日本政府観光局によると‘23年5月の訪日外客数は189万8900人と’19年比68.5%の回復を見せた。そんななか、早くも観光客の迷惑行為が全国で報告されているが、翻って日本人によるオーバーツーリズムも深刻だ。その実態を追った。◆日本人による観光公害に苦しむ新大久保住民たち
「新大久保はゲロの街になりましたよ」
そう嘆くのはこの街に住んで6年になるというBさん。
「週末の夜になると、女性がそこら中で酔いつぶれている姿を見ます。路上でも民家の軒先でもゲロを吐き散らす姿は珍しくもなくなりました」
◆狭い歩道が満員電車状態、食べ歩きによるゴミ捨ても
韓国料理店や韓流アイドルショップが密集し、大人気の観光地となった新大久保だが、このところ目立つのはハメを外しすぎる日本人女性たち。
「24時間営業の韓国居酒屋やクラブの周辺で大騒ぎする若いコが増えた。すると彼女たち目当てなのか、ガラの悪い日本人の男たちもやってくるようになりました」
さらに土日や連休になると、上京者が大挙して押しかける。
「狭い歩道が満員電車状態になることも。食べ歩きによるゴミ捨てもひどいです」
そのため住民はやむなく車道を歩き、老人や車椅子の人は、出歩くこと自体をためらうようになってしまったという。自戒を促される事例だ。
◆迷惑行為抑止は日本側の体制づくりが肝
観光客の迷惑行為は全国で報告されているが、受け入れる日本側にも問題がないとは言えない。インバウンド評論家の中村正人氏は次のように指摘する。
「日本社会自体が疲弊しているなかで政府のインバウンド政策が誘致一辺倒な上、観光客が大都市に集中しているのが現状です。インバウンドはむしろ地域活性化のためにあるという原点に立ち返るべきです。また、コロナで観光産業から離職した人員が復帰していないことによる現場の混乱も要因でしょう」
実際に帝国データバンクによると、業種別正社員の人手不足割合において「旅館・ホテル」が6か月連続でトップとなっている。
その上で中村氏は、罰則の強化を対策に挙げる。
「例えば迷惑行為のあったツアーの主催社は数か月営業停止にするなどのペナルティを与えることも抑止力になる」
日本の観光文化に精通するアレックス・カー氏は、世界の観光業界が「量より質」に移行しつつあるとし、次のように提案する。
「観光地に細かい注意書きをするのも一つの対策ですが、乱立して景観を損ねているケースが多く、日本文化のレベル低下に繋がります。それよりも急務はシステム構築。観光名所や施設を予約制にしたり、入場料を高めに設定することで観光地全体のクオリティが上がる。各地がコロナ禍の間に仕組みづくりをしておかなかったのは残念ですね」
航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏も“ローカルレート”の導入を提唱する。ローカルレートとは、ホテルやレジャー施設の価格を現状より高く設定し、地元住民には割り引く、という考え方だ。質の低い観光客を退けるきっかけにもなる。
「米ハワイ州でも“カマアイナレート”と呼ばれるローカルレートが導入され、有名観光スポットでハワイ州在住者は入場料や手続きが優遇されます。オーバーツーリズム対策としても効果的でしょう」
日本も手遅れにならないようにしたいところだ。
【中村正人氏】インバウンド評論家。ブログ「ニッポンのインバウンド”参与観察”日誌」主宰。著書に『間違いだらけの日本のインバウンド』(扶桑社)
【アレックス・カー氏】著述家、東洋文化研究者。NPO法人「庵トラスト」理事長。著書に『観光亡国論』(中公新書)など
【鳥海高太朗氏】航空・旅行アナリスト、帝京大学理工学部航空宇宙工学科非常勤講師。海外ローコストエアラインの情報を各媒体で発信している
取材・文/週刊SPA!編集部