国が貧乏になっても変わらない日本女性の「上昇婚志向」…結婚相手に求める最低年収「400万」は平均年収を上回る 今でも8割以上の若者は「いずれ結婚するつもり」だと答えている調査結果もあるというが、ではいったいなぜ未婚率がこれほどまでに上昇しているのだろうか。その原因を探ってみると……「おひとりさま」「草食系(男子)」でおなじみのトレンド評論家の牛窪恵氏の『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

生涯未婚率の上昇はいつから? どうすれば「結婚しない」若者の増加を止められるのでしょうか。 それを知るために、ここからは逆説的に、なぜ、そしていつから、若い世代が結婚しなくなり、一部が「結婚するつもりはない」と考えるようになったのかを見ていきます。 日本で「生涯未婚率」の上昇が顕著になったのは2000年代以降ですが、適齢期(25~34歳)の「未婚率」が男性で5割超(52.5%)、女性で3割超(34.0%)にまで急伸したのは、’95年のことでした(「国勢調査」)。 1990年代半ば以降、なぜ「結婚しない(できない)」若者が増えたのでしょうか。 社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。 (1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊

今でも8割以上の若者は「いずれ結婚するつもり」だと答えている調査結果もあるというが、ではいったいなぜ未婚率がこれほどまでに上昇しているのだろうか。その原因を探ってみると……「おひとりさま」「草食系(男子)」でおなじみのトレンド評論家の牛窪恵氏の『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
生涯未婚率の上昇はいつから? どうすれば「結婚しない」若者の増加を止められるのでしょうか。 それを知るために、ここからは逆説的に、なぜ、そしていつから、若い世代が結婚しなくなり、一部が「結婚するつもりはない」と考えるようになったのかを見ていきます。 日本で「生涯未婚率」の上昇が顕著になったのは2000年代以降ですが、適齢期(25~34歳)の「未婚率」が男性で5割超(52.5%)、女性で3割超(34.0%)にまで急伸したのは、’95年のことでした(「国勢調査」)。 1990年代半ば以降、なぜ「結婚しない(できない)」若者が増えたのでしょうか。 社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。 (1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
生涯未婚率の上昇はいつから? どうすれば「結婚しない」若者の増加を止められるのでしょうか。 それを知るために、ここからは逆説的に、なぜ、そしていつから、若い世代が結婚しなくなり、一部が「結婚するつもりはない」と考えるようになったのかを見ていきます。 日本で「生涯未婚率」の上昇が顕著になったのは2000年代以降ですが、適齢期(25~34歳)の「未婚率」が男性で5割超(52.5%)、女性で3割超(34.0%)にまで急伸したのは、’95年のことでした(「国勢調査」)。 1990年代半ば以降、なぜ「結婚しない(できない)」若者が増えたのでしょうか。 社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。 (1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
どうすれば「結婚しない」若者の増加を止められるのでしょうか。 それを知るために、ここからは逆説的に、なぜ、そしていつから、若い世代が結婚しなくなり、一部が「結婚するつもりはない」と考えるようになったのかを見ていきます。 日本で「生涯未婚率」の上昇が顕著になったのは2000年代以降ですが、適齢期(25~34歳)の「未婚率」が男性で5割超(52.5%)、女性で3割超(34.0%)にまで急伸したのは、’95年のことでした(「国勢調査」)。 1990年代半ば以降、なぜ「結婚しない(できない)」若者が増えたのでしょうか。 社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。 (1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
どうすれば「結婚しない」若者の増加を止められるのでしょうか。
それを知るために、ここからは逆説的に、なぜ、そしていつから、若い世代が結婚しなくなり、一部が「結婚するつもりはない」と考えるようになったのかを見ていきます。 日本で「生涯未婚率」の上昇が顕著になったのは2000年代以降ですが、適齢期(25~34歳)の「未婚率」が男性で5割超(52.5%)、女性で3割超(34.0%)にまで急伸したのは、’95年のことでした(「国勢調査」)。 1990年代半ば以降、なぜ「結婚しない(できない)」若者が増えたのでしょうか。 社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。 (1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
それを知るために、ここからは逆説的に、なぜ、そしていつから、若い世代が結婚しなくなり、一部が「結婚するつもりはない」と考えるようになったのかを見ていきます。
日本で「生涯未婚率」の上昇が顕著になったのは2000年代以降ですが、適齢期(25~34歳)の「未婚率」が男性で5割超(52.5%)、女性で3割超(34.0%)にまで急伸したのは、’95年のことでした(「国勢調査」)。 1990年代半ば以降、なぜ「結婚しない(できない)」若者が増えたのでしょうか。 社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。 (1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
日本で「生涯未婚率」の上昇が顕著になったのは2000年代以降ですが、適齢期(25~34歳)の「未婚率」が男性で5割超(52.5%)、女性で3割超(34.0%)にまで急伸したのは、’95年のことでした(「国勢調査」)。
1990年代半ば以降、なぜ「結婚しない(できない)」若者が増えたのでしょうか。 社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。 (1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
1990年代半ば以降、なぜ「結婚しない(できない)」若者が増えたのでしょうか。
社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。 (1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。 (1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊

社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。 (1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
社会学上、よく言われる要因は、(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。私は、大手企業各社と二十余年にわたり「世代」の研究を続けてきたので、まずはカギを握る世代を軸に見ていきましょう。
(1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。 彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
(1)において、最大のカギを握るのは「団塊ジュニア世代(’71~’76年生まれ/現47~52歳)」、別名「貧乏クジ世代」だと考えられます。
彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。 多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
彼らは、終戦(第2次世界大戦の終結)直後に生まれた「団塊世代(’46~’51年生まれ/現72~77歳)」の子世代で、日本で2番目に人口が多い世代です。ゆえに、常に競争の荒波にもまれ、そのうえ不況で貧乏クジを引かされた、とされています。
多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。 キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
多くは’89~’94年にかけて、厳しい受験戦争(大学)を強いられました。また、’91年3月にはバブル経済がはじけ、大半が’93~’05年ごろまで続いた「就職氷河期」にも当たってしまいました。
キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。 就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
キャリア未来地図研究所の共同所長、千葉智之氏は「内閣府のレポートなどを見ると、当時の新卒生の2~4割が『就職難民』になったと考えられる」といいます。
就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。 バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
就職後も、金融や生命保険業界を皮切りに「人員削減(いわゆるリストラ)」が相次ぎ、未婚男性たちは「目の前が真っ暗になった」や「妻子を養う自信がない」などと口にし始めました。とくに、’97年の山一證券と’98年の長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻については、相当ショックが大きかったようです。
バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
バブル崩壊と男女の異なる姿 「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」 そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
「あんなに大きな会社が潰れるなんて」「もう結婚どころじゃない」
そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。 一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
そんな声が相次いだのは、’06年、拙著『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)の取材中でした。私は弊社の女性スタッフと、団塊ジュニアを含む30~40代男性約60人にインタビューしたのですが、彼らの多くはバブル崩壊によって「傷ついた戦士」となっており、私たちも(1)バブル崩壊と経済不況と、未婚率上昇との関係性を痛感したのです。
一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。 彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
一方で、その2年前、拙著『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(同)の取材で、同年代の働く女性たちに取材した際は、まったく違いました。
彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。 ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
彼女たちは’90年代後半の「均等法(男女雇用機会均等法)改正」によって、「これでようやく男性と肩を並べて働ける」「これからは、会社で(「早く辞めたら?」など)肩叩きに遭わずに済む」など、多くが意気揚々と前を向き、不況の最中でもまだ希望を抱いていたのです。
ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊

ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。 (2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
ですがそのことが、結果的に「結婚の先送り」に繋がった、とも考えられています。まさに、先の(2)女性の社会進出と、未婚率上昇の関係性です。
(2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち ①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
(2)については、’90年代半ば~後半に起こった出来事、すなわち
①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正 が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
①女性の高学歴化②共働き家庭と専業主婦家庭の逆転③男女雇用機会均等法(均等法)の改正
が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。 まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
が、よく例に挙がります。②は「結婚後」の事柄なので、ここでは①と③を見てみましょう。
まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。 一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
まず①高学歴化は’90年代半ば、女性の間で、短期大学の進学率を4年制大学の進学率が初めて上回ったことを指します(’21年内閣府「男女共同参画白書」)。どちらかといえば、未婚化より「晩婚化」と相関が強いとされる事象です。
一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。 その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
一方、これとほぼ同時期に、③均等法改正が成されました。施行自体は’86年でしたが、企業に対し「女性を採用段階や採用後に、男性と差別(区別)して扱ってはならない」とする内容は、施行段階ではまだ「努力義務」であり、’90年代後半に初めて「禁止事項」となったのです。
その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。 不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
その後、’00年代に入り、セクハラやパワハラの禁止などコンプライアンスに厳しい社会に変化したことや、人手不足により女性が貴重な労働力として見直されたことなどもあり、職場も少しずつ、真の〝男女平等へと向かい始めました。一般に「均等法第一世代」と呼ばれるのが、私たち「真性バブル世代(’65~’70年生まれ/現53~58歳)」で、その1つ下の世代が団塊ジュニアです。
不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。 非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
不況時に入社した団塊ジュニアは、真性バブル世代ほど仕事に夢を抱いておらず、いわゆる「バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性の意)」志向も弱い印象です。それでも、「女性も経済力を身につければ、無理に結婚しなくてもいいんだ」という新たな時代の幕開けや、その喜びは、私たち真性バブル世代の女性同様、少なからず感じていたことでしょう。
非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
非正規の増加と「年収300万円の壁」 日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。 図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
日本における、(1)バブル崩壊と経済不況は、雇用や所得の「格差」を生んだとされます。とくに’99年に労働者派遣法が改正されたことで、’00年代以降は男性でも「非正規(雇用)」が急増しました。’03年には、適齢期(25~34歳)男性の非正規割合が約1割に達し、その後は近年(’20年)まで、例年15%前後で推移しています(図表7)。
図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)
図表7 若年男女・非正規雇用割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)

これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。 厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
これら「正規」「非正規」の区分が、所得格差を増大させたことも明らかでしょう。
厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。 具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
厚労省の調査を基に、女性も含めた「所得格差」の推移を見ると、格差を示す指標「ジニ係数(当初所得)」は、’80年代初頭の0.35が、’90年代後半に0.44まで上昇し、非正規雇用が一般化した’02年以降、0.50~0.57の間で推移しています(同「所得再分配調査」)。
具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。 ’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
具体的な月収額の違いも、月収分布を加味した(月収の「真ん中」を示す)「中央値」を見ると明らかです。
’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。 後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
’22年時点で、正規が約31万円、非正規が約21万円と、両者の間には月約10万円の開きが生じています(同厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。単純計算で、その差は年間約120万円。
後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。 こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
後者にはいわゆる「130万円の壁(社会保険において配偶者扶養に入れるか否かの境目)」を超えないように働く主婦層も含まれますが、その分を差し引いても、決して無視できない開き幅でしょう。
こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。 また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
こうしたなか、男性では非正規や低所得の人ほど「結婚しない(できない)」とされるのは、多くの皆さんがご存じの通りです。男性の婚活市場には、いまも「年収300万円の壁」が厳然と横たわっており、適齢期の直後、35~39歳の男性では、年収300万未満と年収300~499万円の比較で、既婚率が2倍近く(35.3%/65.2%)も違うのです(’22年内閣府「結婚と家族をめぐる基礎データ」)。
また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。 強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
また、同年齢男性の「正規・非正規」の比較でも、正規で未婚率が約2割に留まるのに対し、非正規では約7割と、5割近く開きがあります(’19年「賃金構造基本統計調査」ほか)。
強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
強まる男性への要求 さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。 ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
さらに、これも後述しますが、男性の雇用や年収は「恋愛経験」や「恋愛(結婚)意欲」とも深く結びついており、取材しても、非正規や年収200~300万円台の男性(おもに20~30代)は、「僕は恋愛できる身分じゃない」や「『そっち(恋愛できる)側』の人間じゃないんで」など、みずからを卑下する傾向が見られます。
ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。 そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
ある民間の調査でも、結婚願望が「ない」と回答した未婚男性(20~40代前半)は、やはり年収が下がるほど多く、年収500~699万円でおよそ7人に1人(14.3%)、年収100~299万円では3人に1人以上(36.6%)と、一定の開きがみてとれるのです(’21年ネクストレベル調べ/年収700万円未満の場合)。
そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。 ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
そんな様子を見て、「なんだか弱々しい」「頼りない」などと受け取ってしまう女性たちを、端から全否定することはできません。
ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。 おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
ただ一方で、別の民間の調査において、女性(18歳以上)が男性に望む「最低年収」をみると、いまだに8割近くが「400万円以上」と答えています(図表8)(’21年リンクバル「未婚男女の婚活・結婚意識調査」)。
おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。 図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
おそらく彼女たちは、それを高望みとは考えていないのですが、たとえば35~39歳男性で「年収400万円」は、正規男性に限っても「最低」どころか平均より約50万円も多く、しかも同水準の未婚男性は3割程度です。多くは、30代前半までに結婚してしまっているのです(’19年「賃金構造基本統計調査」)。
図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)
図表8 未婚男女(18歳以上)が結婚相手に求める最低年収。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)

本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。 正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
本節の前半でお伝えした通り、そもそも近年、結婚しない男女が増えた一因は、先の(2)女性の社会進出にもあります。
正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。 近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
正社員の20~29歳で、男女の年収における「中央値」を比べても、男性では「250~400万円」、女性で「240~350万円」と、20代では劇的な差はありません(’22年パーソルキャリア「正社員の年収中央値」)。20代は年収だけを見れば、着実に〝男女平等の時代に近づいてはいるのです。
近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。 それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
近年は、女性における「正規」割合自体も増えています。適齢期(25~34歳)女性の非正規割合は、ピーク時(’07年)には4割強にのぼりましたが、近年は3割強と減少傾向で、正規比率の増加が顕著です。(総務省「労働力調査(詳細統計)」ほか)。
それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。 まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
それなのに、いまも女性の8割近くは「年収400万円以上」を結婚相手の最低条件だとするなど、91.6%が男性に「経済力」を求めます。そのうえ同じ調査では、96.5%が「家事・育児の能力や姿勢(家事・育児協力)」を男性に望み、さらに(恋愛時ほどではないにせよ)81.3%の女性が、「容姿(見た目力)」まで求めるようになりました。
まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。 変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
まるで、結婚相手に「3高(高学歴、高収入、高身長)」を求めていた、能天気な私たちバブル女性の青春時代(’80年代後半~’90年代前半)に逆戻りしたかのようです。いえそれどころか、新たに家事・育児力を求める分、男性への要求をさらに強めたとも言えるでしょう。
変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
変わらない「上昇婚志向」 女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。 ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
女性の社会進出が進んだ’90年代後半~’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。
ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。 たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。
たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。 また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。
また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。 図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。
図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)
図表9 性・年齢・年収別にみた1年以内の結婚確率。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)

おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。 先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。
先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。
一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。
山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。
背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。 文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。
文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
文/牛窪恵 写真/shutterstock 『恋愛結婚の終焉』(光文社新書) 牛窪 恵 2023/9/13 \1,034 304ページ ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
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牛窪 恵
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2023/9/13
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ISBN: 978-4334100681 恋人は欲しくない?恋愛は面倒?――でも、結婚はしたい!?世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、未婚化・少子化の死角を突く一冊
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