マンション管理組合は各部屋の所有者がメンバーとなりマンションの維持・管理を行います。しかし、所有者が高齢化することでマンション管理組合にはそれまでとは異なった業務が生じることがあります。
少子高齢化が進む中、分譲マンションなどの所有者となる場合に注意すべきこととはなんでしょうか。
大都市圏などではマイホームにマンションを選ぶ人が増えています。マンションの管理・修繕を実際に行っている人は、特に築年数の経過した高齢化マンションについて『マンションの高齢化問題について徐々に知られてきていますが、実際の管理の現場では高齢者世帯に対し臨機応変な対応が必要になってきている』と管理の難しさを述べています。
ひとことに高齢者世帯といっても年齢や老化の進行状況によって、できること・できないことが違うため、必要なサポートも異なるためです。
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分譲マンションは、自室などの所有者が管理し自由にマンション管理規約が許す範囲内で自由に利用できる「専有部分」とマンションの共有廊下・ロビーにエレベーターや、水道・ガス配管などの所有者全員が利用・管理する「共有部分」に分けられます。
マンションは所有者全員の資産であり、その価値を維持するためにマンション管理組合を主体とし、修繕計画に沿ったマンションの管理が行われています。
戸建てと比べマンションの資産価値が下がりにくいのは、建物の構造もさることながらこうした適切な管理が行われているか否かも大きな要素となります。
しかし、マンションの資産価値を維持するために重要なマンション管理組合が高齢者世帯の増加に伴い本来の管理業務を果たせなくなってしまうばかりか、さらなる負担増を招いてしまうかもしれません。
マンションが建ったばかりのころはマンションを“終の棲家”と考えている人が多く、維持・管理の合意形成も比較的容易ですが、築年数が経過すると相続でマンションを取得した人や老人ホームなどに入居しているなどでマンションの維持・管理に以前ほど熱心でなくなってしまうこともあります。
マンションは所有者全員の持ち物のため、維持・管理などを継続していくにはその都度合意形成を行っていく必要がありますが、この合意形成が時間経過と共に難しくなってしまうことがあります。
理由のひとつは所有者の意思が変化することです。たとえば“終の棲家”としてマンションを購入した人と相続によって取得した人では、マンションへの愛着も異なりますし、この後何年住み続けるのかといったライフステージの違いによっては資金負担の大きい修繕工事などは意見が分かれやすくなってしまいます。
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実際にマンション管理に携わっている人は『マンション管理で重要なのは、壊れる前に計画的に直す予防修繕だが、そもそも住んでいない人、これから何年間住むかもわからない人は費用負担を嫌い、予防修繕が行えず故障によって大きな不便が生じたり、故障した設備がそのままになってしまったりする場合もあります』と話します。
マンション管理会社はあくまでもサポートであり、管理の主体となるのはマンションの所有者になります。終の棲家としてこれから長く住み続けようという所有者が一番の被害者となってしまうのです。
相続の発生は意思決定のほか、マンション管理にも大きな影響を及ぼす場合があります。
たとえばマンションが相続財産となった場合、相続が完了するまで所有者が決まらないため管理費・修繕費を徴収することが難しくなります。
権利的にはマンション管理組合は相続人に対して請求することができます。相続人の方でも単純相続の方針が決まっており、財産分与で協議中という状況であれば相続人の誰かが立て替え払いをしてくれる可能性もありますし、立て替え払いに応じる相続人が居なかったとしても相続後完了後に新たな所有者に滞納分も含めて請求することで管理費・修繕費を回収することは充分期待できます。問題となるのは相続財産よりも負債の方が多く、相続人が相続放棄を選択しようとしている場合です。
相続放棄を選んだ場合、相続人はマンションの自室管理や管理費・修繕費の支払いといった責任から免れると思われがちです。しかし、相続放棄後も家庭裁判所の相続財産清算人が選任されるまでは最低限の管理は行う必要がありますし、競売などでマンション売却が完了するまでの間は管理費・修繕費を支払う義務を負います。
ですが、相続人にとっては相続放棄で得られる財産もないうえに他人のものになってしまうマンションを無償で管理し、あまつさえ管理費・修繕費を支払うというのはあまり現実的ではありません。
そこでマンション管理組合は競売でマンションを落札した方に対し、不真正連帯債務に基づき、滞納されている管理費・修繕費を請求することになります。
競売がうまく成立すれば滞納している管理費・修繕費の回収可能性も高まりますが、次は相続財産清算人の選出を誰が申請するのかといった問題が生じます。
相続財産清算人が選出されないと競売などが行えないのですが、相続財産清算人は相続放棄によって自動的に選任が始まるわけではなく、相続人や債権者や住宅ローンの抵当権を設定している金融機関などの利害関係者の申し立てが必要になります。
しかし、相続財産清算人の申し立ても容易に行えるわけではなく、申請書類を作成し予納金を納めることになるので負担が大きく費用もかさみます。
このため、抵当権の設定がなく、少額の債権者ばかりであった場合は相続財産清算人の選任の申し立てが行われず、マンションが空室のまま放置されてしまうことになります。
放置期間が長くなれば管理費・修繕費の滞納額も増加していくため競売の落札者の費用負担が増加し競売が不成立となってしまうリスクが高まってしまいます。
マンション管理組合も利害関係者のひとりであるため、相続財産清算人の選任の申し立てを行うことができるので費用負担を覚悟で相続財産清算人の選出を申し立てることになります。
相続でマンションに空室が発生した場合、自室の管理や管理費・修繕費徴収のリスクとなります。相続の行方を確認し、早期に対策を立てられるようにしておきましょう。
戸建住宅と異なり、さまざまな意見を持った人たちが一つの建物を共有するからこそ生じるマンション管理の意識ですが、管理や修繕を怠ることで長く住めば住むほど損が出てきます。さらに問題なのが、マンションを所有している人たちの高齢化です。
後編記事『「マンションの老人ホーム化」「若い世帯への管理費増加の負担」「所有者同士の軋轢」…マンション購入が「不幸を招く」まさかの実態』では、所有者が高齢化していくことの問題と実際に起こっている事態について解説していきます。