離婚はしたものの、子どもがいれば元夫と連絡をとりあうこともある。別れに際して憎悪が大きくなければ、それなりに“いい関係”を築く人もいる。
お互い納得ずくで別れたリサさん(40歳)が離婚したのは2年前。異業種交流会で知り合った6人グループの中のひとりと恋に落ちて30歳のときに結婚、共働きでひとり娘を育ててきた。
「離婚理由って、今になるとよくわからないんです。夫のことは人として信頼していたんですが、家庭生活に私が疲れてしまったのが原因かもしれません」
家事はどうしてもリサさんの負担が大きかった。くわえて夫の母親からの「2人目はまだ?」とか「いつまで仕事続けるの?」などのプレッシャーもあった。夫は母親に「うちのことは放っておいてほしい」と何度も言ってくれたのだが、母親には母親の心配があったのだろう。
「義母の電話には出なくていいと夫は言っていましたが、それも続くとかわいそうになっちゃって。結局、電話につきあわされて娘の食事が遅くなったり、予定が狂ってしまったり。それで私がカリカリして、夫はなだめるのに必死になったり。
義母は息子である夫には電話してこないんですよ。仕事で忙しいのに悪いって。私も完全に同じように仕事しているんですけどって思いますよね」
それでも義母につっけんどんにはできなかった。それが彼女の優しさだったのだろう。だが、そのことで時間に追われ、結局、娘との時間を犠牲にしたり家事を犠牲にしたりした。もちろん、それだけが原因ではない。
「夫が出張に出ると、気持ちがすごく楽になるんです。娘とふたり、『たまにはデリバリーでもとっちゃおう』と言って、簡単な食事をして、ふたりで映画を観たり、娘が読んだ本の感想を聞かせてくれたり。とことん娘と向き合える。
夫は子どもっぽいところがあって、彼がいるときにそういうことをしていると、娘の話を聞くより先に自分の話を始めてしまう。それが私にはイラッときていましたね」
あるとき夫が「また出張だよ」とぼやいたとき、リサさんはうっかり「私は楽できるわ」と言ってしまった。夫の顔が曇ったことに彼女は気づかなかった。
夫が出て行ってしばらくたって夫が「オレが出張に行くと楽になる?」と聞いてきたことがあった。
「『そんなことないよ』と言ったんですが、夫は『正直に言ってほしい』と。『ごめんね。正直言うとそう。あなたがいると子どもがふたりいるようなものだから』と言いました。
本人は家事をしているつもりでも、すべてが中途半端だから後始末は私がしなくてはいけない。『お皿を洗っておいたよ』とは言うけど、シンクの排水口のごみ受けはきれいにしてない。洗濯機は回したままで干さないし。そういうのが地味にストレスになるんですよね。彼が動くと、ああ、後始末しなくちゃと思うから」
わがままだと言われるかもしれないけど、とにかくすべてに疲れてしまったと彼女は言う。夫は彼女の関心が自分にはないと判断したのだろう。荷物をまとめて出て行き、ふたりは娘が小学校に上がったのを機に離婚した。それが昨年春のことだ。
「夫は近くに住んでいます。入学式の日の夜は、娘と3人で食事をしました。それ以降、毎週のように3人で会っています。娘と夫がふたりで出かけることもある」
いちばん変わったのはリサさんの気持ちだ。
「夫から言われました。口調や使う言葉、言い方が変わったと。フランクになったし、けんか腰にならなくなったって。自分でも気づかないうちに『いい妻、いい嫁になろう』と力が入っていたのかもしれません。
自分でも不思議なんだけど、今は夫に何でも言えるんですよ。結婚しているときに言えばよかったと思う。でもあのころは言えなかった。ひとりでがんばってひとりで怒ってたような気がします」
今は元夫だから、なにも期待していないのも、いい関係につながっているのかもしれない。気持ちとしては友だちであり、娘にとっては父と母。この関係がいいのだという。
「私と元夫との関係って、友だちで終わるべきだったのかなと思うことがあります。夫婦になるとうまくいかない。でも友だちならベストなんですよ。今は結婚前みたいに話がポンポン弾む。
娘は『パパとママはどうして一緒に暮らさないの?』と言うんです。『一緒に暮らすとうまくいかない、でも近くに住んでいるとうまくいくの』って言ったら、ふうんって」
どちらかが再婚するとか新たに恋人ができたとか、環境が変わったらどうなるのだろう。リサさんは、自分は当分、恋愛もするつもりはないときっぱり言った。
「元夫が再婚するなら、この状況をわかってくれる相手だといいなと思います。でもむずかしいですよね。少なくとも、元夫は娘とは交流をもってくれると信じたいですけど」
近所に住む「新たな家族の形」があってもいいのかもしれない。