令和元年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判は、第19回公判が30日午前10時半から京都地裁(増田啓祐裁判長)で開かれ、遺族らによる意見陳述が続行する。
29日の前回公判では10人の犠牲者の遺族が事件後の悲痛な思いや被告への憎しみを訴える中、冒頭陳述で「なぜ死刑が正当化されるのか」と訴えた弁護側への苦言もあった。
冤罪は争えない
「今回の裁判で死刑制度を議論するのは不適切だ」。29日の前回公判。25歳の娘が犠牲になった父親は、被告の前でこう訴えかけた。
念頭にあるのは27日の弁護側による冒頭陳述だ。唐突に死刑制度の是非について言及した弁護側は「人を殺すことは悪いことなのに、なぜ死刑は正当化されるのか」。また死刑を「残虐な刑罰」とした過去の最高裁判例を示しながら、「なぜ死刑が認められているのかを考えながら審理に当たっていただきたい」と裁判員らに求めたのだった。
この遺族の父親は、弁護側の問題意識を一蹴した。死刑制度を議論する前提として、冤罪(えんざい)による執行を防ぐことへの理解を示したものの、京アニ事件では被告の犯人性に争いはないと主張。「冤罪は争えない。死刑制度の議論は別の場所で行っていただきたい」と求めたのだ。弁護側は父親の訴えを、表情を変えることなく静かに聞くだけだった。
被告には「甘え」
この遺族の父親が被告の生い立ちに言及する場面もあった。被告が少年時代に虐待を受けたことなどが法廷で明かされたが、父親は「絶句するようなものはないと思います」。被告が実の父親に「柔道大会の盾を燃やせ」と告げられた中学時代のエピソードに絡み、「柔道をやる許可をしてもらい、柔道に励むことができ、柔道ができるほど栄養状態も良好で体力もあったことが分かります」(遺族の父親)。被告の生活保護受給に関しても「甘えがあったと思う」と冷静に指摘した上で、量刑についてこう述べた。「謝罪や反省は求めていません。そんなことで償える犯行ではないからです」
他の遺族からも厳しい声が続いた。「被害者が味わった恐怖や絶望を同じように味わってほしい」「一刻も早くこの世界から消え去ってほしい」。涙をこらえながら必死に声を絞り出したり、怒りに声を震わせたり。今も続く苦しみや憎しみ、そして何よりも家族を失った悲しみにさいなまれる遺族の言葉に対し、廷内にはすすり泣く声が響いた。