化学メーカーで研究開発を行う傍ら、経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は英国風パブ「HUB」を手がける株式会社ハブの業績について紹介したいと思います。HUBは1980年、英国のパブ文化に魅了されたダイエーの創業者中内氏によって創業しました。しばらくの間は細々と展開していましたが、2000年代・2010年代に店舗数を増やし、首都圏では高い認知度を有しています。スポーツ中継を見ながらサクッと飲めるパブスタイルのお店は他には無く、競合チェーンも現れてはいません。そして今後はさらなる拡大を目指すべく、意外にも「モンスト」で知られる株式会社MIXIとタッグを組むようです。HUBの歴史と人気の理由、今後の方針について見ていきたいと思います。
◆英国のパブ文化を日本に持ち込む
パブ(Pub)とはイギリスで一般的なスタイルの居酒屋のことです。ビールなどの様々なお酒を提供している一方、食事はチップス類など最低限のつまみしかなく、飲むのがメインのお店です。座席の数も少なく、立ちながら飲む客も多いようです。店員からお酒を受け取ったらその場で支払う「キャッシュ・オン・デリバリー」のシステムを基本としています。
そんな英国のパブ文化に魅了され、日本に持ち込もうとしたのがダイエー創業者の中内氏です。中内氏の指示により1980年に「HUB」一号店が神戸三宮にオープンし、同年中に六本木店も開店しました(2000年にダイエー傘下から離れる)。
◆1997年から徐々に店舗数を増やす
創業から20年間はヒットすることなく10店舗台で細々と展開していましたが、1997年に現在のHUBのプロトタイプとなる池袋店がオープンしてからは店舗数を徐々に増えていきました。
2006年に当時の大阪証券取引所「ヘラクレス」市場に上場、2017年には東証一部への鞍替えを果たしました。そして2023年8月末時点で同社は「HUB」86店舗、「82」15店舗、「HUB+82の融合店」1店舗の計102店舗を展開しています。
ちなみに「82」はHUBと同じく英国風パブを模した形態ですが、ウイスキーの種類が豊富で価格もHUBより若干高めに設定されています。
◆本場の雰囲気を気軽に楽しめる場所として定着
地方の店舗数は少ないものの、同社は東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の首都圏4県で80店舗を展開しています。。個人的な感想ですが、いつどこの店に行っても賑やかで繁盛している印象です。HUBが定着した理由として(1)気軽に安く飲めること、(2)雰囲気の良さ、(3)スポーツバーとして機能、以上3点が考えられます。
(1)に関して言えば、HUBのドリンク類は大衆酒場と比べて決して安くはないものの、お通しがない点や食事をメインとしていない点が安さの秘訣となっています。通常の居酒屋で食事も頼まず1、2杯だけで済ますのは憚られますが、パブであるHUBでは気にすることもないでしょう。2013年当時は「1000円札1枚でいい気分」をHUBのコンセプトにしていたようです。
(2)については他店にはない英国パブの雰囲気が消費者を惹きつけていると考えられます。最近ではパブ風の店も増えてきましたが、チェーンとして展開しているのはHUBしかありません。
(3)に関しては、Jリーグの試合やスポーツの国際試合がある日にHUBを訪れると分かるかと思います。特に人気の試合がある日は店内のディスプレイに中継試合が映され、多くのスポーツファンが店に押し寄せます。以上のように、従来の居酒屋にはない気軽さとスポーツバーとしての機能がHUBの人気の理由と言えます。

近年の業績ですが、やはりコロナ禍のため業績は大幅に悪化し、2022年2月期は売上高が4分の1にまで減少しました。2020/2期から2023/2期までの業績は次の通りです。
【株式会社ハブ(2020/2期~2023/2期)】売上高:121億円→38億円→24億円→76億円営業利益:7.1億円→▲15.7億円→▲11.9億円→▲5.4億円店舗数:114→109→102→101
とはいえ、もともと自己資本比率は70%と財務が健全だったほか助成金収入もあり、店舗数は他の居酒屋チェーンのように大幅には減少しませんでした。現在では持ち直しつつあります。
◆MIXIとのコラボで200店舗体制を目指す
今後は2030年までに200店舗展開という目標を掲げています。ウイスキーなどの新規商材を使った期間限定メニューやスポーツイベントといった従来とは変わらない集客施策も掲げていますが、特に注目すべきは意外なMIXIとの協業です。
現在のMIXIはゲームアプリ「モンスト」を収入源としていますが、近年、モンストに代わる収入源を模索すべくJリーグの「FC東京」や、Bリーグの「千葉ジェッツふなばし」を傘下に置きました。そしてスポーツバー予約サービスの「Fansta」も運営しており、スポーツに注力した戦略が見られます。
スポーツ関連で稼ぎたいMIXIが注目したのがHUBであり、MIXIの手がけるファンド「Tech Growth Capital」は2021年、ハブの株式約2割を取得しました。両者の協業によって今後、HUBで交流イベントの開催やコラボドリンクの提供が行われるようです。
MIXIとの協業によって、今後HUBはスポーツバーとしての側面がさらに強くなっていくことでしょう。欧米のようなスポーツバー文化が定着すれば、さらなる拡大が期待できそうです。しかしながら一般客を取り込んできた部分もあるので、スポーツへのシフトが強すぎると新たな施策は凶と出るかもしれません。
<TEXT/山口伸>