにお葬式やお墓すらないのは可愛そう。母親や兄とは絶縁したいです。人間の心をもっていません」(真美さん)
真美さんの事例のように、お葬式やお墓を建てる経済的な余裕がなく親族を頼れない「建墓難民ケアラー」は今後社会問題になりうる。国や自治体は対策を求められるだろう。
〈両親・祖父母を最期まで介護しても「お墓の費用」を払えない…ミドルケアラーを待つ「残酷な未来」〉では、真美さんのような「建墓難民ケアラー」が増える可能性や、お葬式やお墓を建てる費用を安くするための方法について解説する。
奥村シンゴ宝塚在住。放送・通信業界を経て、32歳で介護離職。認知症祖母と精神疾患母介護10年のうちひきこもり6年経験。現在は、介護・ケアラーとひきこもり評論家、講師、支援団体「よしてよせての会」代表を務める。NHKなどテレビやラジオの他、読売新聞、神戸新聞、共同通信、東洋経済新報社、介護専門誌認知症ケア他多数メディア出演・掲載。また、支援の狭間にある18~40代の「若者ケアラー」、「元ヤングケアラー」、「ミドル(就職氷河期ケアラー)、「ひきこもり」と家族をサポート。ほぼ24hLINE・電話相談、出張サポート、就業相談など1300回超の相談実績有。SNSはツイッターなど含め約1万人。著書『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』ツイッター @okumurashingo43