関門海峡にワイヤを架け、最高時速100キロ超で滑り降りる国内最大級のアトラクション「メガジップライン」をつくる構想が浮上した。
両岸を結ぶ関門橋は14日に開通50周年を控えており、地元企業が新たな観光の目玉にしようと企画した。実現までには解決すべき課題も多いが、インバウンド(訪日外国人)需要に期待する山口県下関市と北九州市も支援していく考えだ。(池田圭太)
■1分半の空の旅
直径2・2センチのワイヤ4本でつなぐのは、下関市の「火の山公園」から北九州市門司区の「和布刈(めかり)公園」までの1740メートル。ジップラインとしては国内で最も長く、海面からの高さは低いところで約65メートル、高低差は198メートルにも及ぶという。
利用者はうつぶせの状態でつるされ、ワイヤについた滑車で下関側から門司側に頭を向けて一気に滑る。最高時速は約110キロに達し、約1分半で到着する。想定する料金は1人2万8000円で、内容、金額とも「型破り」の旅となる。事業費は十数億円を見込み、早ければ数年以内の開業を目指している。
事業を担うのは下関市のレジャー会社「ケイエムアドベンチャー」。社長を務める大久保誠さん(59)が6年前、海外の絶叫アトラクションをテレビで見た妻から「関門海峡でもできたら面白くない?」と言われた際、家族旅行で体験したジップラインをつくることを思いついたのだという。
■国交省も評価「決して荒唐無稽ではない」
地元に根を張り、約25年にわたって建設業を営んできた大久保さん。自ら描いたイメージ図を手に数年かけて両市などを訪ねて回り、「関門海峡を世界有数の観光名所に」と売り込んだ。手応えを得ると、2019年に友人らと資金を出し合ってケイエム社を設立。韓国やオランダなど海外メーカーの担当者からも助言を受けながら計画を具体化させてきた。
地域の街づくり団体とも連携し、ドローンで人を運ぶ「空飛ぶタクシー」などのアイデアも盛り込んで一帯を一大観光拠点とする構想を練り上げたところ、国土交通省の目に留まった。同省中国運輸局は今年、「唯一無二の独自性を持ち、旅行者を引きつける『メガトリップエリア』が形成される」などと評価する調査結果をまとめた。
大久保さんらによると、滋賀県では琵琶湖を見下ろすジップラインが人気を集め、北海道では1700メートル級のものもある。中東では3000メートル近い施設もあるという。関門海峡での計画について、中国運輸局の担当者は「安全性の確保など課題もあるが、決して荒唐無稽な構想ではない」と語る。
■「夢の事業に」
これを受け、両市の副市長をトップとした検討チームも発足した。7月の初会合で、北九州市の片山憲一副市長が「力を合わせてやっていきたい」と話し、下関市の北島洋平副市長も「何とか実現にこぎ着けたい」と力を込めた。今後、事業化に必要な手続きの確認や周辺の整備に関する協議を進め、今年度中にも支援のあり方を取りまとめる方針だ。
ただ、課題も山積みだ。落下物対策など海峡を通る船の安全確保が最優先となる。潮風の影響による施設の劣化も懸念されるという。行政の補助金も得る予定だが、詳細な資金繰りや維持管理の計画を定めるのはこれから。北九州市門司港レトロ課は「安全性の確保が大前提で、資金面の問題もあるが、実現すれば海外からの観光客に加えて若者も集まる夢の事業になるかもしれない」とみる。
大久保さんは現在、欧州連合(EU)の規格を満たせる設計案づくりをスウェーデンの企業に依頼しており、「ハードルを乗り越え、人口減が続いている地元に明るい話題を届けたい」と話している。
◆関門海峡=山口県下関市と北九州市の間に位置し、本州と九州を隔てる。1日に約1000隻の船が日本海と瀬戸内海を行き来する。両岸から1万数千発の花火を打ち上げる8月の「関門海峡花火大会」も名物の一つで、今年は約70万人が訪れた。1185年には源平最後の合戦となる「壇ノ浦の戦い」の舞台にもなった。