「ここは渋谷で一番のタワマンなんです。だから購入を決めたのに、まさかすぐ近くにもっと高いマンションが建つなんて。目の前に壁ができるようなものですよ!」
こう憤るのは、「パークコート渋谷 ザ タワー」(以下、パークコート)上層階に暮らしている、とある企業の社長である。パークコートは渋谷駅から坂を上ること約10分、渋谷区役所の隣に建つ超高級タワマンだ。高さ約143メートル、地上39階地下4階建て、NHK放送センターやLINE CUBE SHIBUYAに囲まれた立地で、高層階の窓からは渋谷や新宿のビル群と、広大な明治神宮の鎮守の杜を見渡すことができる。
「パークコート」高層階からの景色(住民提供)
竣工は2020年、三井不動産レジデンシャルが開発を手掛けた。所有者や住民には各界著名人や企業経営者が名を連ね、住民によれば「旧ジャニーズ事務所所属のアイドルや、有名YouTuber、TikTokerも住んでいる」という豪華物件だ。
ところが、このパークコートを揺るがす「事件」が起きている。
「パークコートから区道を挟んで40mちょっと離れた東南側に、1975年に竣工した『渋谷ホームズ』というマンションがあるんです。高さは40mほど、老朽化が進んでいて建て替えの話は昔からありましたが……。
なんとここに高さ150mの『モンスターマンション』が建つ計画が持ち上がっているんです。パークコートからの眺望は台無しになり、高層階でも隣に建つタワマンの日陰になってしまう。資産価値も急落、次々に売りに出されています。東南側の高層階の人は、1億円以上も資産価値が下がると悲鳴をあげていました。私だって、こんなことになるとわかっていれば買いませんでしたよ」(パークコート住人Aさん)
「パークコート」高層階からの夜景。赤い囲み部分にタワマン建設が予定されている(住民提供)
これだけなら、タワマン住民のワガママと思われてもおかしくない。しかし彼らが怒るのには「事情」があるのだという。
「渋谷ホームズを建て替えるとしても、5年前までは容積率の関係から高さ約110m程度のマンション計画しかありませんでした。ところがその後、清水建設と東急不動産と渋谷区が『取引』をしたんです。
清水と東急は、渋谷ホームズの隣にある神南小学校の建て替えを行う。その代わりに、渋谷区は小学校の容積率と隣接する区道の敷地610屬鯆鷆,垢襦その結果、容積率850%の限界を超えて、容積率1000%のマンションを建てられるようになったのです。都市計画の名のもとに公共財産を民間との間で入札なしに換金する初の試みです」(不動産鑑定士・森口英晴氏)
「パークコート渋谷 ザ タワー」
渋谷ホームズの再開発棟は34階建て。敷地面積は約4630屐延べ床面積約73900屬5年前の建替え計画の1.6倍、パークコート(敷地面積約4500屐延べ床面積約61500屐砲鬚呂襪に凌駕する。
「7階までは店舗などが入り、7~14階は住宅低層部(平均584万円/坪)、15~22階は住宅中層部(平均607万円/坪)、23~30階は住宅高層部(平均632万円/坪)となる計画です。
ポイントは31階以上で、二桁億円以上の『プレミアム』と呼ばれる住居になる。デベロッパーからすれば、超高層階が作れるかどうかで儲けが大きく変わってきます。権利変換価格に対して実勢相場はその3倍前後が想定されますが、巨大化した部分の儲けはデベロッパーが持っていきます」(前出・森口氏)
この計画は近隣では知れ渡っており、地元住民の間では「マンションで企業が大儲けするために、神南小学校が空を売るらしい」と噂にもなっているという。
さらに「超高層マンションから小学校への落下物の危険性はないのか」「ビル風などの風害が心配」「マンションから盗撮されるのではないか」といった不安の声も聴かれる。ところが、「神南小PTA会長は渋谷ホームズ在住者であり、PTAの中にも渋谷ホームズに住んでいる人が少なくない」(近隣住民)からか、保護者から明確な反対の動きはない。
一方、パークコートの住人たちは怒り心頭である。まず怒りの矛先が向いたのは、パークコートを販売する三井不動産だ。渋谷ホームズの再開発計画を知りながら、黙って物件を売り続けてきたのではないか─という疑念を住人たちは抱いている。住人のひとりは「目の前に100m以上の物件は建たないと聞いていたのに……」と嘆いた。
「150mの再開発棟計画について重要事項説明で伝えていなかったとすれば、宅地建物取引業法違反の可能性もあります」(前出・森口氏)
しかしそれ以上に住民たちが怒っているのが、渋谷区に対してである。住人たちは「渋谷区は『地主』としての責任を果たせ!」と口を揃える。
「地主」とはどういうことか。実はパークコートが建っているのは、渋谷区が所有する土地なのだ。パークコートは、三井不動産レジデンシャルが渋谷区の新庁舎と公会堂を建設して譲り渡す──という条件のもとで建てられた物件だったのである。
「区の土地に住んできたくらいですから、私たちは渋谷区を愛してるんです。未来の子供たちのために学校を建て替えるのは大賛成。そのために、たくさん税金を払ってきた。
それなのに渋谷区は民間企業に小学校を建て替える費用を出させて、企業を儲けさせるようなことをやっている。そして地主にもかかわらず、区が所有する土地に建つパークコートの資産価値を下げるようなことをする。そんなこと許されてもいいのでしょうか」(パークコート住人Bさん)
さらに前出の森口氏は、こう付け加える。
「実はパークコートの資産価値のみならず、神南小学校の敷地や区役所・公会堂敷地の資産価値も暴落することになるでしょう。
不動産鑑定評価によると神南小学校敷地のみで101億円下落します。小学校の建築費を清水・東急に賄ってもらっても、周りの不動産価値が軒並み暴落してしまう。一方、渋谷ホームズの評価額は480億円から914億円へと倍近く増えることになる。藪蛇な都市計画ですよ」
『渋谷区の一等地で「タワマン戦争」勃発!150m巨大マンション建設に反対する「パークコート」住民の主張「実は区民全体に影響する問題」「十分な説明を受けていない」』に続く…