さまざまな病気・不調から身を守ってくれることから、「見えないマスク」とも呼ばれる免疫力。免疫力を高めて、「最高の体調」を手に入れるには、どんなことに注意すればよいのか? 著書『名医が教える免疫力が上がる習慣』がある医師の小林弘幸氏に、「質のよい睡眠」で免疫力を上げるちょっとしたコツを教えてもらった。
みなさんは、「寝れば治る」という言葉を聞いたことはありますか?
おまじないのように聞こえますが、本当です。
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もちろん重度の病気が治るわけではありませんが、眠ることで症状がらくになることがよくあります。
なぜなら、眠ると余分なエネルギー消費を抑えられるとともに、免疫細胞が元気になるからです。
熱が出たり、風邪をひいたりしたときに眠くなるのは、免疫システムが強制的に睡眠状態に持ち込んで体を守ろうとする免疫反応なのです。
寝ているときに免疫細胞を元気にするのは、睡眠中に分泌される「成長ホルモン」という物質です。
成長ホルモンは、成長期の骨格や筋肉の発達を促す物質として知られていますが、免疫力を強化する役割もあります。
そのため、十分な睡眠をとれているときは免疫はきちんとはたらいてくれますが、睡眠が不足すると成長ホルモンがうまく分泌されず、免疫力が低下してきます。
夜更かしや徹夜をしたら、次の日に風邪をひいてしまった……、夜遅くまで仕事しないと回らないぐらい忙しいときに限って、体調を崩すなんて経験がある人もいるのではないでしょうか。
睡眠時間が短いと風邪をひきやすくなることは、研究によっても明らかにされています。
米学術誌「Sleep」(スリープ)に発表された研究によると、睡眠不足の人が風邪をひく確率は、十分な睡眠をとった人より4倍以上高くなると報告されています。
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一晩の睡眠時間が6時間未満だった人は、7時間を超える睡眠時間をとっていた人と比べて風邪の発症リスクが4.2倍高く、5時間未満の人は4.5倍も高いという結果でした。
免疫力が低下するのは、睡眠不足で免疫細胞の機能が落ちるからでもあります。
獲得免疫チームの特徴のひとつは、体の中に侵入してきた細菌やウイルスなどの病原体の情報を記憶することで、再び同じ病原体が侵入してきたときに素早く効果的な攻撃ができることです。
しかし、睡眠不足が続くと敵の情報を記憶できる能力が落ちて、何度も同じ病気にかかる、なかなか回復しない……という慢性的な不調につながります。
ただし、睡眠が大切といっても、ただ眠ればいいというわけではありません。
実際、9~10時間以上の睡眠をとっている人は、将来的に体重が増えやすかったり、がんや生活習慣病になりやすかったりする傾向があるという調査もあります。
これまで述べてきたように、睡眠時間はある程度重要ですが、見逃してはいけないのは質です。
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睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」があり、私たちは眠っている間、この2つの眠りを約90分の周期で一晩に4~5回くり返しています。
レム睡眠は、半覚醒状態にある浅い眠りで、体は眠っていますが脳は記憶の整理などを行っています。
ノンレム睡眠は、体も脳も休息に入っている状態で、眠りの深さによって3~4段階に分けられます。
このうち、質のよい睡眠に欠かせないのが、いわゆる「ぐっすり眠っている」状態のノンレム睡眠です。
特に重要なのが、入眠から3時間までの深いノンレム睡眠の時間帯。
以前は「22時~2時の間が睡眠のゴールデンタイム」というのが定説でしたが、近年はさまざまな研究により、成長ホルモンは時間帯に関係なく、眠りについてからの3時間のあいだに多く分泌されることが明らかになっています。
つまり、眠りに落ちてから最初に訪れるノンレム睡眠の間にぐっすり眠ることができれば、成長ホルモンが分泌されて免疫力が上がるということです。
といっても、自分の睡眠の質がよいか悪いかを判断するのは、なかなか難しいかもしれません。
質のよい睡眠には、次のような特徴があります。すべてに当てはまる人は、質のよい睡眠がとれているといっていいでしょう。
・布団に入るとすぐに眠くなる
・朝までぐっすり眠れる
・すっきりと目が覚める
・日中に眠気を感じることがない
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反対に、次の項目がひとつでも当てはまる人は要注意です。
・眠るまでに時間がかかる
・夜中に何度も目が覚めてしまう
・朝起きたときに頭がボーッとする
・昼間に強い眠気を感じて集中できない
・寝ても疲れがとれない
・眠りが浅くて熟睡感が得られない
「なかなか眠れない」、「朝起きるのがつらい」、「寝ても疲れがとれない」というような状態は、睡眠の質が悪くなっているサイン。睡眠環境の見直しが必要です。
「夜は早めに布団に入るし、睡眠時間はしっかりとれているはず!」と自信を持っている人でも、実は眠りが浅くて質のよい睡眠がとれておらず、免疫力が低下している……というケースも珍しくありません。
質のよい眠りを得ることができなければ、どんなに長時間眠ったとしても、睡眠が不足しているのと同じこと。体と脳が十分に休息することができずに疲れがたまるだけではなく、免疫力もどんどん低下してしまいます。
言い換えると、毎日十分に質のよい睡眠がとれていれば、免疫力は自然と高まり、病気に強い体を維持できるということでもあります。