兵庫県多可町がふるさと納税額100万円の返礼品として用意した「町営ケーブルテレビで1年間、ニュースキャスターになれる券」に初めての寄付者が現れた。
町が知名度の向上を目指し、ユニークな返礼品として2014年に始めて10年目。担当者は「まさか応募する人がいるとは」と驚いている。(高田寛)
千葉県いすみ市に住む元小学校教諭の松村二美(ふみ)さん(76)。町内で放送される「たかテレビ」の「あっ!たかニュース」に10月から出演し、番組の内容を紹介している。連日繰り返し放送され、〈ふーみん〉の愛称が浸透しつつある。
町は、ふるさと納税を増やすために返礼品の種類を豊富にし、14年度に3060万円だった寄付額は22年度には2億5903万円に。一方でケーブルテレビのキャスターや、同じく寄付額100万円でご当地ヒーロー「タカレンジャー」として1年間活動できる券などは「話題作り」にとどまっていた。
松村さんは今年3月、全国のユニークな返礼品を紹介するテレビ番組で多可町を知り、「面白いアイデアを考える職員がいる」と関心を持った。町が「敬老の日」発祥の地であることを知り、「人に優しい自治体」と心を動かされて寄付を思い立ったという。
1年間の出演と聞き、当初は町への移住や長期滞在も考えた。町とスケジュール調整を重ね、鉄道を乗り継いで月1回来町して収録をすることに落ち着き、10月に寄付をした。
奈良や東京の小学校で教職に就き、副校長も務めた松村さんは63歳で退職後、子どもたちとの出会いや交流をつづった本「学級愉快」を4集まで出版。町ではニュースに加え、松村さんの自著の読み聞かせ番組「朗読の部屋」を作ることにした。
収録では、朗読中に松村さんが涙ぐむ場面も。「当時を思い出して。眼鏡が曇って読めない」と謝る松村さんに、撮影スタッフの職員は「感情がこもっていて引き込まれました」とうなずいた。
松村さんは「これまで全国を旅行したり、高級食材目当てにふるさと納税をしたりしてきたけれど、今回が最も生きたお金の使い方。訪れてみて、その名の通り『多く』の『可能性』を持った町だと感じています」と笑顔で語った。