《おい、八田! もう逃げられないぞ》-。
昨年6月29日、大分県別府市で大学生2人が軽乗用車に追突され死傷したひき逃げ事件は発生から1年がたった。大分県警は道交法違反(ひき逃げ)容疑で、八田與一(はった・よいち)容疑者(26)を指名手配しているが、逮捕にはいたっていない。両親らは独自に情報収集し、交流サイト(SNS)で「公開捜査」。執念で容疑者を追っている。
「許せない。ただただ許せない」。大学生の息子=当時(19)=の命を奪い、1年以上、逃走を続ける八田容疑者。母親の怒りは収まることはない。
事件は昨年6月29日午後7時45分ごろ、別府市野口原の県道交差点で発生。信号待ちをしていた息子と友人の20歳の男子大学生が乗るバイクに、八田容疑者が軽乗用車で追突し、車を残して逃走した。
友人は軽傷だったが、息子は死亡。事件直前、八田容疑者と息子が話す様子が確認されていた。制限速度を大幅に超える速度で追突されていたことから、県警は、八田容疑者が故意に2人に衝突した可能性もあるとみている。
大分県警は八田容疑者の逮捕状を取り、全国に指名手配した。今年6月26日現在で、800件以上の情報が県警に寄せられたが、いまだ八田容疑者の行方はつかめない。
母親によると、息子は「世界を舞台に活躍する経営者」になるのが夢だった。小学生からプロのサッカー選手を目指していたが、高校2年のときにけがで断念。以降、勉強に励み、その努力は「目を見張るものがあった」という。
母親は事件直後、息子の死を現実として受け入れられず、「夢でもいいから出てきてほしい」と、一日中寝て過ごすこともあったという。事件から2カ月後、思い出に浸ろうと中学の卒業証書を開くと、1枚の紙が挟まれていた。
《心配してくれとるのに、勝手に自分の道に進んで行こうとしてごめんね》《本当にいつもありがとう》。卒業式の日、息子が母親に渡そうとした手紙だった。母親は「涙が止まらなかった」と振り返る。
悲しみの中、両親を支えたのは、息子の保育園時代からの「ママ友」たちだ。有志団体を結成し、SNSで独自に情報を収集。注目度を高めるため、私的懸賞金(上限500万円)も設定した。すると、八田容疑者の知人らから写真や動画が寄せられた。
《耳は左右非対称。左耳の形に特徴》《左手 手のひらにホクロ》-。提供された情報をもとに八田容疑者の特徴をSNSに載せ、目撃情報を集めている。県警にもその情報を提供している。
事件から1年。母親は一日も早い逮捕と厳罰を強く訴える。「八田容疑者の人物像を知れば知るほど憎い。次の被害者が出てしまわないか心配になる。警察は早く逮捕してほしい」
大分県警は「八田容疑者は全国どこにでもいる可能性があると考え、捜査している」とし、情報提供などを呼びかけている。情報提供は別府署(0977・21・2131)。(橘川玲奈)