ここ最近、1万円を超える白無地Tシャツが売れているという。ユニクロやヘインズなら1000円台でも質の高いものが買えるのに、何の飾り気もないTシャツに、一体なぜそんなに高いお金を出すのだろうか。ブランドだから? それともそれだけの価値があるから? 白無地Tシャツを年間330日以上着るという“白無地T愛好家”であるスタイリスト、稲田一生氏(40)に聞いた。(取材・構成/押条良太)
【画像】1000円台とは何が違う? 1万円を超える白無地Tシャツを見る写真はイメージ iStock.com◆ ◆ ◆年間330日以上、白無地Tシャツを着る理由――白無地Tシャツにハマったきっかけを教えてください。稲田一生氏(以下、稲田) ずばりロマンですね。白無地Tシャツは、数ある服の中でもっとも華麗な“成り上がり”を果たした服だと思うんです。 もともとTシャツは単なる肌着でしたが、1950年代のアメリカで、俳優のマーロン・ブランドが映画に白無地Tシャツ1枚の姿で登場したことがきっかけで大流行したんです。さらにジェームズ・ディーンやブリジッド・バルドーといったセレブたちもこぞって愛用しました。こうして白無地Tシャツは、“反骨精神のあるイケてる服”に成り上がったんです。日本でも白洲次郎がジーンズにあわせて着ていました。――ただ、Tシャツにはいろいろな色やデザインがあるのに、なぜ今、白無地なんですか?稲田 昔から、「白の無地Tシャツしか着ない」という愛用者は一定数いました。ですが、ここ2、3年、飾り気のないシンプルな服がトレンドになっていることもあって、着ている人が一気に増えた気がします。表参道や青山を歩いている人たちを観察してみてください。世代を問わず、本当によく見かけますから。ブランドやセレクトショップも、必ずと言っていいほど定番の白の無地Tシャツを展開しています。ただ、人気が爆発した一番の理由はトレンドではなく、みんなが「使える」ということに気づいたからだと思います。――そんなに便利なんですか?稲田 とにかくどんな服装にもマッチします。ジーンズはもちろん、スラックスなんかに合わせてもいいですし、ジャケットの下にシャツがわりにも着られます。白は万能色ですから、色合わせも簡単。白い服を着ると、光を反射するレフ板効果によって顔色がぱっと明るく見えるんです。 私自身も、白の無地Tシャツを30枚ほど持っていて、年間330日以上は着ています。朝、クローゼットの前に立つと、反射的に手が伸びます。――たしかに爽やかなイメージはありますね。とはいえ、白無地なら、2000円とか3000円でも、そこそこのものが買えるわけですよね。1万円はさすがに……。1万円を超えると何が違う?稲田 最初はそう思いましたが、1万円を超える白の無地Tシャツの中には、たしかな違いを感じられる優秀なものが少なくないんです。――たとえば、どこが違うんですか?稲田 共通して言えるのは、生地の質が高いこと。1万円超えのTシャツの多くは、ピマ・コットンなどの繊維長の長いコットンが使われています。こうした上質なコットンは、高価な分、上品な光沢としなやかな風合いを兼ねそなえ、洗濯を繰り返しても型崩れしにくい特長を持っています。 他にもステッチラインが肌に当たらないよう工夫されていたり、負荷のかかりやすい部分が丈夫な作りになっていたり、細部も凝った作りになっています。 シルエットにもこだわりが詰まっています。身頃の幅や袖、裾の長さで印象はがらりと変わるため、ミリ単位で調整を繰り返して、よりスタイリッシュに見えるシルエットをつくり出します。低価格のものよりも長く着られる――素材と手間ひま……価格の理由はここにあるんですね。稲田 コスパも優秀です。コットンの質が高いだけでなく、生地も厚手のしっかりとしたものが多いので、低価格のものよりも長く着ることができます。Tシャツの弱点であるネックラインも丈夫に作られています。 それに色やデザインが凝ったTシャツだと、「いつも同じTシャツを着ているな」と思われるかもしれませんが、白の無地ならそんな心配も不要です。平日はスーツ、土曜と日曜は白の無地Tシャツと決めてしまえば、服装に迷ったり、あれこれ服を買って無駄遣いしたりすることも少なくなるはず。週末だけ着るなら、2、3枚でひと夏を越せますから。ミニマリスト志向のひとにもぴったり。――選び方のコツはありますか?稲田 生地が薄いと、体が透けるのが気になる場合があるので、厚みはチェックした方がいいですね。着こなしに合わせたサイズ選びも大切です。ジーンズやチノパンと合わせてカジュアルに着るなら、ややゆったりめが、ジャケットやニット、スラックスなどに合わせるなら、ジャストサイズがおすすめです。――稲田さんのマイベスト・白無地T・ベスト3を教えてください。(1)専門店「#FFFFFFT(シロティ)稲田 最近、一番よく着ているのが、「#FFFFFFT(シロティ)」が作っている「シロティ_DNM」です。東京・千駄ヶ谷にある「シロティ」は、世界各国から選りすぐった累計400種類もの白Tシャツ専門店。そんな店の知見が生かされたオリジナルだけあって、完成度は群を抜きます。 コンセプトは「デニムのための白Tシャツ」。しっかりとした肉厚の生地は、アメリカンコットンの太番手の綿糸を通常の約2倍も使い、希少な旧式の吊り編み機でじっくり編み上げたもの。重厚感とふっくらとした風合いをあわせ持つ生地は、デニムと相思相愛。たとえるなら、白ご飯とみそ汁、ビールと枝豆くらい相性がいいんです。 細すぎず、かといって太すぎないシルエットのバランスも絶妙で、1枚で着てももちろん、Gジャンやシャツと重ね着したときのバランスもばっちり。 ネックにも注目してください。ネックは約3センチ幅の超肉厚バインダーネックになっていて、丈夫で伸びにくいだけでなく、デザインのアクセントにもなるんです。 デニムとの相性がいいだけでなく、着込むほどに格好よくなっていく点もデニムに通じるものがありますね。今年4月の発売以来、過去最高ペースで売れ続けているという人気商品です。(2)英国の老舗ブランド「サンスペル」 体のラインをキレイに見せたいなら、英国の老舗ブランドであるサンスペルが作っている「リヴィエラ ミッドウェイト Tシャツ」が最強です。 じつはこれ、映画『007/カジノ・ロワイヤル』で、ダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドのためにデザインされたTシャツなんです。作品にも登場しますが、クレイグの肉体を際立たせるために、袖を短くしたり、身頃が絞られたり、体がシュッとして見えるようアレンジされています。昨年は約3000枚の売り上げを突破――生地にも高級感がありますね。稲田 ピマ・コットンの中でも最高級のスーピマコットン、その中でもさらに最上級のエクストラロングステーブル(超長繊維)が使われたコットンジャージーです。なめらかになるよう糸に撚りをかけ、さらにガス焼きによって不純物や毛羽が取り除かれた糸で編まれているので、肌触りはまさに極上です。 ほかにも、ネックラインを折り返したり、各所のステッチ数をすべて指定したり、キレイに見えるよう随所に工夫が凝らされています。 デビューして20年近く経つ定番にもかかわらず、昨年は約3000枚を突破。リピート率が高く、夏前に2、3枚まとめ買いする人が多いらしいです。 白無地Tシャツといえば、2枚セットになったアメリカの“パックT”がおなじみ。一般的なパックTは数千円のリーズナブル価格ですが、こちらは英国の高級ニットブランドが作った2万円超えのパックTです。――2万円を超えるパックTがあるんですね!(3)「ジョン スメドレー」の“パックT”稲田 その分、パフォーマンスは高いですよ。適度な厚みのある生地は、繊維長の長いスーピマコットン。シルクのような光沢としなやかな風合いが特徴で、肌触りもサラッサラ。 縫製にもこだわりがあり、身頃はシームレス仕様に。サイドに縫い代がないため、肌触りがよく、さらに着た時に体のラインがすっきり見えるんです。 もともとはジョン スメドレーのセーター用のインナーとして開発されたものだけあって、ニットやカーディガンと重ね着したときに、すごくバランスがいいんです。ただ、ネックも適度にワイドで、シルエットもややゆったり目。なおかつボディも適度な厚みがあるので、1枚で着ても格好よく見えるんです。 2枚で2万2000円とやや値が張りますが、ジャケットやカーディガンの下に着てもよし、1枚で着てもよし。“ヨソ行き”の白無地Tシャツとして重宝しています。値段の上限については?――たくさんの白無地Tシャツをお持ちですが、値段の上限についてはどうですか?稲田 私が買う場合、1万円台前半までが基準です。もちろんハイブランドの中には、4、5万円するTシャツはざらにあります。でもそれは、そのブランドのプレステージやデザインに感じるところがあるからお金を払うわけです。こうしたTシャツを買うのは、アートや美術品を購入する感覚に近いと思うんです。 その点、私にとって白の無地Tシャツは、ファッションアイテムであると同時に日常着でもあります。Tシャツ1枚で着ても格好よく見えて、かつ実用性も高いもの。こう考えると、自然と1万円ちょいのものがちょうどいいんです。――最後に1万円超えの白無地Tシャツの魅力をあらためて教えてください。稲田 白無地Tシャツと聞くと、ひと昔前のテレビドラマに出ていた俳優さんたちやハリウッドのセレブなんかを思い浮かべる人は少なくないはず。 でも、白無地Tシャツはどんどん進歩していて、今ではイケメン限定の服じゃなくなりました。着慣れないのは別として、白の無地Tシャツが似合わない、という人はまずいないと思います。 あれこれ小細工をする必要なく、着るだけで、誰でもインスタントに格好よくなれるのが白無地Tシャツのパワー。こうして話していると、また白無地Tシャツが欲しくなってきました(笑)。◆いなだ・いっせい/1983年神奈川県横浜市出身。スタイリストの吉野誠氏に師事後、2017年に独立。雑誌やWeb媒体ほか、ブランドのカタログや映画のスタリイングなど幅広い分野で活躍。ロードバイク選手としての顔も持ち、今年の「第19回富士ヒルクライム」では59分30秒のタイムを叩き出した実力者。(押条 良太)
写真はイメージ iStock.com
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――白無地Tシャツにハマったきっかけを教えてください。
稲田一生氏(以下、稲田) ずばりロマンですね。白無地Tシャツは、数ある服の中でもっとも華麗な“成り上がり”を果たした服だと思うんです。
もともとTシャツは単なる肌着でしたが、1950年代のアメリカで、俳優のマーロン・ブランドが映画に白無地Tシャツ1枚の姿で登場したことがきっかけで大流行したんです。さらにジェームズ・ディーンやブリジッド・バルドーといったセレブたちもこぞって愛用しました。こうして白無地Tシャツは、“反骨精神のあるイケてる服”に成り上がったんです。日本でも白洲次郎がジーンズにあわせて着ていました。
――ただ、Tシャツにはいろいろな色やデザインがあるのに、なぜ今、白無地なんですか?
稲田 昔から、「白の無地Tシャツしか着ない」という愛用者は一定数いました。ですが、ここ2、3年、飾り気のないシンプルな服がトレンドになっていることもあって、着ている人が一気に増えた気がします。表参道や青山を歩いている人たちを観察してみてください。世代を問わず、本当によく見かけますから。ブランドやセレクトショップも、必ずと言っていいほど定番の白の無地Tシャツを展開しています。ただ、人気が爆発した一番の理由はトレンドではなく、みんなが「使える」ということに気づいたからだと思います。
――そんなに便利なんですか?稲田 とにかくどんな服装にもマッチします。ジーンズはもちろん、スラックスなんかに合わせてもいいですし、ジャケットの下にシャツがわりにも着られます。白は万能色ですから、色合わせも簡単。白い服を着ると、光を反射するレフ板効果によって顔色がぱっと明るく見えるんです。 私自身も、白の無地Tシャツを30枚ほど持っていて、年間330日以上は着ています。朝、クローゼットの前に立つと、反射的に手が伸びます。――たしかに爽やかなイメージはありますね。とはいえ、白無地なら、2000円とか3000円でも、そこそこのものが買えるわけですよね。1万円はさすがに……。1万円を超えると何が違う?稲田 最初はそう思いましたが、1万円を超える白の無地Tシャツの中には、たしかな違いを感じられる優秀なものが少なくないんです。――たとえば、どこが違うんですか?稲田 共通して言えるのは、生地の質が高いこと。1万円超えのTシャツの多くは、ピマ・コットンなどの繊維長の長いコットンが使われています。こうした上質なコットンは、高価な分、上品な光沢としなやかな風合いを兼ねそなえ、洗濯を繰り返しても型崩れしにくい特長を持っています。 他にもステッチラインが肌に当たらないよう工夫されていたり、負荷のかかりやすい部分が丈夫な作りになっていたり、細部も凝った作りになっています。 シルエットにもこだわりが詰まっています。身頃の幅や袖、裾の長さで印象はがらりと変わるため、ミリ単位で調整を繰り返して、よりスタイリッシュに見えるシルエットをつくり出します。低価格のものよりも長く着られる――素材と手間ひま……価格の理由はここにあるんですね。稲田 コスパも優秀です。コットンの質が高いだけでなく、生地も厚手のしっかりとしたものが多いので、低価格のものよりも長く着ることができます。Tシャツの弱点であるネックラインも丈夫に作られています。 それに色やデザインが凝ったTシャツだと、「いつも同じTシャツを着ているな」と思われるかもしれませんが、白の無地ならそんな心配も不要です。平日はスーツ、土曜と日曜は白の無地Tシャツと決めてしまえば、服装に迷ったり、あれこれ服を買って無駄遣いしたりすることも少なくなるはず。週末だけ着るなら、2、3枚でひと夏を越せますから。ミニマリスト志向のひとにもぴったり。――選び方のコツはありますか?稲田 生地が薄いと、体が透けるのが気になる場合があるので、厚みはチェックした方がいいですね。着こなしに合わせたサイズ選びも大切です。ジーンズやチノパンと合わせてカジュアルに着るなら、ややゆったりめが、ジャケットやニット、スラックスなどに合わせるなら、ジャストサイズがおすすめです。――稲田さんのマイベスト・白無地T・ベスト3を教えてください。(1)専門店「#FFFFFFT(シロティ)稲田 最近、一番よく着ているのが、「#FFFFFFT(シロティ)」が作っている「シロティ_DNM」です。東京・千駄ヶ谷にある「シロティ」は、世界各国から選りすぐった累計400種類もの白Tシャツ専門店。そんな店の知見が生かされたオリジナルだけあって、完成度は群を抜きます。 コンセプトは「デニムのための白Tシャツ」。しっかりとした肉厚の生地は、アメリカンコットンの太番手の綿糸を通常の約2倍も使い、希少な旧式の吊り編み機でじっくり編み上げたもの。重厚感とふっくらとした風合いをあわせ持つ生地は、デニムと相思相愛。たとえるなら、白ご飯とみそ汁、ビールと枝豆くらい相性がいいんです。 細すぎず、かといって太すぎないシルエットのバランスも絶妙で、1枚で着てももちろん、Gジャンやシャツと重ね着したときのバランスもばっちり。 ネックにも注目してください。ネックは約3センチ幅の超肉厚バインダーネックになっていて、丈夫で伸びにくいだけでなく、デザインのアクセントにもなるんです。 デニムとの相性がいいだけでなく、着込むほどに格好よくなっていく点もデニムに通じるものがありますね。今年4月の発売以来、過去最高ペースで売れ続けているという人気商品です。(2)英国の老舗ブランド「サンスペル」 体のラインをキレイに見せたいなら、英国の老舗ブランドであるサンスペルが作っている「リヴィエラ ミッドウェイト Tシャツ」が最強です。 じつはこれ、映画『007/カジノ・ロワイヤル』で、ダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドのためにデザインされたTシャツなんです。作品にも登場しますが、クレイグの肉体を際立たせるために、袖を短くしたり、身頃が絞られたり、体がシュッとして見えるようアレンジされています。昨年は約3000枚の売り上げを突破――生地にも高級感がありますね。稲田 ピマ・コットンの中でも最高級のスーピマコットン、その中でもさらに最上級のエクストラロングステーブル(超長繊維)が使われたコットンジャージーです。なめらかになるよう糸に撚りをかけ、さらにガス焼きによって不純物や毛羽が取り除かれた糸で編まれているので、肌触りはまさに極上です。 ほかにも、ネックラインを折り返したり、各所のステッチ数をすべて指定したり、キレイに見えるよう随所に工夫が凝らされています。 デビューして20年近く経つ定番にもかかわらず、昨年は約3000枚を突破。リピート率が高く、夏前に2、3枚まとめ買いする人が多いらしいです。 白無地Tシャツといえば、2枚セットになったアメリカの“パックT”がおなじみ。一般的なパックTは数千円のリーズナブル価格ですが、こちらは英国の高級ニットブランドが作った2万円超えのパックTです。――2万円を超えるパックTがあるんですね!(3)「ジョン スメドレー」の“パックT”稲田 その分、パフォーマンスは高いですよ。適度な厚みのある生地は、繊維長の長いスーピマコットン。シルクのような光沢としなやかな風合いが特徴で、肌触りもサラッサラ。 縫製にもこだわりがあり、身頃はシームレス仕様に。サイドに縫い代がないため、肌触りがよく、さらに着た時に体のラインがすっきり見えるんです。 もともとはジョン スメドレーのセーター用のインナーとして開発されたものだけあって、ニットやカーディガンと重ね着したときに、すごくバランスがいいんです。ただ、ネックも適度にワイドで、シルエットもややゆったり目。なおかつボディも適度な厚みがあるので、1枚で着ても格好よく見えるんです。 2枚で2万2000円とやや値が張りますが、ジャケットやカーディガンの下に着てもよし、1枚で着てもよし。“ヨソ行き”の白無地Tシャツとして重宝しています。値段の上限については?――たくさんの白無地Tシャツをお持ちですが、値段の上限についてはどうですか?稲田 私が買う場合、1万円台前半までが基準です。もちろんハイブランドの中には、4、5万円するTシャツはざらにあります。でもそれは、そのブランドのプレステージやデザインに感じるところがあるからお金を払うわけです。こうしたTシャツを買うのは、アートや美術品を購入する感覚に近いと思うんです。 その点、私にとって白の無地Tシャツは、ファッションアイテムであると同時に日常着でもあります。Tシャツ1枚で着ても格好よく見えて、かつ実用性も高いもの。こう考えると、自然と1万円ちょいのものがちょうどいいんです。――最後に1万円超えの白無地Tシャツの魅力をあらためて教えてください。稲田 白無地Tシャツと聞くと、ひと昔前のテレビドラマに出ていた俳優さんたちやハリウッドのセレブなんかを思い浮かべる人は少なくないはず。 でも、白無地Tシャツはどんどん進歩していて、今ではイケメン限定の服じゃなくなりました。着慣れないのは別として、白の無地Tシャツが似合わない、という人はまずいないと思います。 あれこれ小細工をする必要なく、着るだけで、誰でもインスタントに格好よくなれるのが白無地Tシャツのパワー。こうして話していると、また白無地Tシャツが欲しくなってきました(笑)。◆いなだ・いっせい/1983年神奈川県横浜市出身。スタイリストの吉野誠氏に師事後、2017年に独立。雑誌やWeb媒体ほか、ブランドのカタログや映画のスタリイングなど幅広い分野で活躍。ロードバイク選手としての顔も持ち、今年の「第19回富士ヒルクライム」では59分30秒のタイムを叩き出した実力者。(押条 良太)
――そんなに便利なんですか?
稲田 とにかくどんな服装にもマッチします。ジーンズはもちろん、スラックスなんかに合わせてもいいですし、ジャケットの下にシャツがわりにも着られます。白は万能色ですから、色合わせも簡単。白い服を着ると、光を反射するレフ板効果によって顔色がぱっと明るく見えるんです。
私自身も、白の無地Tシャツを30枚ほど持っていて、年間330日以上は着ています。朝、クローゼットの前に立つと、反射的に手が伸びます。
――たしかに爽やかなイメージはありますね。とはいえ、白無地なら、2000円とか3000円でも、そこそこのものが買えるわけですよね。1万円はさすがに……。
稲田 最初はそう思いましたが、1万円を超える白の無地Tシャツの中には、たしかな違いを感じられる優秀なものが少なくないんです。
――たとえば、どこが違うんですか?
稲田 共通して言えるのは、生地の質が高いこと。1万円超えのTシャツの多くは、ピマ・コットンなどの繊維長の長いコットンが使われています。こうした上質なコットンは、高価な分、上品な光沢としなやかな風合いを兼ねそなえ、洗濯を繰り返しても型崩れしにくい特長を持っています。
他にもステッチラインが肌に当たらないよう工夫されていたり、負荷のかかりやすい部分が丈夫な作りになっていたり、細部も凝った作りになっています。
シルエットにもこだわりが詰まっています。身頃の幅や袖、裾の長さで印象はがらりと変わるため、ミリ単位で調整を繰り返して、よりスタイリッシュに見えるシルエットをつくり出します。
――素材と手間ひま……価格の理由はここにあるんですね。
稲田 コスパも優秀です。コットンの質が高いだけでなく、生地も厚手のしっかりとしたものが多いので、低価格のものよりも長く着ることができます。Tシャツの弱点であるネックラインも丈夫に作られています。
それに色やデザインが凝ったTシャツだと、「いつも同じTシャツを着ているな」と思われるかもしれませんが、白の無地ならそんな心配も不要です。平日はスーツ、土曜と日曜は白の無地Tシャツと決めてしまえば、服装に迷ったり、あれこれ服を買って無駄遣いしたりすることも少なくなるはず。週末だけ着るなら、2、3枚でひと夏を越せますから。ミニマリスト志向のひとにもぴったり。
――選び方のコツはありますか?
稲田 生地が薄いと、体が透けるのが気になる場合があるので、厚みはチェックした方がいいですね。着こなしに合わせたサイズ選びも大切です。ジーンズやチノパンと合わせてカジュアルに着るなら、ややゆったりめが、ジャケットやニット、スラックスなどに合わせるなら、ジャストサイズがおすすめです。
――稲田さんのマイベスト・白無地T・ベスト3を教えてください。
稲田 最近、一番よく着ているのが、「#FFFFFFT(シロティ)」が作っている「シロティ_DNM」です。東京・千駄ヶ谷にある「シロティ」は、世界各国から選りすぐった累計400種類もの白Tシャツ専門店。そんな店の知見が生かされたオリジナルだけあって、完成度は群を抜きます。
コンセプトは「デニムのための白Tシャツ」。しっかりとした肉厚の生地は、アメリカンコットンの太番手の綿糸を通常の約2倍も使い、希少な旧式の吊り編み機でじっくり編み上げたもの。重厚感とふっくらとした風合いをあわせ持つ生地は、デニムと相思相愛。たとえるなら、白ご飯とみそ汁、ビールと枝豆くらい相性がいいんです。 細すぎず、かといって太すぎないシルエットのバランスも絶妙で、1枚で着てももちろん、Gジャンやシャツと重ね着したときのバランスもばっちり。 ネックにも注目してください。ネックは約3センチ幅の超肉厚バインダーネックになっていて、丈夫で伸びにくいだけでなく、デザインのアクセントにもなるんです。 デニムとの相性がいいだけでなく、着込むほどに格好よくなっていく点もデニムに通じるものがありますね。今年4月の発売以来、過去最高ペースで売れ続けているという人気商品です。(2)英国の老舗ブランド「サンスペル」 体のラインをキレイに見せたいなら、英国の老舗ブランドであるサンスペルが作っている「リヴィエラ ミッドウェイト Tシャツ」が最強です。 じつはこれ、映画『007/カジノ・ロワイヤル』で、ダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドのためにデザインされたTシャツなんです。作品にも登場しますが、クレイグの肉体を際立たせるために、袖を短くしたり、身頃が絞られたり、体がシュッとして見えるようアレンジされています。昨年は約3000枚の売り上げを突破――生地にも高級感がありますね。稲田 ピマ・コットンの中でも最高級のスーピマコットン、その中でもさらに最上級のエクストラロングステーブル(超長繊維)が使われたコットンジャージーです。なめらかになるよう糸に撚りをかけ、さらにガス焼きによって不純物や毛羽が取り除かれた糸で編まれているので、肌触りはまさに極上です。 ほかにも、ネックラインを折り返したり、各所のステッチ数をすべて指定したり、キレイに見えるよう随所に工夫が凝らされています。 デビューして20年近く経つ定番にもかかわらず、昨年は約3000枚を突破。リピート率が高く、夏前に2、3枚まとめ買いする人が多いらしいです。 白無地Tシャツといえば、2枚セットになったアメリカの“パックT”がおなじみ。一般的なパックTは数千円のリーズナブル価格ですが、こちらは英国の高級ニットブランドが作った2万円超えのパックTです。――2万円を超えるパックTがあるんですね!(3)「ジョン スメドレー」の“パックT”稲田 その分、パフォーマンスは高いですよ。適度な厚みのある生地は、繊維長の長いスーピマコットン。シルクのような光沢としなやかな風合いが特徴で、肌触りもサラッサラ。 縫製にもこだわりがあり、身頃はシームレス仕様に。サイドに縫い代がないため、肌触りがよく、さらに着た時に体のラインがすっきり見えるんです。 もともとはジョン スメドレーのセーター用のインナーとして開発されたものだけあって、ニットやカーディガンと重ね着したときに、すごくバランスがいいんです。ただ、ネックも適度にワイドで、シルエットもややゆったり目。なおかつボディも適度な厚みがあるので、1枚で着ても格好よく見えるんです。 2枚で2万2000円とやや値が張りますが、ジャケットやカーディガンの下に着てもよし、1枚で着てもよし。“ヨソ行き”の白無地Tシャツとして重宝しています。値段の上限については?――たくさんの白無地Tシャツをお持ちですが、値段の上限についてはどうですか?稲田 私が買う場合、1万円台前半までが基準です。もちろんハイブランドの中には、4、5万円するTシャツはざらにあります。でもそれは、そのブランドのプレステージやデザインに感じるところがあるからお金を払うわけです。こうしたTシャツを買うのは、アートや美術品を購入する感覚に近いと思うんです。 その点、私にとって白の無地Tシャツは、ファッションアイテムであると同時に日常着でもあります。Tシャツ1枚で着ても格好よく見えて、かつ実用性も高いもの。こう考えると、自然と1万円ちょいのものがちょうどいいんです。――最後に1万円超えの白無地Tシャツの魅力をあらためて教えてください。稲田 白無地Tシャツと聞くと、ひと昔前のテレビドラマに出ていた俳優さんたちやハリウッドのセレブなんかを思い浮かべる人は少なくないはず。 でも、白無地Tシャツはどんどん進歩していて、今ではイケメン限定の服じゃなくなりました。着慣れないのは別として、白の無地Tシャツが似合わない、という人はまずいないと思います。 あれこれ小細工をする必要なく、着るだけで、誰でもインスタントに格好よくなれるのが白無地Tシャツのパワー。こうして話していると、また白無地Tシャツが欲しくなってきました(笑)。◆いなだ・いっせい/1983年神奈川県横浜市出身。スタイリストの吉野誠氏に師事後、2017年に独立。雑誌やWeb媒体ほか、ブランドのカタログや映画のスタリイングなど幅広い分野で活躍。ロードバイク選手としての顔も持ち、今年の「第19回富士ヒルクライム」では59分30秒のタイムを叩き出した実力者。(押条 良太)
コンセプトは「デニムのための白Tシャツ」。しっかりとした肉厚の生地は、アメリカンコットンの太番手の綿糸を通常の約2倍も使い、希少な旧式の吊り編み機でじっくり編み上げたもの。重厚感とふっくらとした風合いをあわせ持つ生地は、デニムと相思相愛。たとえるなら、白ご飯とみそ汁、ビールと枝豆くらい相性がいいんです。
細すぎず、かといって太すぎないシルエットのバランスも絶妙で、1枚で着てももちろん、Gジャンやシャツと重ね着したときのバランスもばっちり。
ネックにも注目してください。ネックは約3センチ幅の超肉厚バインダーネックになっていて、丈夫で伸びにくいだけでなく、デザインのアクセントにもなるんです。
デニムとの相性がいいだけでなく、着込むほどに格好よくなっていく点もデニムに通じるものがありますね。今年4月の発売以来、過去最高ペースで売れ続けているという人気商品です。
体のラインをキレイに見せたいなら、英国の老舗ブランドであるサンスペルが作っている「リヴィエラ ミッドウェイト Tシャツ」が最強です。
じつはこれ、映画『007/カジノ・ロワイヤル』で、ダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドのためにデザインされたTシャツなんです。作品にも登場しますが、クレイグの肉体を際立たせるために、袖を短くしたり、身頃が絞られたり、体がシュッとして見えるようアレンジされています。昨年は約3000枚の売り上げを突破――生地にも高級感がありますね。稲田 ピマ・コットンの中でも最高級のスーピマコットン、その中でもさらに最上級のエクストラロングステーブル(超長繊維)が使われたコットンジャージーです。なめらかになるよう糸に撚りをかけ、さらにガス焼きによって不純物や毛羽が取り除かれた糸で編まれているので、肌触りはまさに極上です。 ほかにも、ネックラインを折り返したり、各所のステッチ数をすべて指定したり、キレイに見えるよう随所に工夫が凝らされています。 デビューして20年近く経つ定番にもかかわらず、昨年は約3000枚を突破。リピート率が高く、夏前に2、3枚まとめ買いする人が多いらしいです。 白無地Tシャツといえば、2枚セットになったアメリカの“パックT”がおなじみ。一般的なパックTは数千円のリーズナブル価格ですが、こちらは英国の高級ニットブランドが作った2万円超えのパックTです。――2万円を超えるパックTがあるんですね!(3)「ジョン スメドレー」の“パックT”稲田 その分、パフォーマンスは高いですよ。適度な厚みのある生地は、繊維長の長いスーピマコットン。シルクのような光沢としなやかな風合いが特徴で、肌触りもサラッサラ。 縫製にもこだわりがあり、身頃はシームレス仕様に。サイドに縫い代がないため、肌触りがよく、さらに着た時に体のラインがすっきり見えるんです。 もともとはジョン スメドレーのセーター用のインナーとして開発されたものだけあって、ニットやカーディガンと重ね着したときに、すごくバランスがいいんです。ただ、ネックも適度にワイドで、シルエットもややゆったり目。なおかつボディも適度な厚みがあるので、1枚で着ても格好よく見えるんです。 2枚で2万2000円とやや値が張りますが、ジャケットやカーディガンの下に着てもよし、1枚で着てもよし。“ヨソ行き”の白無地Tシャツとして重宝しています。値段の上限については?――たくさんの白無地Tシャツをお持ちですが、値段の上限についてはどうですか?稲田 私が買う場合、1万円台前半までが基準です。もちろんハイブランドの中には、4、5万円するTシャツはざらにあります。でもそれは、そのブランドのプレステージやデザインに感じるところがあるからお金を払うわけです。こうしたTシャツを買うのは、アートや美術品を購入する感覚に近いと思うんです。 その点、私にとって白の無地Tシャツは、ファッションアイテムであると同時に日常着でもあります。Tシャツ1枚で着ても格好よく見えて、かつ実用性も高いもの。こう考えると、自然と1万円ちょいのものがちょうどいいんです。――最後に1万円超えの白無地Tシャツの魅力をあらためて教えてください。稲田 白無地Tシャツと聞くと、ひと昔前のテレビドラマに出ていた俳優さんたちやハリウッドのセレブなんかを思い浮かべる人は少なくないはず。 でも、白無地Tシャツはどんどん進歩していて、今ではイケメン限定の服じゃなくなりました。着慣れないのは別として、白の無地Tシャツが似合わない、という人はまずいないと思います。 あれこれ小細工をする必要なく、着るだけで、誰でもインスタントに格好よくなれるのが白無地Tシャツのパワー。こうして話していると、また白無地Tシャツが欲しくなってきました(笑)。◆いなだ・いっせい/1983年神奈川県横浜市出身。スタイリストの吉野誠氏に師事後、2017年に独立。雑誌やWeb媒体ほか、ブランドのカタログや映画のスタリイングなど幅広い分野で活躍。ロードバイク選手としての顔も持ち、今年の「第19回富士ヒルクライム」では59分30秒のタイムを叩き出した実力者。(押条 良太)
じつはこれ、映画『007/カジノ・ロワイヤル』で、ダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドのためにデザインされたTシャツなんです。作品にも登場しますが、クレイグの肉体を際立たせるために、袖を短くしたり、身頃が絞られたり、体がシュッとして見えるようアレンジされています。
――生地にも高級感がありますね。
稲田 ピマ・コットンの中でも最高級のスーピマコットン、その中でもさらに最上級のエクストラロングステーブル(超長繊維)が使われたコットンジャージーです。なめらかになるよう糸に撚りをかけ、さらにガス焼きによって不純物や毛羽が取り除かれた糸で編まれているので、肌触りはまさに極上です。
ほかにも、ネックラインを折り返したり、各所のステッチ数をすべて指定したり、キレイに見えるよう随所に工夫が凝らされています。
デビューして20年近く経つ定番にもかかわらず、昨年は約3000枚を突破。リピート率が高く、夏前に2、3枚まとめ買いする人が多いらしいです。
白無地Tシャツといえば、2枚セットになったアメリカの“パックT”がおなじみ。一般的なパックTは数千円のリーズナブル価格ですが、こちらは英国の高級ニットブランドが作った2万円超えのパックTです。
――2万円を超えるパックTがあるんですね!
稲田 その分、パフォーマンスは高いですよ。適度な厚みのある生地は、繊維長の長いスーピマコットン。シルクのような光沢としなやかな風合いが特徴で、肌触りもサラッサラ。 縫製にもこだわりがあり、身頃はシームレス仕様に。サイドに縫い代がないため、肌触りがよく、さらに着た時に体のラインがすっきり見えるんです。 もともとはジョン スメドレーのセーター用のインナーとして開発されたものだけあって、ニットやカーディガンと重ね着したときに、すごくバランスがいいんです。ただ、ネックも適度にワイドで、シルエットもややゆったり目。なおかつボディも適度な厚みがあるので、1枚で着ても格好よく見えるんです。 2枚で2万2000円とやや値が張りますが、ジャケットやカーディガンの下に着てもよし、1枚で着てもよし。“ヨソ行き”の白無地Tシャツとして重宝しています。値段の上限については?――たくさんの白無地Tシャツをお持ちですが、値段の上限についてはどうですか?稲田 私が買う場合、1万円台前半までが基準です。もちろんハイブランドの中には、4、5万円するTシャツはざらにあります。でもそれは、そのブランドのプレステージやデザインに感じるところがあるからお金を払うわけです。こうしたTシャツを買うのは、アートや美術品を購入する感覚に近いと思うんです。 その点、私にとって白の無地Tシャツは、ファッションアイテムであると同時に日常着でもあります。Tシャツ1枚で着ても格好よく見えて、かつ実用性も高いもの。こう考えると、自然と1万円ちょいのものがちょうどいいんです。――最後に1万円超えの白無地Tシャツの魅力をあらためて教えてください。稲田 白無地Tシャツと聞くと、ひと昔前のテレビドラマに出ていた俳優さんたちやハリウッドのセレブなんかを思い浮かべる人は少なくないはず。 でも、白無地Tシャツはどんどん進歩していて、今ではイケメン限定の服じゃなくなりました。着慣れないのは別として、白の無地Tシャツが似合わない、という人はまずいないと思います。 あれこれ小細工をする必要なく、着るだけで、誰でもインスタントに格好よくなれるのが白無地Tシャツのパワー。こうして話していると、また白無地Tシャツが欲しくなってきました(笑)。◆いなだ・いっせい/1983年神奈川県横浜市出身。スタイリストの吉野誠氏に師事後、2017年に独立。雑誌やWeb媒体ほか、ブランドのカタログや映画のスタリイングなど幅広い分野で活躍。ロードバイク選手としての顔も持ち、今年の「第19回富士ヒルクライム」では59分30秒のタイムを叩き出した実力者。(押条 良太)
稲田 その分、パフォーマンスは高いですよ。適度な厚みのある生地は、繊維長の長いスーピマコットン。シルクのような光沢としなやかな風合いが特徴で、肌触りもサラッサラ。
縫製にもこだわりがあり、身頃はシームレス仕様に。サイドに縫い代がないため、肌触りがよく、さらに着た時に体のラインがすっきり見えるんです。
もともとはジョン スメドレーのセーター用のインナーとして開発されたものだけあって、ニットやカーディガンと重ね着したときに、すごくバランスがいいんです。ただ、ネックも適度にワイドで、シルエットもややゆったり目。なおかつボディも適度な厚みがあるので、1枚で着ても格好よく見えるんです。
2枚で2万2000円とやや値が張りますが、ジャケットやカーディガンの下に着てもよし、1枚で着てもよし。“ヨソ行き”の白無地Tシャツとして重宝しています。
――たくさんの白無地Tシャツをお持ちですが、値段の上限についてはどうですか?
稲田 私が買う場合、1万円台前半までが基準です。もちろんハイブランドの中には、4、5万円するTシャツはざらにあります。でもそれは、そのブランドのプレステージやデザインに感じるところがあるからお金を払うわけです。こうしたTシャツを買うのは、アートや美術品を購入する感覚に近いと思うんです。
その点、私にとって白の無地Tシャツは、ファッションアイテムであると同時に日常着でもあります。Tシャツ1枚で着ても格好よく見えて、かつ実用性も高いもの。こう考えると、自然と1万円ちょいのものがちょうどいいんです。
――最後に1万円超えの白無地Tシャツの魅力をあらためて教えてください。
稲田 白無地Tシャツと聞くと、ひと昔前のテレビドラマに出ていた俳優さんたちやハリウッドのセレブなんかを思い浮かべる人は少なくないはず。
でも、白無地Tシャツはどんどん進歩していて、今ではイケメン限定の服じゃなくなりました。着慣れないのは別として、白の無地Tシャツが似合わない、という人はまずいないと思います。
あれこれ小細工をする必要なく、着るだけで、誰でもインスタントに格好よくなれるのが白無地Tシャツのパワー。こうして話していると、また白無地Tシャツが欲しくなってきました(笑)。

いなだ・いっせい/1983年神奈川県横浜市出身。スタイリストの吉野誠氏に師事後、2017年に独立。雑誌やWeb媒体ほか、ブランドのカタログや映画のスタリイングなど幅広い分野で活躍。ロードバイク選手としての顔も持ち、今年の「第19回富士ヒルクライム」では59分30秒のタイムを叩き出した実力者。
(押条 良太)