ある介護の現場を映し出した動画が拡散し、議論になっている。介護職の若い女性を何度も平手で叩く高齢女性。介護の女性は「だめだよ」とたしなめ、近くにいる人も「いじめないで」と声を掛けるが、高齢女性は「怖い」とさらに叩き突き飛ばす。
【映像】拡散した動画のイメージ図 介護職の人に対する暴力。SNSでは、「介護する側から見ればこの程度はまだかわいい」「暴言やセクハラも日常的にある」「何をされても我慢するだけなのが現実」と、当事者などから実態を語る声があがる。

政府は2日、減税や物価高への対策、そして介護職の賃上げを盛り込んだ経済対策を閣議決定した。月額6000円程度で調整しているというが、これで介護職の待遇は改善されるのか。利用者の暴力やセクハラにはどう対処すればいいのか。『ABEMA Prime』で議論した。■「爪が刺さって血が吹き出ても『よろしいですか?』と対応する現場」 介護現場に20年以上従事、現在はフリーランスで訪問介護などをしている佐藤さんは「日常茶飯事というと抵抗があるが、仕方がないかなとも思う。私も腕に20年前の傷が残っているが、利用者さんにガッと掴まれた時に爪が突き刺さって、血がブシャーッと。それでも『よろしいですか?』と確認しながら対応する現場ではある」と話す。 そうしたことへの“慣れ”から日常生活にも支障をきたしたという。「罵倒されるとか、お水を渡したらバンッと投げられて、『お前、なんだよ』と言われるとか。同僚とは機械の心で頑張ろうと話して、反応しないようにするのだが、日常でも感情が鈍くなってしまった。パートナーや友人にひどいことをされても大概耐えられるようになってしまい、どこを沸点にすればいいのかわからなくなった」と明かす。 さらに「(かつては)耐えるのも介護。触らせてあげてちゃちゃっと(介護を)済ますのがいいのよというのもあった」とハラスメント対応の現実についても語った。 現場の実状や課題を発信している「カイゴメディア」代表の向笠元氏は「業界に長くいるベテランからすると、ある意味当たり前。“それで解決するなら受け流せばいい”“場合によってはちょっとくらい触らせておいたらいい”と、スルースキルが身に付いてしまっている。一方で、新人にとってはそんな世界なのかというところで、なかなか長く続かない」と指摘。 古い考えだった当時に比べ、「今は随分変わっていると思う」と佐藤さんは話すが、依然難しい部分もあるという。「管理者も“仕事を減らしたい”というのがすごくある。要するにケガを負わす・負わされた場合は事故扱いになるが、報告書がすごく面倒で、できれば書きたくない。残業になるので、どんどん後回しになっていく。しかし、対応を考えるためにはそれを積み重ねないといけないので、管理者から『報告書を書いて』という一言が出るか出ないかが非常に大きい」 向笠氏も「やはりお相手が認知症の高齢者なので、暴言や暴力が自然に出てきてしまう。それに対して、誰かしらが我慢をして対応しないと、世の中の介護は成り立たなくなる」と実情に触れた。■「クリアできないゲームをひたすらやっている感覚」 認知症の患者の部屋を分ける、部屋に鍵をかけるなどの対応は可能なのか。向笠氏は「グループホームでフロアを分けることはあるが、徘徊防止のために鍵を閉めるとか、部屋に閉じ込めることは虐待行為にあたる。ただ、家族に許諾を得た上で鍵をかけることはある」と話す。 佐藤さんは「許諾・許可を得て鍵をかけることがOKになったのも最近のこと。私が働いていた時は、本当に“無理ゲー”というか、絶対にクリアできないゲームをひたすらやっている感じだった。夕方になると、みなさん家に帰りたい気持ちが強くなり出て行かれるが、スタッフが見に行くと施設が手薄になり、転倒事故が起きればと誰の責任だとなる。本当にどんな罰ゲームなのだろうと思っていた」と振り返る。 介護現場を守るため、厚労省はハラスメント対策を義務付けている。また、「ハラスメント対応マニュアル」も作成しているが、活用自治体は14.4%にとどまっている。 佐藤さんは「管理者の時、20歳前後の若い女の子が胸を揉まれているのが許せないと思い、かなり断固とした態度をとっていた。ご家族を積極的に呼んだが、『お父さんに限って絶対ない』などと言うこともある。動画で撮るなど、状況をしっかり伝えられる現場を作って対応していたが、だからといって何かが解決した感じはなかった」と明かす。 さらに複雑な思いをした事例があるといい、「在宅の認知症の方だったが、買い物の帰りに痴漢行為をはたらいてしまった。警察に逮捕され、家族が家の中で軟禁状態のようにしたのだが、施設内で同じことをしている人には何のお咎めもない。私は真顔で『外に出て同じことができますか? 警察に言えばあなたは全てを失いますよ』と伝えるが、それを理解できる人とできない人の境目が完全にグラデーションになっている」と述べた。 向笠氏は「逮捕されると退去になるので、その部屋・ベッドは空いてしまう。また新しい方が入ってくれば良いが、1カ月部屋が空いてしまうようなことは経営的に避けたいと考える」とした。■“月額6000円増加”の効果は? 介護職員の人手不足は、2025年度には32万人、2040年度には倍の69万人になると試算されている。そんな中、佐藤さんは「きちんと値上げしてもらわないとやらない」という考えを持っているという。「夜のお仕事や性的なサービスなども含め、どんな職業もすごくリスペクトしている。ある時、“自分のこの優しさをお金に換えられないか?”と考えて、介護保険を使わない介護サービスをフリーランスで始めることにした。時給1000円では我慢できないことでも、3000円、4000円、5000円と上げることで、許すという意味ではなく、サービスの質を上げることに心の障壁がなくなった」 介護職の報酬を月6000円増加させる閣議決定は効果があるのか。向笠氏は「6000円でもまだまだ少ない。危険手当的な意味合いといったところで、もっと上げて頂くことが重要だ」「より難しい利用者の場合は値段を上げるという、佐藤さんのような働き方はいいと思う」と指摘する。 一方でまだ課題も大きいとし、「介護の財源が限られている中で、国全体として等しくサービスを受けられる状態だったのが、じわじわとクオリティが下がっていく。その中で、お金を払える方は追加で自費サービスを使っていくというスタイルになると思う。自分が高齢者になった時にそれを受け入れられるか、世の中が許すかどうかだ」と疑問を呈した。(『ABEMA Prime』より)
介護職の人に対する暴力。SNSでは、「介護する側から見ればこの程度はまだかわいい」「暴言やセクハラも日常的にある」「何をされても我慢するだけなのが現実」と、当事者などから実態を語る声があがる。
政府は2日、減税や物価高への対策、そして介護職の賃上げを盛り込んだ経済対策を閣議決定した。月額6000円程度で調整しているというが、これで介護職の待遇は改善されるのか。利用者の暴力やセクハラにはどう対処すればいいのか。『ABEMA Prime』で議論した。
■「爪が刺さって血が吹き出ても『よろしいですか?』と対応する現場」
介護現場に20年以上従事、現在はフリーランスで訪問介護などをしている佐藤さんは「日常茶飯事というと抵抗があるが、仕方がないかなとも思う。私も腕に20年前の傷が残っているが、利用者さんにガッと掴まれた時に爪が突き刺さって、血がブシャーッと。それでも『よろしいですか?』と確認しながら対応する現場ではある」と話す。
そうしたことへの“慣れ”から日常生活にも支障をきたしたという。「罵倒されるとか、お水を渡したらバンッと投げられて、『お前、なんだよ』と言われるとか。同僚とは機械の心で頑張ろうと話して、反応しないようにするのだが、日常でも感情が鈍くなってしまった。パートナーや友人にひどいことをされても大概耐えられるようになってしまい、どこを沸点にすればいいのかわからなくなった」と明かす。
さらに「(かつては)耐えるのも介護。触らせてあげてちゃちゃっと(介護を)済ますのがいいのよというのもあった」とハラスメント対応の現実についても語った。
現場の実状や課題を発信している「カイゴメディア」代表の向笠元氏は「業界に長くいるベテランからすると、ある意味当たり前。“それで解決するなら受け流せばいい”“場合によってはちょっとくらい触らせておいたらいい”と、スルースキルが身に付いてしまっている。一方で、新人にとってはそんな世界なのかというところで、なかなか長く続かない」と指摘。
古い考えだった当時に比べ、「今は随分変わっていると思う」と佐藤さんは話すが、依然難しい部分もあるという。
「管理者も“仕事を減らしたい”というのがすごくある。要するにケガを負わす・負わされた場合は事故扱いになるが、報告書がすごく面倒で、できれば書きたくない。残業になるので、どんどん後回しになっていく。しかし、対応を考えるためにはそれを積み重ねないといけないので、管理者から『報告書を書いて』という一言が出るか出ないかが非常に大きい」
向笠氏も「やはりお相手が認知症の高齢者なので、暴言や暴力が自然に出てきてしまう。それに対して、誰かしらが我慢をして対応しないと、世の中の介護は成り立たなくなる」と実情に触れた。
■「クリアできないゲームをひたすらやっている感覚」
認知症の患者の部屋を分ける、部屋に鍵をかけるなどの対応は可能なのか。向笠氏は「グループホームでフロアを分けることはあるが、徘徊防止のために鍵を閉めるとか、部屋に閉じ込めることは虐待行為にあたる。ただ、家族に許諾を得た上で鍵をかけることはある」と話す。
佐藤さんは「許諾・許可を得て鍵をかけることがOKになったのも最近のこと。私が働いていた時は、本当に“無理ゲー”というか、絶対にクリアできないゲームをひたすらやっている感じだった。夕方になると、みなさん家に帰りたい気持ちが強くなり出て行かれるが、スタッフが見に行くと施設が手薄になり、転倒事故が起きればと誰の責任だとなる。本当にどんな罰ゲームなのだろうと思っていた」と振り返る。
介護現場を守るため、厚労省はハラスメント対策を義務付けている。また、「ハラスメント対応マニュアル」も作成しているが、活用自治体は14.4%にとどまっている。
佐藤さんは「管理者の時、20歳前後の若い女の子が胸を揉まれているのが許せないと思い、かなり断固とした態度をとっていた。ご家族を積極的に呼んだが、『お父さんに限って絶対ない』などと言うこともある。動画で撮るなど、状況をしっかり伝えられる現場を作って対応していたが、だからといって何かが解決した感じはなかった」と明かす。
さらに複雑な思いをした事例があるといい、「在宅の認知症の方だったが、買い物の帰りに痴漢行為をはたらいてしまった。警察に逮捕され、家族が家の中で軟禁状態のようにしたのだが、施設内で同じことをしている人には何のお咎めもない。私は真顔で『外に出て同じことができますか? 警察に言えばあなたは全てを失いますよ』と伝えるが、それを理解できる人とできない人の境目が完全にグラデーションになっている」と述べた。
向笠氏は「逮捕されると退去になるので、その部屋・ベッドは空いてしまう。また新しい方が入ってくれば良いが、1カ月部屋が空いてしまうようなことは経営的に避けたいと考える」とした。
■“月額6000円増加”の効果は?
介護職員の人手不足は、2025年度には32万人、2040年度には倍の69万人になると試算されている。そんな中、佐藤さんは「きちんと値上げしてもらわないとやらない」という考えを持っているという。
「夜のお仕事や性的なサービスなども含め、どんな職業もすごくリスペクトしている。ある時、“自分のこの優しさをお金に換えられないか?”と考えて、介護保険を使わない介護サービスをフリーランスで始めることにした。時給1000円では我慢できないことでも、3000円、4000円、5000円と上げることで、許すという意味ではなく、サービスの質を上げることに心の障壁がなくなった」
介護職の報酬を月6000円増加させる閣議決定は効果があるのか。向笠氏は「6000円でもまだまだ少ない。危険手当的な意味合いといったところで、もっと上げて頂くことが重要だ」「より難しい利用者の場合は値段を上げるという、佐藤さんのような働き方はいいと思う」と指摘する。
一方でまだ課題も大きいとし、「介護の財源が限られている中で、国全体として等しくサービスを受けられる状態だったのが、じわじわとクオリティが下がっていく。その中で、お金を払える方は追加で自費サービスを使っていくというスタイルになると思う。自分が高齢者になった時にそれを受け入れられるか、世の中が許すかどうかだ」と疑問を呈した。(『ABEMA Prime』より)