ペットショップ大手「Coo&RIKU」(クーアンドリク)の系列グループ企業の元社員が、グループ内で運営する繁殖場の杜撰な管理状況を明かした。グループ内では全国に11の大規模繁殖場を運営しているが、元社員は自身が勤務していた繁殖場で「ゴキブリやネズミが大量繁殖していた」と証言。提供してくれた全国の繁殖状況をまとめた内部資料では、生まれてくる子犬の「死亡率」が高い月で30%を超えていた。元社員の話を直接聞いた、動物愛護活動で知られる女優の杉本彩氏は「大量生産ありきで命を軽視している」と憤る。
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【写真】一代で業界ナンバー1ペットショップを築き上げたクーアンドリク創業者の大久保浩之社長「生産性を上げろ」 取材に答えたのは、クーアンドリクの繁殖部門を運営するグループ企業「大浩商事」の元社員X氏。動物愛護活動家として知られる女優の杉本彩氏 業界最大手のクーアンドリクは全国に216店舗を展開している。以前はブリーダーが繁殖した犬猫を、競りを通して購入していたが、業容の拡大に追い付かなくなり、数年前から自前で全国に大規模繁殖場を建設するようになった。「月に1店舗平均20頭が売れたとして、全国で4000頭、年間約5万頭もの犬猫が必要となります。今では北海道から鹿児島まで11の繁殖場が稼働するようになりました。昨年、鹿児島にできた最新施設は1000匹以上の繁殖犬・猫を収容できる規模です」(X氏) X氏はそのうち一施設で犬の繁殖を担当していたが、上から降りてくるのは、とにかく「生産性を上げろ」という指令だった。「もっぱら業務連絡に使われるグループLINEを通じ、出産率を上げ、死亡率を下げるようプレッシャーがかけられます。達成率がよければ、管理職には特別報酬が支払われました」わが子を食べてしまう母犬 初めて繁殖現場を見た時、そのおぞましい光景に絶句したと振り返る。「交配を嫌がるメスもいるのですが、噛まれないようタオルを首元に巻いたり、2、3人がかりで押さえつけてオスと交尾させるのです」 繁殖場はゴキブリだらけで、夜間に灯りをつけると、天井から何十匹と降ってきたと語る。「ネズミも毎日2、3匹捕獲されるくらい、そこら中を走り回っています。そんな不衛生極まりない環境の中、妊娠した母犬が20~30匹ほど産室でお産を迎えるのです。その広さは20~30畳くらいで一頭ごとに空間が仕切られていますが、常時、けたたましい鳴き声が響き、落ち着いて出産できる環境じゃない。母体へのストレスは大きく、産みはしたもののネグレクトしたり、果てはわが子を食べてしまう母犬もいました」 X氏の提供による全国の繁殖状況をまとめた内部資料には、目を覆う数字が羅列されていた。表の中にあったのは「D犬」という項目。DはDEADの頭文字、つまり「死亡」数を指す。21年10月のD犬率は20・2%、11月34・8%、12月30・1%。年平均22・5%とあった。出産してきた犬が、多い時で3匹に1匹が死んでいた計算だ。「30%を超える月はどこかの月はどこかの施設でパルボウイルスが発生したいたと思われます。死んだ犬は冷凍庫に一度保管され、溜まったら火葬場へ運んで処分します」「大量生産」を規制していない動愛法の問題点「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」代表の杉本彩氏は、X氏から直接話を聞いた上で、「動物愛護管理法に引っかからないギリギリのところでやっている印象を受けた」と話す。「ゴキブリが大量繁殖しているような不衛生なところに犬・猫を閉じ込めて繁殖させているわけですから、立派な動物虐待です。でも、これだけでは行政は動かない。そもそも現行の動愛法が大量生産を何ら規制していないところに大きな問題があります。繁殖の過程でどれだけ犬・猫が死んだとしても、“違反”には問われない」 そして前回の法改正についてこう振り返った。「動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準が省令で定められました。いわゆる数値規制です。小泉進次郎・前環境相が『悪質業者にはレッドカードを出しやすい明確な基準にする』と表明し制定、施行されましたが、悪質業者にレッドカードが出された事例はありません。適正に運用されてないことをいいことに、悪質業者は大量生産・大量流通を続けるので、根本的な問題解決にはまったく至っていません」 嫌がるメスを無理やり交配させている手法をX氏から聞くと、杉本氏は顔を歪めた。「ゾッとします。人間に置き換えればどれだけ残酷なことなのかがわかるでしょう。非道極まりない」どこでどう生まれてきたのか考えて欲しい 最後に、消費者に対して「消費行動を見つめ直して欲しい」と次のように訴えた。「パステルカラーで彩られたかわいらしい雰囲気のペットショップにいる子犬・子猫に会うと、消費者は自然な交配で生まれてきたのだとつい勘違いしてしまう。でも、実態は『パピーミル』、すなわち工場でモノのように“生産”されているのです。“かわいい”“運命を感じた”と子犬・子猫に飛びつく前に、この子たちがどこでどう生まれてきたのか冷静になって考えて欲しい。ビジネスありきのペットショップで犬・猫を購入することが無意識のうちに“罪”に加担するに等しい行為です」 クーアンドリクはX氏の証言について全面的に否定した。〈ゴキブリやネズミが大量繁殖していることについて〉「ご指摘の事実はございません。法令の遵守はもちろん、動物取扱業に課せられる、又は適用される、各種ガイドラインや規程を遵守の上、運営しております」〈嫌がるメスを無理やり交配させていることについて〉「ご指摘の事実はございません。動物たちが過ごしやすい設備、プールやドッグラン、空調などを導入していることが取組の姿勢でもあります」〈D犬率などをまとめた内部資料について〉「ご指摘のような資料はございません。交配に関するデータ作成は行っておりますが、死産率を表すような資料は作成したことがございません」 8月31日発売の「週刊新潮」では、X氏のほか複数の元社員らの証言を紹介。クーアンドリクが業界ナンバー1に上り詰めた軌跡、新たに発覚した複数の顧客トラブル、同社が手がける譲渡事業の実態などについて4ページにわたって詳報している。「週刊新潮」2023年9月7日号 掲載
取材に答えたのは、クーアンドリクの繁殖部門を運営するグループ企業「大浩商事」の元社員X氏。
業界最大手のクーアンドリクは全国に216店舗を展開している。以前はブリーダーが繁殖した犬猫を、競りを通して購入していたが、業容の拡大に追い付かなくなり、数年前から自前で全国に大規模繁殖場を建設するようになった。
「月に1店舗平均20頭が売れたとして、全国で4000頭、年間約5万頭もの犬猫が必要となります。今では北海道から鹿児島まで11の繁殖場が稼働するようになりました。昨年、鹿児島にできた最新施設は1000匹以上の繁殖犬・猫を収容できる規模です」(X氏)
X氏はそのうち一施設で犬の繁殖を担当していたが、上から降りてくるのは、とにかく「生産性を上げろ」という指令だった。
「もっぱら業務連絡に使われるグループLINEを通じ、出産率を上げ、死亡率を下げるようプレッシャーがかけられます。達成率がよければ、管理職には特別報酬が支払われました」
初めて繁殖現場を見た時、そのおぞましい光景に絶句したと振り返る。
「交配を嫌がるメスもいるのですが、噛まれないようタオルを首元に巻いたり、2、3人がかりで押さえつけてオスと交尾させるのです」
繁殖場はゴキブリだらけで、夜間に灯りをつけると、天井から何十匹と降ってきたと語る。
「ネズミも毎日2、3匹捕獲されるくらい、そこら中を走り回っています。そんな不衛生極まりない環境の中、妊娠した母犬が20~30匹ほど産室でお産を迎えるのです。その広さは20~30畳くらいで一頭ごとに空間が仕切られていますが、常時、けたたましい鳴き声が響き、落ち着いて出産できる環境じゃない。母体へのストレスは大きく、産みはしたもののネグレクトしたり、果てはわが子を食べてしまう母犬もいました」
X氏の提供による全国の繁殖状況をまとめた内部資料には、目を覆う数字が羅列されていた。表の中にあったのは「D犬」という項目。DはDEADの頭文字、つまり「死亡」数を指す。21年10月のD犬率は20・2%、11月34・8%、12月30・1%。年平均22・5%とあった。出産してきた犬が、多い時で3匹に1匹が死んでいた計算だ。
「30%を超える月はどこかの月はどこかの施設でパルボウイルスが発生したいたと思われます。死んだ犬は冷凍庫に一度保管され、溜まったら火葬場へ運んで処分します」
「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」代表の杉本彩氏は、X氏から直接話を聞いた上で、「動物愛護管理法に引っかからないギリギリのところでやっている印象を受けた」と話す。
「ゴキブリが大量繁殖しているような不衛生なところに犬・猫を閉じ込めて繁殖させているわけですから、立派な動物虐待です。でも、これだけでは行政は動かない。そもそも現行の動愛法が大量生産を何ら規制していないところに大きな問題があります。繁殖の過程でどれだけ犬・猫が死んだとしても、“違反”には問われない」
そして前回の法改正についてこう振り返った。
「動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準が省令で定められました。いわゆる数値規制です。小泉進次郎・前環境相が『悪質業者にはレッドカードを出しやすい明確な基準にする』と表明し制定、施行されましたが、悪質業者にレッドカードが出された事例はありません。適正に運用されてないことをいいことに、悪質業者は大量生産・大量流通を続けるので、根本的な問題解決にはまったく至っていません」
嫌がるメスを無理やり交配させている手法をX氏から聞くと、杉本氏は顔を歪めた。
「ゾッとします。人間に置き換えればどれだけ残酷なことなのかがわかるでしょう。非道極まりない」
最後に、消費者に対して「消費行動を見つめ直して欲しい」と次のように訴えた。
「パステルカラーで彩られたかわいらしい雰囲気のペットショップにいる子犬・子猫に会うと、消費者は自然な交配で生まれてきたのだとつい勘違いしてしまう。でも、実態は『パピーミル』、すなわち工場でモノのように“生産”されているのです。“かわいい”“運命を感じた”と子犬・子猫に飛びつく前に、この子たちがどこでどう生まれてきたのか冷静になって考えて欲しい。ビジネスありきのペットショップで犬・猫を購入することが無意識のうちに“罪”に加担するに等しい行為です」
クーアンドリクはX氏の証言について全面的に否定した。
〈ゴキブリやネズミが大量繁殖していることについて〉「ご指摘の事実はございません。法令の遵守はもちろん、動物取扱業に課せられる、又は適用される、各種ガイドラインや規程を遵守の上、運営しております」
〈嫌がるメスを無理やり交配させていることについて〉「ご指摘の事実はございません。動物たちが過ごしやすい設備、プールやドッグラン、空調などを導入していることが取組の姿勢でもあります」
〈D犬率などをまとめた内部資料について〉「ご指摘のような資料はございません。交配に関するデータ作成は行っておりますが、死産率を表すような資料は作成したことがございません」
8月31日発売の「週刊新潮」では、X氏のほか複数の元社員らの証言を紹介。クーアンドリクが業界ナンバー1に上り詰めた軌跡、新たに発覚した複数の顧客トラブル、同社が手がける譲渡事業の実態などについて4ページにわたって詳報している。
「週刊新潮」2023年9月7日号 掲載