コロナ禍が収束し、離れて暮らす父母と久しぶりに再会したら、かつての姿からは想像できないほど思想が変化していた。しかも、それを子供に押しつける。なかでも多いのが親のネトウヨ化や、陰謀論に染まるケース。なぜそうなったのか?◆ワクチン接種を理由に婚約破棄を迫った義母
佐山浩子さん(仮名・35歳)は、陰謀論にハマった反ワクチン派の義母(68歳)から婚約破棄を迫られた。
「10年付き合っていた彼とコロナ禍に結婚することになり、彼の実家に挨拶に行ったんです。彼の両親は退職していますが、元はどちらも上場企業勤務。悠々自適の生活で、ゴルフやダイビングが趣味のプチセレブといった感じです」
佐山さんは両親や職場の推奨もありワクチンを接種。その翌日、結納の打ち合わせで再度彼の実家を訪ねたとき、“事件”は起きた。
「彼の母は開口一番『ワクチン打っちゃったの!? 打つなと言ったのに!』と叱ってきたんです。その日は適当にお茶を濁して帰ったのですが、翌日彼のもとに彼の母から号泣しながら電話があり『浩子ちゃんのことは好きだけど、ワクチンを打ってしまったコと家族になるのは絶対嫌、無理!!』と、婚約を破棄するよう夫に迫ってきたんです」
数か月にわたる彼の説得で、ようやく彼の母は折れ、晴れて入籍を済ませたが……。
「どんなに無視しても、義母から毎週のように陰謀論情報がみっちり書かれたメールが届くんです。あと、夫が実家に寄った際、義母のタブレットの再生履歴をチェックしたそうなんですが、その内容を見てドン引きしました。ハードな陰謀論やスピリチュアル系ばかりでゾッとしましたよ。子供ができても、絶対に会わせたくないですね」
“良識ある上級国民”に見える家庭にも、陰謀論がどんどん浸透しているようだ。
◆健康オタクだった母がユダヤ陰謀論者に
2年前、都内に住む宇田優和さん(仮名・43歳)のもとに、地方に住む78歳の母から手紙が届いた。そこにはこう記されていた。
<Mちゃん(孫)にはワクチン打たないで下さい>
「小学校教師をしていた母親は昔から健康オタクでした。チェルノブイリ原発事故が起きた当時、『雨に当たっちゃダメ。放射能が入っている』と言われたのを覚えています。そんな母が最近では陰謀論にハマってしまった」
コロナ禍に入ってからは、ワクチン関連の陰謀論を熱心に説く手紙が頻繁に送られてくる。そこには化学物質の危険性を指摘する雑誌の特集も同封されているという。
「僕が小さい頃に飲尿療法をやるなど、もともと母は極端なところはあったのですが、まさか『製薬会社はユダヤと繋がっていて、ワクチンを利用して人口削減をしている』とか『世界を牛耳る闇の勢力に抗うために正しい情報を収集しなくていけない』などと言うようになるとは……」
母は現在、同じ主張を持つ仲間と集まっては、理論武装に勤しんでいるという。宇田さんは困り果てている。
◆母が陰謀論者に豹変し親子関係が断絶
陰謀論を信じる母親との出来事を漫画化した『母親を陰謀論で失った』が話題だ。
きっかけは原作者・ぺんたん氏(30代)に届いた母からのLINE。新型コロナウイルス関連の陰謀系動画だった。「CIAが裏で関与している」という内容に最初は笑っていたが、徐々にエスカレート。ぺんたん氏は危機感を抱くようになる。
「ビル・ゲイツがコロナワクチンを広めて世界人口を抑制しようとしている、といったデマが送られてきて、冗談では済まされないと思うようになりました」
心配になり父親に相談すると、それを知った母親から電話が。
「『誰が陰謀論者だ! ふざけんじゃねぇ、バカヤロー!』と聞いたことのない大声で怒鳴られました。有害な情報を与えられ続けると、その人がもともと持っている優しさを飛び越え、人格を乗っ取ってしまうのです」
その後、意を決して母親と直接会うことにしたぺんたん氏だが、実際に話をすると最初は、以前の母親そのものだったと言う。
「しかし突然『ビル・ゲイツが処刑された』と言いだした。その口調やトーンは普段と違ってグロテスクで、もうこれはダメだと諦めることにしました。母親には母親の世界があるからそれを尊重し、自分にはもう母親がいないと認識するようになりました」
同じ悩みを抱える人は多い。
【ぺんたん氏】30代男性。会社員として働くかたわら、陰謀論で家族を失った人々との交流を図っている
取材・文・撮影/SPA!「親がネトウヨ」取材班