相次ぐ不正へ、ついに制裁が下された。
8月14日、メガバンク3行をはじめとする銀行団が、ビッグモーターからの「借入金90億円の借り換え要請」を拒否したことがわかった。その影響を、経済アナリストの中原圭介氏が解説する。
「顧客離れに歯止めがかからない現状を受けて、銀行団は融資のリスクが大きいと判断したのでしょう。今後の融資についても同様に行わない可能性が極めて高く、事実上の取引停止を意味しています。他の銀行もメガバンクの判断に追従すると考えられます。経営破綻の可能性が、いよいよ現実味を帯びてきました」
ビッグモーターの8月第1週の中古車販売台数は672台に急落。8月全体での販売台数も2500台程度と見込まれ、月に1万~1万5000台を売り上げていた勢いは見る影もない。現役幹部が語る。
「社内は資金確保に必死で、約5万台の自社在庫のうち、1万2000台を同業者向けに売りに出す予定です。足元を見られて買い叩かれるかもしれませんが、やるしかありません。ほかにもリストラや店舗数の縮小計画も進めています」
そんな中で新たな動きが出てきた。
水戸地裁が、ビッグモーターの「不当解雇」を認める判決を下していたことが、8月11日に明らかになったのだ。水戸地裁は不当解雇を訴えていた車両整備士の30代男性による主張を認め、会社側に450万円の賠償を命じた。
この判決により、過去に理不尽な理由で退職を迫られた元従業員たちが一斉に立ち上がる可能性が高まっているという。今年6月まで長野県の店舗の営業部門に勤務していたAさんは、憤(いきどお)りを隠さない。
「店長はかねてから上に意見する私を嫌っている感じがありました。そんな中で、お客様の新品のタイヤを、工場長が破棄するというトラブルが起きたんです。私が工場長に意見すると、翌日に突然、店長に呼び出され『本部から転勤の話が来ている』と切り出されました。
私が拒否すると、店長から『お前が転勤しても辞めても、人員過多の営業職を削れるならそれでいい。退職の手続きするから』『明日から有給休暇が始まるからもう来なくていいよ』と言われ、事実上解雇されました。すでに労働基準監督署にも相談済みで、ビッグモーターを相手に慰謝料請求の訴えを起こすつもりです」
ほかにも環境整備点検の当日に「髪の毛の色が明るかった」という理由で解雇された社員や、環境整備点検中に昼食をとっていたという理由で退職を迫られた社員など、何人もの元従業員たちが不当解雇に追い込まれてきた。
不当解雇のウラには本部からの圧力があったという。関東地域の店舗に勤務していた元従業員のBさんが明かす。
「昨年10月、現場責任者から『別の店舗で営業をやらならないか』と急な転勤の打診を受けました。中学生の子供がいたので断ると、月末に再びその上司から連絡があり、『明日から違う会社に行っていいですよ』って言われて。いつも良くしてくれた方だったので、正直にクビなのかと聞くと、上司は『いや、クビじゃないですよ』と否定するんです。最終的に私が折れて、『辞めます』って言いました」
いったい何があったのか。下のLINE画面を見てほしい。これはBさんの上司と本部のやり取りの一部だという。本部は人員削減を求める一方で、上司に、
「自主退職として処理出来るように」
と圧力をかけている。さらに、
「解雇予告手当の支払い義務が発生(することを避けたい)」「(解雇件数が多いと会社が)新卒採用でのセミナー会場参加権利が剥奪される」
という身勝手な理由を列挙している。
不当解雇について、元従業員たちは一様に本部の、ひいては人事権を掌握していた前社長の兼重宏行氏(71)と前副社長で息子の宏一氏(35)の責任を厳しく追及している。直近の3年間で少なくとも8000人が退職したといわれており、その中の1割でも訴訟を起こせば、賠償額は数十億円にものぼる。
しかし、その訴えが報われる可能性は必ずしも高くない。前出の中原氏が言う。
「ビッグモーターが経営破綻してしまったら、賠償金が支払われずに終わる可能性が高い。二人が取締役を務める資産管理会社はビッグモーターの筆頭株主ですが、請求先はあくまでビッグモーターですから、二人が支払う責任もないのです。もちろん、道義的には兼重親子が資産を切り崩してでも賠償すべきだと思います。ただ、今の日本の法律ではその責任を追及できないのが実状です」
会社が犠牲にしてきた元従業員の叫びを無視したままでよいのか。兼重親子には元経営者として正しい対応を求めたい。
『FRIDAY』2023年9月1日号より