「2年たつけど、元気にしていますか。ママは寂しくてたまりません」。仏壇に置かれた、ほほ笑む息子の遺影に手を合わせ、母親(39)は声を絞り出すように語りかけた。
【写真まとめ】冬生ちゃんのリュックに入っていた「バスカード」 福岡県中間市の双葉保育園で送迎バスの車内に園児の倉掛冬生(とうま)ちゃん(当時5歳)が取り残され、熱中症で死亡した事件から29日で2年となる。命日を前に、冬生ちゃんの遺族が25日、同市の自宅で報道陣の取材に心境を語った。

2021年7月29日夕方、冬生ちゃんは保育園駐車場の送迎バス内で倒れているのが見つかり、死亡が確認された。朝の迎えのバスに乗ったまま炎天下の車内に取り残され、約9時間閉じ込められていた。最高気温が30度以上の真夏日が続き、その日も中間市に隣接する北九州市八幡西区の最高気温は33・1度。捜査関係者によると、事件後に県警が実施した再現実験では、屋外に駐車した車内の温度は50度を超えた。降車確認を怠るなどして冬生ちゃんを死亡させたとして、バスを運転した当時の園長ら2人は業務上過失致死罪に問われ、福岡地裁が22年11月に執行猶予付きの有罪判決を言い渡して確定した。 事件では、園側がバス運行時の安全管理をマニュアル通りに徹底していなかった。しかし、教訓は生かされず、事件から1年余り後の22年9月、静岡県牧之原市の認定こども園で送迎バスに取り残された3歳女児が熱中症死する事件が再び起きた。母親は「びっくりして、言葉にならなかった。(全国の保育士らには)命を預かる職業だという意識を持ってほしい。同じような事件は、もう見たくも聞きたくもない」と話す。 国は23年4月から、幼稚園など全国の送迎バスを対象に、子どもの置き去りを防ぐ安全装置の設置を義務化した。だが、母親は「もっと早く設置されていれば、冬生が亡くなることはなかった」と悔やむ。取材に同席した冬生ちゃんの祖父(70)は「装置は壊れることもある。停車時に窓を開けて、取り残された子どもが助けを求められるようにしてほしい」と訴える。 事件を巡っては、母親と父親が、園を運営する社会福祉法人「新星会」などを相手取り損害賠償を求めて提訴。園側は損害を賠償する責任があることを認めた一方で、損害額について争っている。元園長は刑事裁判の法廷で「全て私の責任で本当に申し訳なかった。心より深く反省し、今後も償い続けたい」と述べた。だが、その後は、対面で謝罪したいとの申し入れはないといい、母親は「冬生は戻ってこない。許すことはない」と言う。 三回忌を前に、仏壇には花や果物とともに、炎天下で亡くなった冬生ちゃんのことを思い、かき氷を模したろうそくも供えられた。母親は事件後、自らを責めて心身の調子を崩し、一時入院した。今も睡眠薬が欠かせないといい「ふと涙が止まらなくなる。冬生に会いたくてしょうがない」と悲痛な胸の内を明かす。 取材中、祖父が居間の畳を指さし、目を細める場面があった。「冬生がこぼしたチョコレートがそこについている」 だが、月日は次第に記憶を風化させていく。母親は「好きなゲームをしていた姿をよく思い出す。ほとんど覚えている」と話す一方で、「兄とけんかしてよく泣いていたけれど、その表情を忘れかけている」。祖父も「自室に飾っていた冬生の写真を見るのがつらくなって、片付けてしまった」と肩を落とした。【成松秋穂】
福岡県中間市の双葉保育園で送迎バスの車内に園児の倉掛冬生(とうま)ちゃん(当時5歳)が取り残され、熱中症で死亡した事件から29日で2年となる。命日を前に、冬生ちゃんの遺族が25日、同市の自宅で報道陣の取材に心境を語った。
2021年7月29日夕方、冬生ちゃんは保育園駐車場の送迎バス内で倒れているのが見つかり、死亡が確認された。朝の迎えのバスに乗ったまま炎天下の車内に取り残され、約9時間閉じ込められていた。最高気温が30度以上の真夏日が続き、その日も中間市に隣接する北九州市八幡西区の最高気温は33・1度。捜査関係者によると、事件後に県警が実施した再現実験では、屋外に駐車した車内の温度は50度を超えた。降車確認を怠るなどして冬生ちゃんを死亡させたとして、バスを運転した当時の園長ら2人は業務上過失致死罪に問われ、福岡地裁が22年11月に執行猶予付きの有罪判決を言い渡して確定した。
事件では、園側がバス運行時の安全管理をマニュアル通りに徹底していなかった。しかし、教訓は生かされず、事件から1年余り後の22年9月、静岡県牧之原市の認定こども園で送迎バスに取り残された3歳女児が熱中症死する事件が再び起きた。母親は「びっくりして、言葉にならなかった。(全国の保育士らには)命を預かる職業だという意識を持ってほしい。同じような事件は、もう見たくも聞きたくもない」と話す。
国は23年4月から、幼稚園など全国の送迎バスを対象に、子どもの置き去りを防ぐ安全装置の設置を義務化した。だが、母親は「もっと早く設置されていれば、冬生が亡くなることはなかった」と悔やむ。取材に同席した冬生ちゃんの祖父(70)は「装置は壊れることもある。停車時に窓を開けて、取り残された子どもが助けを求められるようにしてほしい」と訴える。
事件を巡っては、母親と父親が、園を運営する社会福祉法人「新星会」などを相手取り損害賠償を求めて提訴。園側は損害を賠償する責任があることを認めた一方で、損害額について争っている。元園長は刑事裁判の法廷で「全て私の責任で本当に申し訳なかった。心より深く反省し、今後も償い続けたい」と述べた。だが、その後は、対面で謝罪したいとの申し入れはないといい、母親は「冬生は戻ってこない。許すことはない」と言う。
三回忌を前に、仏壇には花や果物とともに、炎天下で亡くなった冬生ちゃんのことを思い、かき氷を模したろうそくも供えられた。母親は事件後、自らを責めて心身の調子を崩し、一時入院した。今も睡眠薬が欠かせないといい「ふと涙が止まらなくなる。冬生に会いたくてしょうがない」と悲痛な胸の内を明かす。
取材中、祖父が居間の畳を指さし、目を細める場面があった。「冬生がこぼしたチョコレートがそこについている」
だが、月日は次第に記憶を風化させていく。母親は「好きなゲームをしていた姿をよく思い出す。ほとんど覚えている」と話す一方で、「兄とけんかしてよく泣いていたけれど、その表情を忘れかけている」。祖父も「自室に飾っていた冬生の写真を見るのがつらくなって、片付けてしまった」と肩を落とした。【成松秋穂】